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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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20、決着

アドルオさんが死んだ。

途端、ロキが泣き崩れる。

その気持ちは痛いほどわかる。けれど、何も出来ない。


「……」


胸に苦いものが広がる。何故、こうも上手くいかないのだろう。

ただ、悔しさだけが、ぽっかりと穴が空いたようになってしまった心に浮かんだ。


ふと、降りていた視線を上げる。

彼の心臓辺りから、緑色の光の玉が浮かび上がっていた。


「これは…聖痕?」


レイナの時も、こんな感じだった筈だ。

緑の光を放つアドルオの聖痕は、流れるようにペミーに近づいた。

困惑しながらも耳を伸ばした彼に、聖痕『血牙の紋章』は入り込んだ。


「ペミー…ロキ…」


静かになった場が堪らなくて、心話で二人に話しかける。話しかけてみても、次に何を言えばいいか迷った。


その、一瞬できた空白に、咆哮が挟まった。


「…っこれは!?」


次の瞬間、空岸から大きな赤い影が飛び上がった。一瞬で、それが何なのか気づいた。


「—アルガイアっ!!」


僕が奈落に投げ落としたアルガイアが、小さな傷をつけながら戻って来たのだ。

やられたのに、奴はまだ懲りてないようだ。


「…おまえ、は!」


出来るなら、彼の友人を憎みたくない、恨みたくない。

けれど、彼が死なせたのは奴なのだ。

それに奴は、カイにも致命傷を負わせている。メルリ達が何とかしてくれているといいが。


「二人とも、ここを離れて!」


ロキとペミーに心話で伝える。

けれど。


「俺も、戦う!」


さっきまで泣いていたはずのロキが、そう宣言した。

見ると、彼の耳についていたアドルオの血が、灰のように消え出していた。アドルオの銀の体も、消え出している。


「…ぼく、も」


片言の人間語でそう言ったのは、なんとペミーだった。

彼には戦う力など無い。咄嗟に静止しようとしたのを、ロキが止めた。


「こいつ、『加護』が開花した」


「え?」


「我ら強者のケイが持つ、『耳拳の加護』が、今やっと開花した。俺、分かる」


見ると、ペミーを緑色の光が覆っていた。

…よく分からないがつまり、ペミーもロキのように戦えるようになったということか。

いやでも、しかし。


「———っ!」


悩んでいる暇はなかった。

アルガイアが突っ込んできた。それを必死に抑えながら言う。


「っ分かった!でも、無理はしないで。絶対に!」


彼らが傷付いたら、メルリが悲しんでしまう。

僕の声をしっかり聞いたのかどうか、二つの小さな毛玉が、アルガイアに飛びかかった。


———


「ちょ、ちょっとダックさん、どこいくの!?」


今さっき回復して、起きたばかりの背中を追う。

事情を伝えたら、弾かれるように部屋を飛び出したのだ。病み上がりなのだから、激しい動きはしないでほしい。


「船長室だ。見せたいものがある。きっと、メーレンさんが持っていてくれるはず」


「見せたいもの…?」


「…アドルオさんがかつて記していた、古文書の一つだ。今朝、ようやく翻訳できたのだ」


船長室に行くすがら、ダックさんはそう説明した。確か、アドルオさん本人がダックさん達に解析させていたものだ。


「何が、書いてあったの?」


聞くと、ダックさんは厳しい顔をした。

それに不安を感じたのと同時に、船長室に辿り着く。


「…ダック様、回復されたのですね!」


私たちが入って来たことに気づいたメーレンさんが、安堵の声を漏らす。

が、ダックさんはそれに頷きだけで答えた。


「今はそれより、今朝のものはどこに?」


ダックさんの声を聞いて、メーレンさんも顔を引き締める。そして、何も言わずに指で船長室の机を示した。

空図などが机の上に広がっている。その中に、大事そうに瓶に入れられた紙があった。


「…これが?」


「ああそうだ」


唾をごくりと飲み込む。遥か昔に書かれたもの。二人の様子から、中身がただの日記などではないことは分かる。

中身を飛び出しながら、ダックさんは続ける。


「古文書の中身は……エルギオが持つ、能力の詳細。そして、理性のない災竜の目的の、考察だ」


———


襲いくる腕を捕まえて、大振りに振り下ろす。

アルガイアの巨体が、一瞬宙に浮いて地面に叩けつけられる。

轟音と揺れに、アルガイアの悲鳴のような鳴き声が混ざる。


(身体中が…熱い…っ!)


