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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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15、覚醒と共闘 3

戦いは佳境に入っていた、と思う。

元々友人なだけあって、アドルオさんはアルガイアの行動を読み切っていた。


具体的に言えば、どのタイミングで能力を使ってくるか。

どこをどう攻めてくるのか。

動きの後の、次の動きの予測まで、アドルオさんは完璧にこなした。


それほど、彼とアルガイアの関係は深かったのだろう。


「次、右です!」


「…っはい!」


アドルオさんの掛け声に合わせて、アルガイアの攻撃を躱わす。そしてできた隙に、確実に攻撃を入れる。

アドルオさん自身も、わざと大きく動いてアルガイアの攻撃を誘っている。


「…能力発動します、離れてっ!」


「はいっ!」


途端、アルガイアの身体が木の幹のように太い棘で覆われる。

アドルオさんの声が無ければ、あれに刺されてあっさり死んでしまっていただろう。

…だからと言って、友人同士の殺し合いを肯定したくは無い。


「…弱ってきています。能力の発動もあと二回が限度でしょうか」


僕は知る由もないが、能力を発動にはかなりの疲労が伴うらしい。


「私が能力で球を作ります、あなたはそれを彼の顔に。怯んだところを、私が押さえ込みます。そして…」


続きを、僕は頷くことで伏せた。

戦いながらの作戦会議で、止めは自分に差させてほしいと申し出た。

アドルオさんに、友人を殺させたく無かった。同時に、アルガイアにも。


「…いきますよ」


アドルオさんが球を作り出す。

能力の応用で、作り出した壁を丸めているのだ。


彼から手のひらサイズの球を受け取る。

頷き合って、僕は大きく飛んだ。

アルガイアが首をもたげ、飛び出した僕を目で追う。

二、三回旋回した後、不意を突いて急降下した。迎撃態勢を取る彼の寸前で止まり、球を彼の顔に向かって投げつける。


「…ふんっ!」


「——!?」


無事、彼は混乱したようだ。

急いで離れた僕の後ろから、アドルオさんがアルガイアに飛びかかった。

ズシンと、重い振動が体を襲う。

アドルオさんが、アルガイアの四肢を上から押さえ込んだのだ。


「…っ今です!」


彼が叫ぶより前に、飛び出している。

狙うは首。あそこを噛みちぎれば、たとえ災竜であっても絶命する。

僕は、押さえつけられたアルガイアに飛び掛かろうとして。


視界の端から、小さな物体が飛んできている事に気付いた。

石だ。

石が浮かんでいる。二つの小さな命を乗せて。


「…あれはっ!?」


「…っ!来てはいけません!」


それがなんだか察したのと、アドルオさんが叫んだのは同時だった。

石の上の方にいた生き物…もう見える、メムリット族だ…が飛び上がる。

アルガイアに向かっている。


「…っアドルオさん!」


同時に、アルガイアが身を固めている事にも気付いた。能力発動の兆候だ。

アドルオさんが押さえ込んでいる今に。


メムリット族…考えるまでもなく、ロキだろう…がアルガイアの表面を攻撃した。

まずい。彼はアルガイアの能力を知らない。


浮く石に乗っていたもう片方…ペミーだ…が、石から落ちてくる。制御できないのだ。

このまま落ちれば、大怪我を負うだろう。


「……っ」


判断は、どうしようもなく遅かった。



咄嗟に伸ばした手は、落ちていたペミーを掴んでいた。どうやらペミーは無事なようだ。


アルガイアは能力を発動して、巨大な棘を幾本も生み出した。

その証拠に、バシュンという軽い音が響いたのが聞こえた。


「……」


ロキは無事だった。

薄い橙の壁に囲まれて、呆然としている。


「………ぇ」


そんな彼の口から、言葉が漏れる。

僕も、僕の手中のペミーも、同じく呆然としている。


一枚しか張れない壁を、彼はロキの為に使ったのだ。

だから、自身が逃げる暇はなくて。


「———」


アルガイアの幾つもの太い棘が、アドルオさんを深々と貫いていた。



時間が止まったようだった。

貫かれた彼の体から、ぼたぼたと血が流れ出す。

体中に電流が走り、次の瞬間には動いていた。


「———!!」


叫んでいた、と思う。

無意識のうちにペミーを地面に置いて、アルガイアに飛びかかる。

アルガイアが能力を解除して、棘が消え失せると、噴水のようにアドルオさんの血が流れた。


後ろに倒れるアドルオさんを横目に、アルガイアに組み付いた。

アルガイアの体躯は、僕と同じか少し大きいくらいだ。組み付きで勝てるのは微妙だ。

けれども僕は無我夢中だった。


ふと、自分の力が急に強くなったように感じた。ギルギを殺した時と同じだ。

必死だったから、そう勘違いしたのかもしれない。


けれども僕は、確かにアルガイアの巨躯を持ち上げ、放り投げていた。

アルガイアは、島の地面の角に脇腹をぶつけて喘いだ。

そしてそのまま奈落へ落ちていった。


「…はあ……はあ…」


肩で息をする。

思い出して振り返ると、森がアドルオさんの血で染められていた。

その中心に、彼が横たわっている。

未だに噴水のような出血は続いていた。


「…アドルオ、さん…っ!」


強い血臭に咳き込みながら、彼の体に空いた穴を、どうにかして塞ごうとする。

けれど無理だ。穴が大きすぎる。


「エルギオ…さま…」


「話さないでください…血が…っ!」


自分の身体では無理だ。

周りの木々や、岩を使って塞がなければ。

見回した時、ロキとペミーを見つけた。

血の海に佇んで、呆然としている。


「…だい、じょうぶ、ですよ…」


「……っ」


とりあえず彼らを無視して、木々や岩を集める。


なんとなく、これらの行為が無駄であることを察していた。


———


ロキ・イーリスは、目の前の光景を何も言えずに見ていた。

親同然だったアドルオが死にかけていることを、実感していなかったからかもしれない。


ふと、消えそうなアドルオの瞳が、自分を見ている事に気付いた。


「——ぁ」


声が漏れる。

その瞳に映った感情を、自分は確かに見たことがあった。

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