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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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3、対立

「思ったより朝に弱いんだな、エルギオって」


いつも通りの口調でそう言いながら、カイは近づいてくる。


「おはよう、カイ。…ええと、なんで僕、空船の部屋にいるの?」


「ああ…まあ、俺が乗せた。一緒に、行きたい所があってな」


僕の質問に、一瞬躊躇うような仕草をしてから、彼はそう言った。

そこで気づいた。彼がなんだか、いつもと違う。

表情や声などの表面上の物はいつもと変わらないが、纏う雰囲気にどこか張り詰めたものがあった。


「どういうこと、カイ?メルリたちは?この空船、何処に向かってるの?一緒に行きたい所って…」


「まあまあ、落ち着け。一つずつ話すから、まずは聞けよ」


そう笑いながらいうカイだが、笑っているのは声色だけだ。まとう雰囲気も表情も、笑っていない。


「…今この空船はな、フェキシフト島跡に向かってる。観光船ってやつだ」


「…ハーマレーの港に、止まってたやつ?」


そうだとカイは肯定して、薄暗い中背負ってくるのが大変だったと続ける。

その言葉が示している事に、直ぐに気づいた。


「まって…メルリたちとは、一緒じゃないの、僕たち?」


「………俺たち二人で、フェキシフト島跡まで行く」


彼女らに内緒で、空船に乗ったというのか。カイは確かに落ち着けない所があるが、こんな事をするほどとは思えない。

おまけに彼の纏う雰囲気のせいで、嫌な予感が絶えない。


「…どういう事…なんで?」


「……俺、順序立てて説明すんの苦手だから、大事な事から言うな」


彼が纏う雰囲気が、さらに緊張を帯びる。微かに身構えながら、僕は彼の言葉を待つ。

呼吸ひとつしてカイはしゃがみ、見上げていた僕と視線を合わせて言った。


「エルギオ…お前の能力で、災竜を釣る。そのために、フェキシフト跡に向かってんだ。人が多い所だとまずいからな」


何のためにと、疑問の視線を僕から受けて、カイは少し押し黙る。が、やがて思い切ったように言った。

…なんとなく、その理由は察せたが。


「俺の、復讐の為だ。俺の故郷を滅ぼしたやつを、お前の能力で誘き出す。誘き出して、殺す」


剣呑な光がカイの瞳に宿る。それに怖気付きそうになるが、必死に堪える。


「復讐の、為…」


そのために、自分の力を利用すると言うのか、彼は。この、災いのような力を。


「ああ…だから今は」


「それは、嫌だ」


気づけばそう言っていた。

カイの驚きの前で、自分の口からこんなに直情的な言葉が出たことに、自分でも驚く。

でも、言った言葉は嘘ではない。


「…自分の力のせいで、関係のない人が死んだかもしれない。そう思うと辛いけど、でも、それでも自分の力だ」


ゆっくりと、説得するように言葉を紡ぐ。

他でもない、家族のように大事な仲間に使われる事自体は別にいい。それが復讐以外の、例えば力仕事とかなら。


「…僕だけの力なんだ。それを、君の復讐の為には使わせられない。それに…」


それに。

他でもない、災竜を殺す為の力として使われるのは。

それだけはできない。


「僕は、災竜とは、話したい。レイナやアドルオさんのような人なら、話し合いで何とかしたい」


自分の意中をしっかりと吐き出す。難しい事だというのは分かっているが、だからといって諦めたくはない。


「だから……カイ?」


場の空気が冷たくなっていた事に気づく。

胸に冷えた手が当てられたようだ。


「……っだ」


「え?」


「…無理だ。それは無理なんだよ!」


ぶち撒けるように、突然カイは叫んだ。

それは初めて自分へ向けられた、カイの激情だった。


「じゃあなんだよ!お前は、自分の全てを奪ってった奴を、話し合いだけで許すってのかよ!」


「カイ……」