立ち上がるアルガイアから距離をとって、僕は頭を振った。

先ほどから、脚の先から頭の上まで、沸騰したような熱に冒されている。下手をするとその熱に飲まれて、理性を失ってしまいそうだ。


(それに、さっきから変だ…)


体が熱くなり出してから、自分の力が倍増したように感じるのだ。ギルギを殺した時のように。

なんだこれは。


「いくぞっ!」


オヤ(分かった)っ!」


くらついた僕の両端から、一匹ずつ小さな生き物が飛び出した。

二つの玉のような彼らは、跳ねるように飛び回り、耳をぶつけてアルガイアに攻撃していく。


『竜の奇跡』には五感を鋭くさせる力があり、人間の頃より反射神経は良くなっているはずなのだが、それでも目で追うので必死だ。


(すごい…アルガイアが、完全に翻弄されている…!)


二人のメムリット族が、災竜を一方的に殴っている。太い牙や爪の攻撃を掻い潜り、確実に攻撃を与えている。

メムリット族と災竜では、蟻と山ほどの大きさの違いがあるのに。


「…ペミーは…」


息を整えながら呟く。

彼らはどうやら、メムリット族の中でも戦える血筋のようであり、その理由は先程ロキが言っていた『加護』なのだろう。

ペミーはついさっき加護が開花したらしい。なのに、ロキの動きに完全に合わせられている。


「……っ!お前、凄すぎないか!?」


と、二つの玉が、跳ねてアルガイアから僕の元に戻って来た。その時にロキがペミーにそう言った。

ペミーがロキに、彼らの言葉で答える。ロキはそれを聞いて、余計驚いた。


「考える前に体が動くって…俺、何年も特訓して来たのに、それに合わせられるなんて。お前のそれ、『加護』じゃない」


「『加護』じゃない?」


思わず聞き返す。元々、僕にも分かるように人間語を使ってくれているのだろう。ロキは頷いて続けた。


「うん。何年もの研鑽を一瞬で埋める。…俺も信じられないけど、これはもう、『加護』じゃなくて『奇跡』に近い」


「な…」


言葉を無くす。

『奇跡』とは即ち、今自分が使っている竜の力と同程度のもの。

そんなものが、何故突然……。


「グオオーーっ!」


「…!詳しく考える暇はないみたいだっ!」


二人の攻撃で、所々鱗を剥がされたアルガイアが、怒りと共に突っ込んできた。

体の大きさがほぼ同じくらいの僕が、アルガイアの体を抑える。衝撃が身体中に走るが、我慢だ。


途端に、二人が飛び出しアルガイアにちまちま攻撃を与えていく。

両腕は僕が抑えているので、奴は二人の攻撃を受けるしかない。


「決めるぞっ!」


オヤ(分かった)っ!」


幾度目かの攻撃の後、飛び上がったロキがそう叫び、ペミーが応答する。

二人の耳が、薄く緑に光り出した。


「…っ!?」


そして、かなりの高度から光る耳を、アルガイアの翼の付け根目掛けて、振り下ろした。

二つの重なる声と共に。


「「ザン・ラ・メール(耳拳雷光落とし)——!!」」


それは、二つの血筋に伝わる、秘伝の技。

空から落ちる光の様に、相手を打ち滅ぼすもの。

これまで聞いた中で一番鋭い音が響く。アルガイアが、これまでのそれとは段階の違う悲鳴を上げる。

…アルガイアの翼が、二つとももげていた。


「後は任せてっ!」


力を使い切ったのか座り込んでしまった二人に告げて、体に流れる熱に任せてアルガイアを持ち上げる。

アルガイアの顔が驚愕に歪むが、それは僕も一緒だ。この正体不明の怪力には、自分ですら恐ろしい。

それでも、使えるなら使うまでだ。


「ガアア———!!」


「…っ暴れるな!」


持ち上げたまま、島の端へ飛ぶ。翼があってさっきは戻って来たしまったが、今度はそうはいかない。

と、アルガイアが体を縮こませた。

まずい、と思う間もない。


アルガイアが能力を使い、太い棘が幾つも現れる。

それらはアルガイアを持ち上げていた手や腕に刺さり、一つは肩を貫いた。


「ぐっ…!」


押し付けるような痛みに顔を歪ませるが、これで手を離すほどやわではない。

両腕に力を込めて、肩に刺さった棘を無理矢理に抜く。

そして。


「—おらあぁっ!!」


ギャアギャアと騒ぐアルガイアを、力任せに奈落に投げ落とした。

彼にはもう翼はない。永遠に落ち続けるか、もしかしたらあるかもしれない地面に叩きつけられるか。


どちらにしろ、決着はついた。

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