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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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5、動く屍 1

「カイ!どうしたの、大丈夫!?」


座り込んでしまったカイは、次の瞬間には恐らく胃の中のものを吐き出してしまった。

弱い刺激臭が鼻につく。


「ちょ、ちょっと君、どうしたの!?」


列の前にいた観光客が、異変に気づいて近寄ってくる。

彼らに助けて乞おうとした時、突然列の前方から悲鳴が上がった。

しかも、聞いたことのある声。サンデさんの悲鳴だ。


「何!?」


列の前方を見据える。カイも顔を上げ、近づいてきた観光客もそちらを振り返った。


「……なに?」


同じ言葉で、でたのは困惑。

列の最前にそれはいた。その体に正気はなく、どう見ても死んで腐っているのに、動いている。

屍が、生きている。


その異様さに困惑と恐怖が混じり、一瞬の空白が生まれる。

その隙に、その屍は引きずっていた剣を列の最前にいた観光客に振り下ろした。


バシュっと。

糊付けされた紙を刃で無理やり割いたような、軽い乾いた音。

次の瞬間には、その観光客の体から、鮮血が噴き出していた。


「———ぁ…?」


「い、き、きゃああああっ!」


「うわあああっ!血がっ!?」


一瞬の無理解の後、その場を忽ち恐怖と混乱が覆い尽くす。

僕は、考えるより先に飛び出していた。

彼女なら、メルリならそうやって、まず目の前の人を助けようとするからだ。


「離れて下さい!切られた人は後ろに下がらせて!」


叫びながら、周り人を落ち着かせて動く屍から距離を取る。

そこでどうすべきか迷う。

当然竜にはなれない。一応、カイにつけてもらった修行のお陰で、ある程度人のままでも動ける。

けれど、こっちは生身で相手は剣だ。


(剣を、奪うか…!?)


それだって危険を伴う。けれど、かと言って生身で挑めば負ける。

迷っている時間はなかった。

屍が再び剣を振り上げる。今度は一番前に出ている僕を狙うつもりだ。


(……仕方ない!)


