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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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18、オリヤ・メイ 3

頭が痛い。

さっきから、ギンギンと頭痛がひどい。

頭痛に耐えながら、僕は横で震えているロキに顔を向ける。


「…で……なん、で、知って…」


アドルオは、ロキの真意に気づいていた。気づいていながら、彼の思いに応えていたのだ。


「…私が、気づかないわけ…ないじゃないですか」


アドルオが、血を吐きながらそう答えた。

ロキが、ゆっくりとアドルオに近づいていく。

死にかけの今、アドルオを殺すというロキの目的は容易に達成できる。

…ああ、本当に頭が痛い。


「…ア……アドルオ、今…」


ロキの声が震えている。

子が、死にかけの親を、殺そうしている。

頭が痛い。いたい、いたい。



——同じような情景だったからか、流れるように記憶が掘り起こされた。

震えながら、鋭い石を持つ自分。

目の前に、死にかけの両親。

…これは。


(無くしていた…記憶…)


忘れようとしていた、親にとどめを指す、その瞬間。


「…⬛︎⬛︎⬛︎…泣かないで」


母親の声がした。

泣きそうな顔で、かつての自分の名前を呼んでいる。


「…私たちは…嬉しいのだよ」


父親の声がした。

ボロボロの顔に、笑みを浮かべている。

なんで、と自分は言ったのだろう。

なんで嬉しいのだ。今から自分たちは、死んでしまうのに。

二人は顔を見合わせてから、ゆっくりと口を開いた。


「だって——他でもない、⬛︎⬛︎⬛︎の手で逝けるのだから…」



「…ロキ」


「やめろよ!」


話しかけたロキが、苦しいものを振り払うように首を振った。


「俺は確かに言ったさ!アドルオを…殺してあげる…って!…でも、でもさ…本当は」


「…うん」


叫ぶ内に、ロキの声に涙が混じる。

自ら死にたい生き物なんていない。同時に、大事なヒトを自ら死なせない生き物も、いない。


「…殺したくない。もっと、もっと一緒に居たいよ…!」


「……うん」 


必死に隠して来た本音が、今になってぶち撒かれる。それを僕は、ただ静かに受け止める。


「……ロキ」


その叫びが、地に染み込むように小さくなった時、僕は語りかけるように話しかけた。


「ロキ、アドルオを、しっかり見て」


「…は」


「思い出したんだ。親が死んだ時のことを。…僕のそれが、君のそれと同じかどうかは分からないけど」



あの時の自分も、ロキと同じように親にとどめを()()()()()()

けれどその時、両親はそれを責めなかった。それが、自分を余計追い詰めた。


「ご…ごめん、なさい……最後まで、何も、出来なくて…っ!」


最後の願いさえ、自分は叶えられない。ダメな息子で、一族の恥で、死に損ない(オリヤ・メイ)

