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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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10、オリヤ・メイ 1

翌朝。

私とペミーは、二人で村の中を歩いていた。

特に目的があったわけではない。旅に出る前は日課になっていた朝の散歩を、久しぶりにやってみようと思っただけだ。

と言っても、ここは故郷とは全く違う。言い方は悪いが、半分廃墟のようなメムリット達の住処と、何かの残骸しかない。


しっかりした建物すら、ここには無い。

ここは、故郷から離れた別の世界なのだ。


(遠くまで来たんだな…)


そんな物思いに耽りながら、ペミーを抱えて歩く。彼の秘密を知った今でも、彼の扱い方を私は変えない。

なんであれ、ペミーはペミーだから。


思考がペミーに行ったからか、気付いた。

朝だからか、初めて来た時より住処から出てきているメムリット族は少ない。

それでも、そんな彼らがこっちに視線が注がれていたのだ。


(……)


まただ。その視線に、なんだか微妙なものを感じた。

足を早める。

あの視線には、どうにも覚えがあった。色々な島で感じた、私のことを疑う目と同じもの。部外者、疎外者を見る目だ。

私は足早に、逃げるようにそこから離れた。


「ペム…?」


「ペミー…何でもないよ」


早足で歩く私に、腕の中からペミーが問いかけた。

彼は、私たちの前でメムリット族の言葉を話そうとはしない。話してくれたとしても、ほとんどの言葉は理解できないので、それはそれでありがたかった。


「私も、ペミーの言葉が分かったらな…」


モルガイさんは、私たちにメムリット族語を教えてくれなかった。

彼らの安全を守るためには、そうするしかないのだという。


「ムメメ」


ペミーは仕方がないよと言った風だった。

言葉がなくても、身振り手振りで何となく分かるから、彼らの言葉を絶対に知りたいというわけでもなかった。

その時。


「ん…なんだろう、この音」


不意に、カーンカーンと微かに高い音が響いているのが聞こえた。

気づくと、村と外の境界まで歩いてきてしまっていた。今いるところより奥、遺跡とは反対側の方から音は聞こえていた。


「プメ?」


「…行ってみよっか」


音のなる方、村の外の森の中へ私は歩みを向けた。森を抜けて歩くうち、微かな高い音は少しずつ大きくなっていった。

やがて木々を掻き分けて、洞窟が現れた。


「ここって…」


メーレンさんが採掘人の時に働いていた、採掘場だ。確か、祭壇跡の反対側にあると言っていたはずだ。

音は、採掘場の奥から聞こえてきている。

採掘人の誰かがいるのだろうか。モルガイさんはそんなこと言っていなかったが。


「ペム…っ!」


「…うん」


ペミーの力強い声に励まされて、胸の奥に浮かんだ怯えを仕舞う。

震えるのを抑えて、洞窟の中に入った。

カーンカーン。

カーンカーン。


高い音は、ちょうど硬い何かをぶつけ合わせているような音だ。

と、一際ガーンと大きな音が響き、同時に視界がひらけた。

そこは、ひっぽん道で続いていた洞窟が開け、いくつかの小道に分かれている所だった。


そして、そこにいたのは探していたロキだった。見るからに疲れている体で、ギロリとこちらを睨んでいる。


「聖女、なんでここに」


低い、腹の底から出したような声。

小さい生き物に怯えそうになるのを、必死に堪える。


「ここ、俺の秘密基地。勝手に、入るな」


「ご、ごめん…そうと知らずに」


そういえば、この前ロキと会ったのも、さっきの村の境界だった。

彼の住処は、この洞窟あたりなのだろう。


「分かったなら、出て行け」


相変わらず、ツンとした態度。

でもそれに怖気付いてはいけない。彼との対話が目的なんだし、何より私は聖女なんだから。


