15、覚醒と共闘 3
戦いは佳境に入っていた、と思う。
元々友人なだけあって、アドルオさんはアルガイアの行動を読み切っていた。
具体的に言えば、どのタイミングで能力を使ってくるか。
どこをどう攻めてくるのか。
動きの後の、次の動きの予測まで、アドルオさんは完璧にこなした。
それほど、彼とアルガイアの関係は深かったのだろう。
「次、右です!」
「…っはい!」
アドルオさんの掛け声に合わせて、アルガイアの攻撃を躱わす。そしてできた隙に、確実に攻撃を入れる。
アドルオさん自身も、わざと大きく動いてアルガイアの攻撃を誘っている。
「…能力発動します、離れてっ!」
「はいっ!」
途端、アルガイアの身体が木の幹のように太い棘で覆われる。
アドルオさんの声が無ければ、あれに刺されてあっさり死んでしまっていただろう。
…だからと言って、友人同士の殺し合いを肯定したくは無い。
「…弱ってきています。能力の発動もあと二回が限度でしょうか」
僕は知る由もないが、能力を発動にはかなりの疲労が伴うらしい。
「私が能力で球を作ります、あなたはそれを彼の顔に。怯んだところを、私が押さえ込みます。そして…」
続きを、僕は頷くことで伏せた。
戦いながらの作戦会議で、止めは自分に差させてほしいと申し出た。
アドルオさんに、友人を殺させたく無かった。同時に、アルガイアにも。
「…いきますよ」
アドルオさんが球を作り出す。
能力の応用で、作り出した壁を丸めているのだ。
彼から手のひらサイズの球を受け取る。
頷き合って、僕は大きく飛んだ。
アルガイアが首をもたげ、飛び出した僕を目で追う。
二、三回旋回した後、不意を突いて急降下した。迎撃態勢を取る彼の寸前で止まり、球を彼の顔に向かって投げつける。
「…ふんっ!」
「——!?」
無事、彼は混乱したようだ。
急いで離れた僕の後ろから、アドルオさんがアルガイアに飛びかかった。
ズシンと、重い振動が体を襲う。
アドルオさんが、アルガイアの四肢を上から押さえ込んだのだ。
「…っ今です!」
彼が叫ぶより前に、飛び出している。
狙うは首。あそこを噛みちぎれば、たとえ災竜であっても絶命する。
僕は、押さえつけられたアルガイアに飛び掛かろうとして。
視界の端から、小さな物体が飛んできている事に気付いた。
石だ。
石が浮かんでいる。二つの小さな命を乗せて。
「…あれはっ!?」
「…っ!来てはいけません!」
それがなんだか察したのと、アドルオさんが叫んだのは同時だった。
石の上の方にいた生き物…もう見える、メムリット族だ…が飛び上がる。
アルガイアに向かっている。
「…っアドルオさん!」
同時に、アルガイアが身を固めている事にも気付いた。能力発動の兆候だ。
アドルオさんが押さえ込んでいる今に。
メムリット族…考えるまでもなく、ロキだろう…がアルガイアの表面を攻撃した。
まずい。彼はアルガイアの能力を知らない。
浮く石に乗っていたもう片方…ペミーだ…が、石から落ちてくる。制御できないのだ。
このまま落ちれば、大怪我を負うだろう。
「……っ」
判断は、どうしようもなく遅かった。
咄嗟に伸ばした手は、落ちていたペミーを掴んでいた。どうやらペミーは無事なようだ。
アルガイアは能力を発動して、巨大な棘を幾本も生み出した。
その証拠に、バシュンという軽い音が響いたのが聞こえた。
「……」
ロキは無事だった。
薄い橙の壁に囲まれて、呆然としている。
「………ぇ」
そんな彼の口から、言葉が漏れる。
僕も、僕の手中のペミーも、同じく呆然としている。
一枚しか張れない壁を、彼はロキの為に使ったのだ。
だから、自身が逃げる暇はなくて。
「———」
アルガイアの幾つもの太い棘が、アドルオさんを深々と貫いていた。
時間が止まったようだった。
貫かれた彼の体から、ぼたぼたと血が流れ出す。
体中に電流が走り、次の瞬間には動いていた。
「———!!」
叫んでいた、と思う。
無意識のうちにペミーを地面に置いて、アルガイアに飛びかかる。
アルガイアが能力を解除して、棘が消え失せると、噴水のようにアドルオさんの血が流れた。
後ろに倒れるアドルオさんを横目に、アルガイアに組み付いた。
アルガイアの体躯は、僕と同じか少し大きいくらいだ。組み付きで勝てるのは微妙だ。
けれども僕は無我夢中だった。
ふと、自分の力が急に強くなったように感じた。ギルギを殺した時と同じだ。
必死だったから、そう勘違いしたのかもしれない。
けれども僕は、確かにアルガイアの巨躯を持ち上げ、放り投げていた。
アルガイアは、島の地面の角に脇腹をぶつけて喘いだ。
そしてそのまま奈落へ落ちていった。
「…はあ……はあ…」
肩で息をする。
思い出して振り返ると、森がアドルオさんの血で染められていた。
その中心に、彼が横たわっている。
未だに噴水のような出血は続いていた。
「…アドルオ、さん…っ!」
強い血臭に咳き込みながら、彼の体に空いた穴を、どうにかして塞ごうとする。
けれど無理だ。穴が大きすぎる。
「エルギオ…さま…」
「話さないでください…血が…っ!」
自分の身体では無理だ。
周りの木々や、岩を使って塞がなければ。
見回した時、ロキとペミーを見つけた。
血の海に佇んで、呆然としている。
「…だい、じょうぶ、ですよ…」
「……っ」
とりあえず彼らを無視して、木々や岩を集める。
なんとなく、これらの行為が無駄であることを察していた。
———
ロキ・イーリスは、目の前の光景を何も言えずに見ていた。
親同然だったアドルオが死にかけていることを、実感していなかったからかもしれない。
ふと、消えそうなアドルオの瞳が、自分を見ている事に気付いた。
「——ぁ」
声が漏れる。
その瞳に映った感情を、自分は確かに見たことがあった。