そう泣き叫ぶ自分を、両親は最後の力を振り絞って抱いた。


「っ!?う、動いたら…っ!」


「良いんだ、⬛︎⬛︎⬛︎……」


両親の腕に抱かれ、そこで初めて自分は知った。その体の、その命の温かさを。

止まらぬ涙が、少しずつ消えていく温かさに零れていく。


「ごめんなさいね、⬛︎⬛︎⬛︎…あなたは、一族のことを嫌っていたのに…」


「苦しんでいるのは、分かっていた。私達のことも、嫌いかも知れない。でも…信じて欲しい」


体が軽く、冷たくなっていく。自分はただ、二人の声を最後まで聞くことしかできなかった。

二人の温度を、最後まで感じることしか。


「……ああ。⬛︎⬛︎⬛︎は、あったかいなぁ……」


それが、両親の最後の言葉だった。

泣きながら、涙と嗚咽でぐちゃぐちゃになりながら、それでも僕は最後まで、二人の温もりを感じていた。



「アドルオは…君に倒されたいんじゃ、ないんだと思う」


最愛の息子とは言え、殺されたいとは思わない。親殺しなんて、させたくない。

そうじゃなくて、アドルオがして欲しいことは、きっともっと単純で。


「………」


ロキが、アドルオに向かって歩き出す。

言いたかった事を察したのだろう。彼はその耳を、アドルオの体にそっと触れさせた。


「ロ、キ…あなたの、願いを……」


「僕の願いは、アドルオの願いを、叶える事だよ」


アドルオが浅い呼吸を繰り返しながら、ロキを見る。その瞳は、どこか困っているように見えた。


「…私の願いは」


「アドルオ」


再び、口を開きかけたアドルオを、ロキの言葉が遮る。

彼は、彼の体全体をアドルオに寄りかからせた。そして、絞り出すように言った。


「……アドルオは、あったかいね…」


アドルオの目が見開く。

そして、その瞳から、静かに雫が溢れ出した。


———


「アドルオ、そなたを我らの盾に命ずる」


その言葉と共に、自分は近衛兵に任命された。不満はない、どころか大満足だった。

何かを守れる、ということが自分は好きだったから。固執してしまうほどに、好きだったから。


だから、一族の近衛兵になれたことは嬉しかった。

…数年前に事故で妻子を守れなかったことも、理由の一つかも知れなかったが。


ともかく自分は、守るという行為に執着していた。

同族を守って、周りの人々を守って、一族以外の人間たちも守って。

……そして訪れた『大災害』で理性を失い、多くの命を奪った。


理性が戻ってきた理由は、今でも分からない。きっと理由なんてないのかもしれない。

自分の過ちに気づいて、大きく後悔した。

守るべき人々をこの手で壊した、なんて。近衛兵の風上にも置けない。


けれど、だんだん気づいた。

自分は確かに後悔した。けれど()()()()だった。この手で命を奪った人々のことを、重く受け止められなかったのだ。


守ることに固執して。

自分が守っていたものが何だったのか、知ろうともしなかったのだ。


「…私は、知らなければなりません」


かつて自分が守っていたものが何だったのか。

けれどそれを知るのには、どうしてもまた何かを守る必要があった。


当然、人の姿に戻れなくなった自分は、どこに行っても恐れられ、逃げられた。

あなたたちを守りたいと叫んでも、聞いてくれる人はいなかった。


拒絶されて、流れて、自分の居場所が分からなくなった頃。

人間の文明から逃げるように、100年ほど前に滅んだ島にやって来て。そこで小さく身を寄せ合って生きている命に気づいた。


「…すみません。ですが、もうここしか無いのです」


混乱に陥った彼らを宥めて、彼らの横に寝床をとった。

そんな自分を彼らはどう見ていたのだろう、翌日になって彼らの長が、人間語でもし理性があるなら我らを守ってほしい頼んできたのだ。


「竜様にもしまだ良心があるなら…おかしい願いだとは分かっている…しかし」


「…!ええ!ぜひ、こちらからもお願いしたいです!」


これだと思い、ノリノリで了承した。彼らはポカンとしてしまったが、とりあえず自分たちの平和が約束されたと、喜んだ。

彼らはメムリット族といった。

こうして自分は、彼らを守ることになった。



「…そこまでは、良かったのですがね…」


誰に言われるともなく、呟く。

確かに、自分は新たな庇護対象を得た。彼らと関われば、自分の後悔を精算できるかもしれないと思えた。

しかし、彼らはあくまでも人よりは獣に近い生き物だった。


つまりは、巨体の自分を警戒して、なるべく関わってこようとしないのだ。だからと言ってこっちから行こうとすると、軽い混乱を引き起こしてしまった。


「どうすればいいのでしょうか…」


彼らは自分に罪悪感を感じていたようだったが、守ってほしいといっておきながら距離を置くなんて、とは自分は思っていない。

むしろ、彼らを怖がらせずに関われる方法を、自分から探っていた。


「…アドルオ・ル・ケイ様。一つ相談がありまして」


そんなことで悶々としながら、無駄に時間を過ごしていたある時、今代のメムリットの族長から、相談を持ちかけられた。


「親を亡くしたイーリスのケイがおりましてな、どうにも村に馴染めていないようなのじゃ。…だから、あなた様が面倒を見れない、じゃろうか…?」


これだ、と思った。

メムリット族と、直接関われる機会。

断るはずもない、速攻で承諾した。


「…ほら、ロキ。アドルオ様に挨拶をせんか」


「………」


連れてこられたメムリット族は、この世の何もかもを信じていないかのようだった。

彼と関わっていけば、自分がかつて何を守っていたのか分かるかもしれない。先行きは長いだろうが、頑張ろう。


それが、自分とロキの出会いだった。

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