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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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12、急襲

「…だから、僕は自分を死に損ないだとは思いたくない。父さんが、母さんが守ってくれた命だから」


静かな洞窟の中、呆然としているロキへ語りかける。

無くなっている記憶の部分は、恐らく自分から忘れ去ったものだ。その瞬間を見たくなかったのだろう。

…今では後悔している。見たくなくても、自分の親なのだ。

最後の瞬間ぐらい、覚えていたい。


「…だから、死に損ないじゃない」


そんなことを思いながら、ロキへと突きつける。

彼は、何かを言おうとして辞め、疲れたように息を吐いた。


「…分かった。オリヤ・メイと言ったのは、謝る」


人間語でそう言った。置いてけぼりにされていたメルリにも、聞かせるためだろう。

事実、それを聞いた彼女は驚いたようだった。


「ペミーすごい!何言ったのかは分かんなかったけど、ロキを謝らせるなんて!」


「ペゥム…!?」


そう喜んで、僕を持ち上げた。

彼女が喜んでくれたことへの嬉しさと、突然持ち上げられた驚きで微妙な声が出る。


「……」


…ロキが引いてる。

同族としか関わってこなかった彼にとっては、人に対して鳴き声を使う同族を見るのは悍ましいものだろう。

まして、僕は彼より年上なのだから余計に。


「それじゃあ、私たちのことを手伝ってくれるの?」


「…いや、それはやっぱり、だめだ。アドルオは俺が殺すんだ」


調子づいたメルリが、ロキに一蹴されて怯む。

そうだ。本来聞きたかったのはそれだ。

なぜ彼は、恩人のはずのアドルオを殺そうとしているのだろうか。

しかしそれは、聞く前に彼から言ってくれた。


「アドルオが…そう望んだんだ。だから、俺はアドルオを殺す。その為に、強くなるんだ」


アドルオ自身が、そう望んだと。その為に、強くなるのだと。

周りを見回す。

高い洞窟の壁のあちこちに、何かを叩いたような跡が凹んで出来ていた。

彼は一人ここで、自らを強めていたのだ。


「あなた…ここで一人で特訓してたんだ…本当に強いんだね」


メルリも、一呼吸遅れて周りの様子に気付いた。

彼の血筋はイーリスだ。アヌシと同じく、『加護』を授かった戦闘筋。

本当にどうにか頑張れば、災竜さえ倒せるかもしれない。


「分かった。じゃあ、こうしよう」


ふと微笑んだメルリが、指を立ててロキに提案する。


「私たちは、何とかしてアドルオさんを死なせないように頑張る。でも、もしどうしようもなくなったら、君に頼む」


提案の前半を聞いて顔を歪めたロキが、後半を聞いてハッとする。

自分たちは今まで通り、アドルオさんを殺さずに聖痕を取り出す方法を探す。

しかし、どうしても見つからなかったら、最終手段としてロキにアドルオさんを殺させる。


「ム…」


肌寒い決断だ。

事実、メルリの腕が小さく震えているのが見えた。彼女も本心では、ロキに協力して欲しいのだ。


僕は、彼女の腕にそっと耳をのせた。

頑張って出した決断なのだろう。

それならその震えに、僕は寄り添おう。


「………分かった。それでいい」


ロキは、長い沈黙と思考の後に、そう承諾してくれた。

こうして、ロキとの微妙な関係は解消された。


「ペミーありがとう。ロキを説得してくれて。あなたも、私の提案を呑んでくれてありがとうね」


僕らへの感謝を述べてから、メルリが嬉しそうにロキを撫でている。

嫌そうに顔を歪めているロキから、彼が人に撫でられ慣れていないのがわかった。


「…嫌な感触」


「慣れれば、結構気持ちいいよ」


こっちの言葉でケチつけた彼に、笑いかける。

言われたロキは、口を数度ぱくぱくさせた後、結局大人しく撫でられることを選んだ。

