表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
75/167

19、サイレント・ガーディアン

ロキは、それしかなかったのもあるが、距離を置かれていた自分と関わってくれた。

同じ言葉を話すようになって、同じ景色を見るようになって。


気付けば自分は、彼のために動くようになった。一挙一動、彼に合わせて動くようになった。


(これは…)


どこか達観したような彼の言葉も、その中に見え隠れする年相応の子供らしさも。

絶景に対して、純粋にはしゃぐ様も。雨に打たれて風邪をひき、完全に弱っている様も。


(これは、違う…)


ロキの全てを、忘れたくないと思った。遥かに小さい動きまで、見逃したくないと思った。

彼が何で笑い、何で悲しむのか知りたくなった。


(これは、庇護欲じゃない…)


彼のために、自分は生きるようになった。

自分はどうしてこの感情を知らなかったのだろう。遥か昔に、妻子はいたのに。

それが何なのか知っていながら、何を怖がっていたのか自分はその感情を無視していた。


「アドルオ!またお腹の下に入って良い?」


「良いですけど…あなたは本当に、私の腹が好きですね…」


「だってアドルオ、あったかいんだもん!」


そんな中途半端なまま、彼との擬似的な家族の日々が続いた。こんな日が、ずっと続いていけば良いのにと、弱気になって思ったこともあった。

永遠などない事は、分かっていたつもりだったのに。



「…今から6年後、災竜を滅ぼす聖女が現れるだろう。そして聖女は、そなたらの聖痕を求めるだろう…ってね」


突然この島を訪れた彼は、そんな預言を自分に伝えた。

腹の辺りに咄嗟に隠したロキにも、聞かれてしまった。


「…おっと忘れてた。もう一個あったんだ」


「……なんですか。また預言ですか」


早く立ち去って欲しかった。

彼は、自分がメムリット族を守っていることは知っていたようだったが、ロキのことは知らないはずだ。

何故だか同族に、彼のことを知られたくなかった。


「いや。こっちはちょっと個人的な…まあ、ただのお節介だよ」


そういって、彼は自分に小声で耳打ちして来た。


「あんまり、メムリットと関わんない方がいいよ。僕らと彼らは寿命が違うんだから、深く関わった分泣きを見るのは、君だよ」


それは、腹に隠した彼のことを見透かしているような言葉で。

あなたには関係ないと、珍しく激情してしまった。

その後も自分は、少しの間その言葉の衝撃から立ち直れなかった。



「アドルオはどうするの!死ぬ運命ってやつを…う、受け入れるの!?」


いつしか、守ると誓った彼が泣き叫ぶ。預言を聞かれて、聞き流せるほど彼は弱くなかった。

彼の言葉を聞いて、自分は改めてどうしたいか胸に問うてみる。


当然、死にたい生き物なんていない。生きれるなら、生きてゆきたい。

けれども、それでも情報通の彼の忠告が耳に残った。


自分と彼は、寿命が違う。いつまでも一緒にはいられない。

…結局まとまらず、ロキにはそれっぽいことを言って終わった。


「聖女が来るまでは6年あります。その間に、やりたいことをしましょう。何かありますか。できる範囲ですが、答えてみせるつもりです」


自分で言ってて恥ずかしい。なんだそれ。

そんなの、ただ逃げてるだけじゃないか。

運命からも、ロキからも。


けれども仕方ない。ロキが辛そうな顔をするのを、見てられなかったのだ。

最後の時ぐらい、彼には笑っていて欲しかったのだ。

けれど。


「アドルオ、俺、強くなりたい」


彼はそう答えた。

自分に負けないくらい、強くなりたいと言った。

それは。

血筋とか、強者とか、そんなことを理由にしていたけれど。


「…分かりました」


本当は、自分を、殺してあげるために。

分かってしまうと、もう何も言えなかった。彼の提案を了承する自分の顔は、さぞ歪んでいただろう。


自分は、ロキからも、自分の運命からすらも逃げたのに。

ロキはそれでも向き合ってくれた。

自分が恥ずかしくなった。彼を育てた身として、親として自分がすべきことは。


「…戦闘中に、考え事をしてはいけませんよ」


「…アドルオは、何も考えてないの?」


「……そういう話ではないです。揚げ足を取らないで」


ただ、彼の願いに全力で応えることだった。

彼は少しずつ、けれども確実に強くなっていった。

このままいけば、いつか本当に自分を殺せるかもしれない。


「…ぷっ、あははははっ!」


恥ずかしさを感じながらも、ロキの笑顔からは目を離さない。

時間制限のついた日々だからこそ、一瞬一瞬を忘れたくなかった。



時間切れだ。

ついに聖女が島にやって来た。

そこで自分は、彼女ら命を差し出すことにした。

ロキの願いに応えたいのも本当だったけれど、彼に親殺しをさせたくなかったのも本心だった。


そして、紆余曲折あって。

今、死にかけの自分は、目の前で崩れそうなロキをただ見つめていた。


自分が死ぬのだと察して、まず悔しさが溢れた。

結局、かつて自分が何を守っていたのかという問いの答えは、見つからなかった。

けれどまあ、それはもう別に重要じゃなかった。


「—ロキ、絶好の機会でしょう…?あなたの、本当にやりたいこと…」


その言葉だけで、君は察せてしまう。

小さい体が、恐怖と覚悟の板挟みに震えている。

それに手を伸ばしたい。抱きしめてやりたい。


(ああ…)


少しずつ、少しずつ強くなっていく君を、もうちょっとだけ見たかった。

自分は駄目な親だった。結局、君に親殺しをさせてしまうのだから。



「アドルオは、あったかいね」


なのに。

ロキは、私の体に触れて、そんな事を言った。

体温のない、鱗だけのこの体に。

涙が溢れた。この島に来てから、もしかしたら近衛兵に任命されたあの日から、流したことのない涙だった。


「——っロ、キ」


ああ、自分はこんなにも弱くなってしまったのか。これじゃあ近衛兵失格どころか、何も守れないじゃないか。

けれどなぜだろう。それでも良いと思った。


「あなた、も……」


その先は、言葉にできなかった。けれど聡明な君は静かに頷いた。

今になって、今になって願ってしまったのだ。

運命も、君の親殺しも、受け入れていた筈なのに。

ペミーという彼の言葉で、彼の記憶を聞いたせいで、願わずにはいられなかったのだ。


(わたしの……ねがい、は……)


最後に、何よりも大事な。

温かい君のぬくもりを、感じたい。


「……おやすみ、アドルオ…」


死ぬことも出来ず、惰性で何百年も生きてしまった、死に損ない(オリヤ・メイ)。親を亡くし、誰も拒絶した、イーリスの誇りの残骸(オリヤ・メイ)

孤独な二人の命は、迷いと決断の末に、お互いのぬくもりに出会えた。


「——っ」


あらゆる感覚が、消えていく。

音も色も、味も匂いも。君に触れられている感覚すら、消えていく。

その暗黒の中で、自分は小さく笑ったのだろう。


(ああ……あったかい…なぁ………)


昏い坂を滑り落ちていく。

その最後まで、君のぬくもりを感じながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