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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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6、災竜アドルオ 2

「……それは。それ、は…」


声がうまく出せない。喉の奥に、硬いものが詰まっているようだ。


「アドルオ、さま…」


モルガイさんが、辛そうな目でアドルオさんを見る。

モルガイさんにとっては、突然のことだ。けれども、彼はあまり動揺はしていないようだった。


空気が何となく重くて、目を伏せる。

死ぬ準備は出来ている。アドルオさんは、私たちに殺される準備を終えている。

()()()旅の目的を考えるなら、嬉しいことのはずだが、私たちは喜べなかった。

その時、エルギオが不意に口を開いた。


「…私たちは、あなたを殺したくありません」


突然の宣言に、思わず顔を上げる。

それは。

聖痕が得られなければ、旅の目的地には着けない。北の果てにあるという、竜を祀る島には。


「この島でメムリット族を守っている、優しいあなたを殺したくないです」


災竜を殺さずに、聖痕を得られる方法など。

そこで、気付いた。思い出した。


「…だから、あなたを殺さずに、聖痕を抜き出せる方法を探したいです」


エルギオの目的。災竜を殺さずに、聖痕を得る方法を探すこと。

これは、その目的を達成する絶好の機会なのだ。

エルギオの提案に、アドルオさんは驚いていた。その横で、モルガイさんが胸を撫で下ろしている。


「…私も、それに賛成。ダックさんとカイも、それでいい?」


「…ああ。私はそれで構わん」


私の賛成に、ダックさんは言葉で同意を示す。反対に、カイは首を縦に小さく振るだけだった。


私たちの賛成を受けて、エルギオはまだ驚いているアドルオさんに振り向く。

アドルオさんは、小さく息を吐くと、聖女様方が言うならと、賛成してくれた。

こうして、この島での私たちの目標が決まったのだった。


———


目標が決まったところで、忘れていた名乗りをすることになった。

目的達成のためには、色々調べて色々試さなければならない。その為には、この島に何日も留まることになるだろう。


それに、災竜についても深く知らなければならないから、アドルオさんの協力は必須だ。

どちらにしろ、お互い名前を知っておく必要があった。


まず、まだ怯え気味のカイ。震えながらも、カイルス・フェキシフトとしっかり名乗った。


「ああ、フェキシフトの…。私も話は聞いていますよ。災竜の身でどの口がと思いますが、辛かったでしょうね」


そんなことを言われて、カイはついに縮こまってしまった。彼の内心がもうメチャクチャなのは、想像に難くない。

後で話聞いてあげよう。


次に、意外にしっかり挨拶したダックさん。珍しい笑みを乗せて、ダック・ボンデールと名乗った。


「彼らをここまで育て、見守ってくれたのはあなたでしょう?こうして出会えたのです、感謝の一つ、させて下さい」


彼とアドルオさんは、意外にも話があったようだった。

側から見ても、お互いを尊重していたのが分かった。


次に、分かりやすく緊張しているメーレンさん。メーレン・フロウシというフルネームで名乗った。


「ええ、知っていますよ。採掘に来ていたのを、何度も見てます。本当に実直で、ひっそり応援していました」


恥ずかしがりながら、ありがとうございますとお礼を言っていた。

アドルオさんにとっては、メーレンさんは私たちの中では一番古い知り合い…一方的であるけれど…だったのだ。


次に、ペミー。ペミーは私からではなく、初めて自分で名乗った。もちろん、ケイの名までつけて、ペミー・アヌシと。


「アヌシの…当時のことは私も覚えていませんが、良ければ後で話を聞かせてください。贖罪の意味として、知っておきたいので」


アドルオさんは、本当に悲しそうにそう言った。

彼が、本当に優しい人物なのだと思う。


次に、私。普通に、メルリ・ルアーナと名乗った。


「ルアーナ?……いえ、何でもありません。きっと、気のせいでしょう」


「……?」


そんな微妙な反応をされた事が少しショックではあったけれど、その後に聖女として応援してるなんて言われた。

災竜に言われるのはどうなのかとも思ったが、正直ちょっと照れくさかった。