彼、以外と可愛い所があるのかも知れない。


洞窟内に、緩い空気が流れ出した、その時だった。

地面の底から唸るような、地響きが起こった。同時に、空気を震わせる咆哮が、かなり近い所で響いた。


「…なんだっ!?」


「災竜の咆哮…エルギオ…?いや…」


「アドルオ、こんな風に叫ばない…」


災竜の咆哮。

しかしエルギオもアドルオも、メムリット族のことを思って、咆哮して怖がらせたりなんかしない。

それなら、咆哮した災竜は。


誰かの、叫び声。


「オーグシャ!スサン・オーグシャ!!」


その意味が分からないメルリでも、なにが起こったのかを察した。

スサンとは、数え言葉で3の意味。


エルギオでもアドルオさんでもない、三体目の災竜の襲来をつげる声だった。


———


咄嗟に走り出しかけ、踏ん張って振り返る。

ロキとペミーが、困惑と驚きの表情を見せている。

私は、彼らに驚くほど冷静な声で伝えた。


「外の様子をみてくるから、二人はここにいて!」


村にいる他のメムリット族は。モルガイさんは。みんなは。

三体目の災竜はどこにいるのか。今どれほどの被害が出ているのか。

把握しなければならないことは、沢山ある。


森を走り抜け、村に出る。

村にいたメムリット達は混乱してたが、当の災竜の姿は見えない。

一体どこに。


「ウージャ!オーグシャ!!」


あるメムリットが私を指して叫んだ。

突然の風圧に目を瞑る。地響きが起こって一歩足が下がる。

風圧が止み、目を開いた。


「……」


黒い、黒い瞳。

二つのそれを囲む、硬い赤の鱗。

エルギオでもアドルオさんでもない災竜の顔が、目の前にあった。

空気を唸らせるような、静かな時間が一瞬流れ。


「———っ!!」


背ほどもある口が開き、そこから咆哮が放たれた。

咄嗟に耳を塞いだが、声と共に放たれた圧で尻餅をついてしまう。

その風圧で周りにいたメムリットたちが、吹き飛ばされたのが、視界の端に見える。


その時、別の咆哮が響いた。

祭壇跡の方から、銀と白の災竜が飛んできてるのが見えた。

アドルオさんとエルギオだ。

彼の名前を呼ぼうとしてが、口が震えて話せない。


影が落ちて見上げると、目の前の災竜がその腕を振り上げていた。

鋭い爪が、太陽光を反射して光る。

その行先は、どう考えても自分。


(に、げ…っ!)


笑う膝と尻に鞭を打って、立ち上がる。

エルギオとアドルオさんが近づいてくる。

私が逃げるよりも、彼らが入り込むよりも早く、災竜は腕を振り下ろした。


「っメルリーー!!」


「…えっ?」


突然、何かに突き飛ばされる。

グシャリと、軽い音が響く。

転がって、姿勢を直してから見たのは。


「——え…」


私を突き飛ばしたカイが、災竜の爪に貫かれていた。



時間が止まったように感じた。

音が、風が、何も無くなる。

右肩の下あたりから中腹の辺りまで、木の幹のような爪が貫いている。

まるで、そこだけ体を取り替えたようだ。


…。


その顔に浮かんでいたのは、何が起こったのか把握しきれていない、困惑の表情。

ただそれは一口血を吐いた後に、安堵のような表情になって。


……。


災竜の腕が動く。

ゆっくりと、酷くゆっくりと、紙のようになった彼の体を放り投げる。

ふわりと宙に浮かんだ彼の体は、一瞬ののちに地面に叩きつけられる。


………。


次の瞬間、目の前の災竜を銀の災竜が突き飛ばした。

村の外へ飛ばされた災竜を、アドルオさんが追う。その後にエルギオも続く。

その彼の顔が歪んでいる。悲しみと、怒りで。


「…カ、カイ……」


風が、音が、ようやく戻ってくる。

遅くなっていた時間が、戻ってくる。


「あ…ああああーー!!」


私は考えていたことも吹き飛んで、叫びながら走り出した。

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