6、動く屍 2
サンデさんの叫びの後、部屋を静寂が覆う。
聖女の仲間が、滅んだ島の生き残りだというのは、そこまで驚くことでも無いはずだが。
いや、彼女が驚いたのは、直系の部分か。
フェキシフトは、かなり増大な力を持っていたと聞く。その直系ということは、有体に言えば御曹司だ。
「ほ…ほ、ほんとうに…?」
「…嘘だとしたら、すっげぇ性格悪い嘘だぜ」
「じゃ、じゃあ…本当に!?うわーーっ、すっごーーい!」
「……は?」
今度はこっちが驚く番だった。今、確かに彼女はすっごいと言った。
その声は、明らかに興奮している。
「じゃあじゃあ、君ってホンモノの災竜を見たの!?えー良いなー!羨ましいー!」
興奮した声のまま、サンデさんはカイに詰め寄る。けれど今はそれより、彼女の発言の内容が問題だった。
「なに…言って……」
愕然とするカイに構わず、彼女はくるくると続ける。
「ねえねえ、君が見たのってどんな災竜だった?鱗の色は?瞳の色は?大きさはどれくらい?話せるタイプ?ねえってば!」
「ちょっと…待ってください!」
耐えられず二人の間に割り込んだ。
カイはもう、恐怖と困惑で震えて、言葉も出せなくなってしまった。これ以上、彼を追い詰めないで。
「サンデさん…あなたは、災竜のことを」
「大好きだよ!!だってロマンがあるからね!私は、ロマンが好きなのさ!」
「でも…だとしても!彼を追い詰めないでください!彼は…カイは、自分の故郷を滅ぼされているんですよ!」
彼女の勢いに押されそうになりながらも、必死に言葉を紡ぐ。
無理やり彼の過去を掘り返そうとするのは、僕ですらしたく無い。情があるなら、誰だってそうする筈だ。
「あ…ご、ごめん。ちょっと熱くなりすぎた。そうだね、君にとっては思い出したく無いものだよね」
サンデさんはすぐに落ち着きを取り戻し、カイに謝った。この人の変わり具合、目が回りそうだ。
「………いや、良いんだ。でも、話すのなら時間が欲しい」
「え、カイ!?」
予想外のことを言った彼に、驚き振り返る。
「…いつか、話さなきゃならなぇって思ってたんだ。今がちょうど良い。それに、話すことで屍人に関して何か分かる事が、あるかも知れないし」
「カイ……」
悲しそうな顔で、自身の過去を曝け出す決意を固めていた彼に、僕は何も言えない。
カイは、話すから整理のための時間が欲しいと言った。サンデさんは、いくらでも大丈夫だと了承する。
僕だけは、微妙に納得できなかった。
———
彼らを自身の部屋に帰した後、数分してエルギオと名乗った少年が、再び自分の部屋に来た。
カイルスという彼に詰め寄ったことを怒ってるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「単刀直入に聞きます、サンデさん。あなたは一体、なんなんですか?」
「あー…いやー。災竜好きは私の性分というか…」
「いや、それじゃなく」
手を振って、エルギオくんは違うと言った。
おや、それでも無いのか。じゃあなんだ、私なんかヘマでもした?
「…サンデさん。あなたはさっき、災竜について話せるタイプかどうかとか、聞いてましたよね?」
「———」
あー気づいてたかー。私がそんな事言っちゃってた事に。意外と鋭いな、この子。
どう誤魔化そうっかなぁ。下手に言うと、正体がバレそうだし…。
「…あなたは、災竜の中に話せる者がいる事を、知っていたんですか?」
あくまで理詰めで聞いてくる。私があんまり得意じゃ無いタイプだ。
うう…。本当にどうしよう。
「…僕は、聖女の仲間なので、災竜に接触することも幾度かありました。けれどあなたはただの観光業者のはず」
だけど何故あなたは知っていると、言外に聞いてくる。
……いっそ殺しちゃうか?
いいやだめ駄目。聖女の仲間は、どっちかって言うと私の味方側、なんだから。
「……ま、前にそう言う伝説を聞いたことが、あってね!しゃ…喋る、災竜伝説っていう!だから、そういうこともあるかなーって、思って!」
咄嗟に思いついた嘘を並べる。
どうだ。これで信じてくれるか?
エルギオくんは私の嘘を受けて、下を向いて考えている。
死角から放たれたような緊張に、数分必死で耐えた後。
「…分かりました。正直まだちょっと納得できない部分がありますけど」
そう言って、彼は一応は納得してくれた。
ふぅ、どうにかバレずに済んだ。
危うく、人生の意味が無に帰す所だった。
エルギオくんはお辞儀をしてから、去っていった。
そして、2時間ぐらい後になって、カイルスくんと連れ立ってやってきた。
———
カイを部屋に返し、サンデさんに疑問をぶつけた後、僕は部屋に戻らずに廊下で外の景色を眺めていた。
今、部屋の中でカイが自分の過去と向き合っている。だから、一人にしてあげたかった。
一度フェキシフト島跡から離れていたこの空船は、僕たちの要望で再び島跡に近づいている。島に降り立てば、屍人との戦闘は避けられない。その時、僕は『竜の奇跡』を使った方が良いだろうか。
(いや…やめた方がいいか。無駄な混乱を生んじゃう)
だから僕は、生身で戦わなければならない。サンデさんに宣言した以上、それなり以上の働きはしたいから、かなり難しい事になる。
(それでも…頑張らないと…)
メルリたちが追いついてくれば、出来ることは増える。それまでの辛抱だった。
と、そう決意を固めた時に、部屋の扉が開いてカイが出てきた。
「…っ!カイ…もう…」
「大丈夫だエルギオ。全部、しっかり向き合ったからよ」
そう言って、カイは歯を見せて笑う。その強さに僕はどうにもできず、拳をギュッと握った。
「おや二人とも。…その顔は、もしかして決心がつきました?ごめんなさいね、大体私のせいなのに」
「い、いえ…サンデさんは悪く無いですよ。えっと…何かありました?」
想定外に萎れている彼女に歩み寄る。さっきまでで何かあったのか。
それを聞くと、サンデさんは恥ずかしそうにいった。
「いや…君たちのことを上司に話したら…ああもちろん、概要だけですよ!守秘義務がありますので!…で、話したらめちゃくちゃ怒られまして…」
すごい人を雇ったところだなと思ったが、彼女の上司はちゃんとした人のようだ。
場の空気が緩んだところで、カイが咳払いををする。多分これは、ダックさんの真似だ。
「えっと、それじゃあ話しても良いですか?」
「あ、ああ!こっちは大丈夫ですよ!」
「分かりました。…えっと、滅びる前のフェキシフトは、ピリつきながらも明るい場所でした——」
カイはどこか遠くを見ながら、あくまで無感情を装って話し出した。
小さく震えていた彼の拳に、そっと触れるとゆっくり震えはおさまり出した。
これから、僕は彼自身がこれまで話したがらなかった彼の過去に、足を踏み入れる。
——紐解くは、フェキシフト島の崩壊の日。
——とある少年が、全てを失うまでの物語。