最後に、ある意味では本命のエルギオ。もちろん、ここで隠す意味もないので苗字まで名乗った。

アドルオさんは心底驚いたようだった。


「…あなたは、同族だったのですね。いえそれよりも、エルギオという名はもしかして、エライル様のご子息ですか…?」


その言葉に、本日何度目かの衝撃を喰らう。

エライルというのは確か、エルギオの実の父。ドラメル族が狂った元凶だ。


「…父上のことを、知っているんですか!?」


同じ一族なら名前ぐらいは知っている人はいるはずだったが、これまで私たちは会ったことはなかった。

思わず叫んだエルギオに、あくまでアドルオさんは落ち着いて答えた。


「知っているも何も…私の真名はアドルオ・ドラメル…元族長たるエライル様の、()()()()()でございます」



今度こそ、完全に場が凍った。

何度目かは数えていないが、少なくともこれが、本日最大の衝撃だった。

アドルオさんは、エルギオの父の、おとうと。


「それ、は…つまり…」


「はい。私は、エルギオ様の()()、ということになりますね」


遥かな時を経て、身内同士が知り合った瞬間だった。


———


大振りで迫ってくる爪を、なるべく小さい動きで避ける。

瞬間、死角から尾の攻撃が放たれたことを察する。

体を動かすだけでは避けきれないと判断して、体を捻ることで避ける。


…避けきれず、片脚に痛みが走った。

それに顔を歪めた時には、もう遅い。気付けば四肢を絡められ、動きを封じられていた。


「…予想以上ですね」


僕を押さえつけた彼…アドルオさんがそう言って笑う。

押さえつけられた僕…エルギオ・ドラメルは息と共に力を抜いた。


「強いですね、アドルオさんは」


「これでも、人間の頃は一族の近衛兵でしたからね。ある程度は鍛えられていました」


そう言って、アドルオさんは僕を解放した。


…今、僕はアドルオさんと特訓していた。

災竜を殺さずに聖痕を得るという目的。

正直、災竜を生かしたまま、どうやって聖痕を取り出せばいいのかは、分からない。けれども、まずは激しく抵抗するであろう災竜を、無力化する事が大事だ。


そんな訳で、災竜を殺さない程度に無力化できるよう、二人で取っ組み合っているのだ。

もちろん、相手を傷つけない程度で。


場所は、ケイオール島の上空。地上でやるとどうなるか分からないからだ。

それに、どこから見られているか分からない。この辺りには上雲が厚い層のように出来ているから、災竜の巨体を隠すにはもってこいだった。


「竜の時、体を動かす、と意識するのではありません。竜の体は、あくまで人間の体の延長としてあるのです」


アドルオさんが、浮かび上がった僕に講釈してくれる。

災竜を無力化するには、この力を知る事が必要不可欠だ。眠らされて何も知らない僕にとって、アドルオさんはこの力の講師だった。


「人間の体の延長…道具みたいなもの、ってことですか?」


「ええ、その感覚で間違いありません。レイナさんはどうか分かりませんが…ギルギはあなたがつけた傷に、あまり反応しなかったでしょう?」


言われてみれば、そうかもしれない。

奴と闘ったのは、もう数ヶ月前の事になる。今では、殺し合うことを楽しんでいた狂人の印象しかない。



”え、酷くね?”



ズキリと。

不意に頭が痛んだ気がしたが、痛みは一瞬で消えた。

謎の痛みを無視して答える。


「…多分、そうだったかもしれません」


「………」


「…アドルオさん?」


「…いや、何でもないです。ええと…ああ、傷の話ですね。私たちは、竜の体を人の体の延長と認識することで、その傷の痛みを軽減できるんです」


生まれた空白に疑問を感じるが、とりあえず僕はそれを無視する事にした。


「…そうなんですね。でも、それもある程度ですよね?」


「それはまあ、そうでしょうね。災竜同士の戦いでは、この痛覚軽減を使わなければ立ち行きません。私はもう出来ませんが…あなたなら、すぐに出来るでしょう」


「人の体の延長に、か。確かに出来そうですけど…私はもう出来ない、とは?」


引っかかった言葉について、質問してみる。

アドルオさんは、悲しそうに少し俯いて答えてくれた。


「私は…もう、人間の体に戻れないのです」


諦めるように、自嘲するように、笑った。

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