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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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11、オリヤ・メイ 2

アヌシ・ケイは、東の強者とされている。


我らメムリット族は体が小さく、人間一人にさえ本来は敵わない。

しかしその中で強い力を持てるケイがある。

アヌシと、イーリス。

この二つのケイの者は、大動物を単身で狩れるほどに強かった。


「ではなぜ我々は、それほどまでの力を持っているのか分かるかね、⬛︎⬛︎⬛︎」


「…神さまが、そうなさったから。自らを守れるよう『加護』をくださったから」


そうだ。

だから我々は同族を、人をその力で守り、守り抜いて死ぬのだ。

小さな体には過ぎたる力を、他のために使い切るのだ。

そんなことを、ケイの長はペミーに何度も言っていた。ケイの長の、いつもの小言だ。


両親は、アヌシ・ケイの中でもかなりの強者だった。その動きは、頭角を示す若者であっても読めないほどに素早く、複雑だった。

誰もが両親を憧れ、その息子である自分に期待した。その期待が落胆に変わっていくのは、意外と早かった。


アヌシの者なら誰もが発露する『加護』は、自分だけはいつまで経っても発露しなかった。だから、次々と同年代に置いて行かれた。

『加護』が発露しないのは、もしかして彼は一族のものでは無いのではと噂された。

学舎では居ないものと扱われ、性格が捻くれるまで、そう時間はかからなかった。


「⬛︎⬛︎⬛︎、そもそもお主は……」


「…あの、もういいですか、長?」


自分だけ他から置いて行かれるのを、ケイの長は信仰心が無いせいだと決めつけた。

お陰で毎日小言を言われる始末だ。この有様じゃ、信仰心なんてあったものじゃ無い。

まだ何か言いたげな長に形だけのお礼を言って、僕はその場を後にした。



両親は優しかった。

『加護』が発露しないはずがない。お前はただ他より遅いだけだ。

焦らなくていい。きっといつか発露する。

そんなことを、毎日自分に言っていた。

それが、彼ら自身に言い聞かせていることにも、気付いていた。


「……」


努力はした。何度も頑張ってみた。

それでも、自分の『加護』は発露の兆しさえ見せなかった。

だからだろうか。

色々考えてしまう年頃に、一族を側から見ることができた。


「戦って死ね、ね…」


ただひたすら己を磨き、強者と戦い、弱者を守って死ぬことを美学とする。

逆に、強者を前にして逃げ出すことなどあってはならない。

アヌシ・ケイは、そんな一族だった。


正直、異常だと思った。

死を前に逃げ出して、何が悪いのか。

生き延びることの、何がいけないのか。

…そんなことを、『加護』の発露もない自分が思ってもいいのか。


悶々と考えていた日々は、突然崩れ落ちた。

災竜だった。



咆哮と共に降ろされた腕の一振りで、ケイの大半が死んだ。

そんな時に自分は、ただ怯えて震えることしか出来なかった。

自分は本当に弱いのだと、思い知らされた。


「⬛︎⬛︎っ!」


「っ!?」


呆然としていると、両親に連れられてケイが過ごしていた集落から逃げた。

混乱した。

戦って死ぬことが美学じゃないのか。なぜ強いはずの両親が、逃げるのか。

そんなことすら聞けないほど、両親の顔は必死だった。


両親は僕を茂みに隠すと、未だ同族を殺し続ける災竜の元に向かった。

息子よ、愛してる。

そんな言葉を残して。


「———っ!?」


災竜が吠える。

両親は強かった。本当に強かった。

災竜にさえ、傷を負わせたのだ。傷を負った災竜は、飛び去って逃げていった。


「…ぁ……」


両親以外の一族は、全滅していた。辺り一体に死体が転がる、悪夢のような光景だった。

両親も致命傷を負って、ほとんど虫の息だった。

彼らは駆け寄った自分に、笑いかけた。

そして頼んだのだ、止めを刺して欲しいと。


叫んだ。泣き喚いた。

嫌だ、生かすんだ。戦って死ぬなんて嫌だ。生きて、生き延びて、それの何が悪いんだと喚いた。


「…⬛︎⬛︎…私たちは、守れたの…」


何も、何も守れていないじゃ無いか。多くの同族が死んで、ケイは滅んで。

そんな事を喚き散らす自分に、二つの耳が伸びてくる。


「いいえ…守れたのよ…」


「我らの…僕ら二人の、いちばんだいじなもの…」


熱を失っていく、親の耳。そこから、声に出せぬまでもなく、二人の想いが伝わってくる。


「—あ…」


ただ、生きてほしい。

君を守るために命を使った自分たちの分まで、生き延びて欲しい。


それは、東の強者としては、あってはならない思い。

守って死ぬことを美学とする者たちが、抱いてはいけない思い。

純粋な、親としての願いだった。



気づくと、集落からかなり離れたところに座っていた。

何をしていたか、直前の記憶が抜けている。

自身の耳が、刃物のような鋭利な石を、巻き付けるように持っていて。明らかに血痕のついたそれを見て、全てを察してしまった。


「……あ、ああ、ああああっ!」


吐くほどに泣いた。その場にうずくまって、朝を待った。

自ら命を断つつもりはなかった。生きて欲しいと、願われたから。

だから日が昇るとただ歩いた。集落の外を、当てもなく。

ただ、生き延びる事だけを考えていた。


「いいモン見つけられたな」


「これは高くつくぞー」


ある日、メムリット族を金で見てる()()()()()に拾われる。売られてもいいとも思ったが、流石に気が咎めた。

閉じ込められた檻から、隙を見て逃げ出した。


(どうしようか…)


幸い、赤ちゃん言葉(鳴き声)で話せば、大抵の人間は可愛がってくれた。食べ物をせがんで、一晩の宿を貰って。

そうして一人でなんとか出来るようになっても、『加護』は発露しなかった。


(だけど…)


だけど、諦めることはしなかった。

『加護』とか、一族の者じゃないとか、災竜への復讐だとか、そんな事はどうでも良かった。

ただ、生き延びる事だけを考えていた。



—そうして流れ着いたネイケシア島で、後の聖女に拾われて、ペミーという名を貰う。

だから、自分は死に損ないなどではない。

自分は生きる事を願われて、生き延びる事を託されたのだ。

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