「出来ねぇだろ、そんなの誰も!殺したいほど憎い奴が、のうのうと生きていく事を見逃せるか!?無理なんだよ!」


「カイ、でも…」


「もう消せないんだよ、あいつへの憎しみは!そのために…その為だけに生きてきたんだ。毎晩毎晩、()()()()()()()()()()()!」


そこでカイは一旦言葉を区切り、はあはあと息をついた。


「…だからって、僕を理由するなんて方法を取るのか、君は。君の復讐なら、君だけでやるべきだ」


「…っ!うるさい!そんなのどうだっていいだろ!」


出来た空白に放った言葉に、カイは首を振りながら反論する。

でもその隙は見逃さない。

敢えて声を荒げる。僕まで声を上げたら隣の部屋の人たちにも聞こえてしまうだろうが、この際関係ない。


「よくない!何も生まない自分だけの復讐に、自分以外の誰かを巻き込むのは、間違ってる!…少なくとも、僕はそう思ってる!」


「…なんだよ、それ。理論じゃねぇんだよ、仕方ないだろ!人の気持ちも知らないで…」


「そうじゃなくて、カイ!」


「ああ、そうだよな。知らないよな、分からないよな!分かるはずねぇよな!…だってお前、ヒトじゃねぇんだもんな!」



……。



…………。



不意に投げられたカイの叫びの後、場を冷たい空気が覆った。

胸を、強く殴られたような衝撃。

直後、カイも自身が何を言ったのかを理解して、色を失う。


「……ぁ……すまん……言いすぎた」


「……」


彼は失言した。

それを彼自身は反省した。

だからあとは、自分がそれを許せば終わる。


「……っあ…」


けれど無理だった。

気づけば目から雫が流れていた。次々と、止められないほどに溢れ出した。


「ほんとに……ごめん…」


彼の声が小さくなっていく。

今すぐ顔を上げて、大丈夫と言わなければならないのに、僕は顔を両手で覆っていた。

かつて感じたことのないほど、精神的な痛みに悶えていた。



「ちょっとちょっと!一体何があったんですか!」


突然、抜けたような声が響いた。

視線を上げると、カイの横に空色の服をぴっちり着込んだ女性が立っていた。桃色の巻き髪を、服と同じ空色の帽子に納めている。


「あ、もしかしてケンカですか?」


「えっと……はぃ…」


自分と同じく困惑しているカイが、正直に答える。さっきまでの負の感情が、宙ぶらりんになっているのが分かる。


「あー!ケンカはダメですよ!ほら、幼い子には喧嘩をさせよとよく言いますけどね…あれこれ違う?火事と喧嘩は…あ、これも違うな…まいいや。とにかく」


咳払いをして、女性は続ける。

完全に置いてかれた僕とカイは、ただ茫然と彼女を見るだけ。


「ケンカして辛くて、気まずくなったら一緒に旅をしましょう!世界の名所を回るうちに、気まずさなんて飛んで行きますからね!」


「あの…あなたは…?」


「え?…ああすみません。まだ自己紹介してませんでしたね!」


なんとか絞り出したであろうカイの質問に、女性はタハハと笑う。

なんだろう。この豪快で空気の読めなさは。

かなりしっかり笑った後、女性は改めて名乗った。


「私は、メンタル観光商会にてガイドを務めており、今回フェキシフト島跡航路になりました、サンデ・サンドイッチです!」


変な名前だとか言わないでくださいねと語尾につけて、女性はポーズを決めて笑う。

正直情報を処理しきれていないこっちは、そんなこと言える余地もないのだが。


「そんなわけで!ケンカしたなら、私のツアーに参加しませんか!参加しますよね!参加しましょう!」


「いや、あの…ちょっと」


カイがサンデさんに訂正を入れようとした時、空船の広話が響いた。


『間も無く、フェキシフト島跡に、到着いたします。降りる方は、下船の準備をお願いします』


「お、丁度いいですね!それじゃ、下船したら、この服と同じ色の旗が立ててあるところに来てくださいね!」


そう言いのことすと、カイの静止も無視して彼女は早歩きで去っていった。

後には、微妙な空気になった僕とカイが残された。

雲の先に、島影が見え出していた。

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