「あ、あの!話を聞いて欲しいの!」


何も考えずに話してしまうと、また同じように口論になるだけだ。

だから、彼が興味をひいてくれそうな話題を出す。みんなと話し合って決めた事だ。


「アドルオさんって、良い人だよね」


「…はぁ?」


切り出した私が、ロキは困惑する。


「とっても強いらしいし、私たちの目的にも賛成してくれた」


「それは…そう、だろうさ。アドルオは…優しいから」


ロキの瞳に、複雑なものが宿る。それが、ただの育ての親への情とは思えなくて、思わず口を開く。


「あなたは…アドルオさんに生きて欲しいんじゃないの?育ててくれた、親として…」


「違う!!」


咆哮のような叫び。メムリット族が出してるとは思えぬほど、腹の底に響く。


「違う!アドルオはそんなこと望んでない!」


「…どういう、こと?」


震えた唇から、そんな言葉しか漏れなかった。

ロキは、見切ったように鼻息を吐いた。


「もういい。聖女も、オリヤ・メイも、腰抜け。俺がやる」


ペミーへの侮辱に、胸の中で反感が湧く。

けれどそれも、彼への恐怖に上塗りされる。

ロキは、決意するようにどんでもないことを宣言した。



「俺が…俺がアドルオを殺す。殺さなきゃ、ならないんだ」


最大の衝撃に私は呆然とするしかない。

宣言したロキの声色に、寂しいものが滲んでいたことに、気付きながら。


———


これはまずい、と思った。

メルリとロキの対話は、完全に失敗した。

ロキが信じられないことを宣言し、メルリが完全に潰された。


()はメルリの腕から飛び降りた。

彼女が僕の名前を呼ぶが、それを無視する。

僕がやらなければ。


ロキがジロリと僕を睨んだ。その恐ろしさに震え上がりそうになるけど、メルリの前だと自分を鼓舞して踏ん張る。


「…どうして、そう思ったんだ?」


()()()の、メムリット語で彼に聞いてみる。

メルリが息を呑んだのが分かったが、仕方がない。

ロキの真意を聞き出さないと、彼はメルリ達と敵対してしまう。死に損ないと揶揄された身でも、同族と身内の対立は嫌だった。


「…お前には、関係ないだろ」


こっちの言葉で答えてくれた。

メルリが困惑しているのが分かるが、口は挟まないでくれる。


「関係ある。聖女にとって、災竜は大事だ。僕らがアドルオさんを殺さないのは、君にとって良いことじゃないのか?」


「…死に損ないには、関係ないだろ」


メルリがピクリと震えた。きっと彼女には、今のロキの言葉の中に、オリヤ・メイという言葉が聞こえたのだろう。


「突き放すような言い方をするな。知りたいんだよ、君のことが。どうして君は、アドルオさんを殺したがってるんだ?育ての親なんじゃないのか?」


「…アドルオが、そう望んだんだ」


「どういうことだ?」


「…死に損ないには、言われても分かんねえだろ」


チラリとメルリを振り返る。彼女の腕がぷるぷると震えている。

いい加減、僕への侮辱が見過ごせないようだ。ロキへの怒りと恐怖で板挟みにされてる。

彼女をあまり怒らせたくない。彼女には笑っていてほしい。


僕は勤めて平静の口調のまま、ロキの言葉を否定した。


「僕は、死に損ないじゃない」


「じゃあなんだよ。一族を災竜に滅ぼされて、お前だけ生き残っちまったんじゃねぇのかよ!」


「そうじゃない。そうじゃないんだ」


叫んでしまう彼を言葉で抑えて落ち着かせる。

彼は完全に、僕を死に損ないだと思っているようだ。その勘違いを、訂正しなければ。


息をついて、聞いてほしいと彼に頼む。少しの沈黙の後、彼は渋々ながらも頷いた。

説明しようとすると、脳裏に過去の情景が瞬いた。


——思い出したくもない、けれど忘れてはならない、あの日の記憶が。

僕と言う存在を完全に変え、そして始まらせた出来事が。

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