腹を括って意を決したその瞬間、横から入り込んだ影があった。

カイだ。

まだ顔色は悪い、けれどしっかり屍を見据えている。そして、その手にはずっと持ち歩いてきていた剣が。


「…ふっ!」


短い気迫と共に、カイの腕が流れるように剣を動かす。

素早く、しかし重く、正確に剣を動かすそれは、フェキシフト剣術と呼ばれている。僕も少し彼から教わっているが、かなり難しいものだ。


ズパッっと。

不意をつかれた屍は、一瞬の抵抗しかできずに、胴と腹を離された。

固まって黒くなった血が屍の体から噴き出し、力を失って倒れる。


「うぷ…おい、大丈夫か!」


「……う、うん…」


まだ辛そうにそう言いながら、カイは剣をしまって僕達に振り返る。

呆気に取られていたが、ペミーが『奇跡』を得るまで、彼は仲間の中で一番強かったのだ。メルリのお墨付きで。


「サンデさん。斬られた人は?」


「あーえっと。お客様の中に医者がいましたので、彼に任せました。傷は浅かったっぽいですし、大丈夫でしょう!」


落ち着きを取り戻しながら彼女に聞くと、思ったより明るい返事が返ってきた。

さっき叫んだというのに、彼女はもういつも通りだ。


「……!おい、あれ!」


カイが何かに気づいて叫ぶ。

振り返ると、あの岩山の影から、新たな動く屍が現れていた。

…その数7、8。


「一対多は、流石に無理だ!」


「…皆さーん!観光は中止です!空船に戻りましょーう!」


カイが言わんとしていることを察したサンデさんは、よく通る声でそう叫び、観光客たちを誘導し始めた。

その手腕は見事なもので、あっという間に二、三十人はいた観光客をその場から離した。


「カイ!」


「おう、分かってるぜ!」


頃合いを見て、僕らもその場から離脱した。

港跡に走って向かうと、すでに全員船に乗り込んでいた。

振り返ると、もう屍は追ってきていない。それでも念のため、僕らも乗った空船は港を離れた。


空船は、島跡から少し離れた所で停止する。

その時になって、僕とカイは広話でサンデさんに呼ばれた。


「まずは感謝します!あなた達のおかげで、誰も死にませんでした。ありがとうございます!」


「ああいや、僕達も咄嗟だったので…頭を上げて下さい。困った時は、お互い様でしょう?」


開口一番頭を下げた彼女にそう言う。怪我人一人で済んだのは、正直運が良かったところもある。

お互いの現状を確認したところで、カイが切り出した。


「…んで、ありゃなんなんだ…。屍が…動く、なんてよ…」


「………恐らく、屍人(しびと)、でしょうね」


「シビト?」


多分、サンデさんはあの動く屍のことを僕達に知らせるために、広話で呼んだのだ。

あれはシビト、と呼ぶのか。


「はい。大昔にあったとされる、伝説なのですが——」


そうして、サンデさんは恐る恐る話し出した。これまでの少し気の抜けた声色は、どこにもない。

彼女にとって、それほど重い話だというのだろう。



—昔も昔、遥かな昔。人々が今より高度な文明を築いていた頃。


—ある知識人が、死んだ人を蘇らせようとして、禁術に手を出しました。


—今より高い技術がごろごろ溢れていたその時さえ、危険だとされていたものです。


—術は失敗し、蘇った屍は手当たり次第にヒトを襲う化け物と成り果てました。


—彼の高い技術で、屍人と名付けられたそれを操るとこまではできましたが。


—結局そこ止まりで、その屍人は改めて殺されました。



「…っと。これが俗にいう屍人伝説です。いやーオーバーテクノロジーだと思っていたのに、まさか屍人が現代に甦るなんて!」


そうサンデさんは興奮していたが、こちらはそんな気分ではない。


「サンデさん…なんでそんな事知ってるんですか?800年前の『大災害』で、それより前の記録は殆ど残ってないのに」


世界中に甚大な被害をもたらした『大災害』。それより前の記録はほぼ全て燃えてしまい、当時のことは殆ど分かっていない。

ただ、今よりは発達した文明だったのだろうと、根拠なく思うだけだ。


「あっ!?え、えーと………まあ……観光業をしてると、色々あるんですよ!」


明らかに動揺するサンデさんに、疑惑の目を向けたくなる。

が、それはひとまず置いておいて。


「それじゃあ…屍人はどうやって止められるんですか?」


「いや、それは私も知りたいですけど…というか君達、彼らと戦うつもりなんです!?危ないですよ!」


「大丈夫です」


カイの疑問に僕達の目的を悟った彼女が、慌てて止めようとしてくる。僕はそんな彼女を落ち着かせて、自分たちの正体を言った。


「…実は僕達、聖女メルリの仲間なんです。困っている人は助ける。どうにかして、あの屍人たちを倒します!」


元々聖女は、人々を災いから守るとされる存在だ。

災竜だろうと屍人だろうと、人に害をなすなら僕達で片付けるだけだ。

僕らがなんなのか知ったサンデさんは、ピッタリ数秒硬直して、周りに聞こえそうなほど大きく驚いた。



「さてと…そんじゃ具体的にどうするか、だよね!何か意見はあるかい、聖女の仲間クン達!」


そこから1分後。サンデさんは、あっけなく驚きから立ち直った。

この人、本当に切り替えが早いな。

と、呟くようにカイが口を開いた。


「……あいつら、元々フェキシフトの島民だ」


「え、なんで分かるんですか?場所的におかしくは無いですけど」


「……あいつの持ってた剣。フェキシフト製ってことを示す印があったんだ」


「…なんで分かるんですか?そんな、島の内部情報…」


聖女の仲間ということだけで、僕達は個人的な名乗りはしていない。

それを示すように、少しずつサンデさんの顔が歪んでいく。

彼女も、自分が今から何を言われるか察したのだろう。


「………俺の本名は、カイルス・フェキシフト。フェキシフト直系の、最後の生き残り…だから」


僕は耳を塞いだ。

案の定。数秒後に、本日二度目となる彼女の驚きが部屋に響いた。

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