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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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4、メムリット族の村 2

メムリット族の村は、森の中に円形にできていた。

私たちがついた港から、複雑にくねった獣道を辿ると、草でできたアーチが見える。それが村の入り口だ。

村全体が緩い坂道の上にできていて、入り口から遠くなればなるほど高さがあった。


モルガイさんの住処は、そんな村の入り口から一番遠い場所にあった。つまりは坂の頂上。

石造りの遺跡のような建物の中に、敷物や灯りなど最低限のものが揃っていた。

小動物だと思っていたメムリット族が、太古の人間と似たような生活をしている。その事実だけで、私たちは驚きの連続だった。


「狭いでしょうが…どうか我慢してくだされ」


「いえ…大丈夫です」


ダックさんですら、落ち着いている様子はない。私たちであるなら尚更。あちこち見てしまって落ち着きなんてあったものじゃない。

草の敷物の上に、全員が座る。


「それで…さっきのことですけど…」


「ああ…彼のケイですな」


採掘人として来ていて、慣れていたのだろうか。メーレンさんがおずおずと疑問を切り出した。

それに、モルガイさんが息を呑んで答え、視線をペミーへ動かす。


「ペミーの血筋…ケイ、でしたか。アヌシ、というのは…?」


持ち直したダックさんが聞く。持ち直せてない私たちは、首を縦に振るだけ。

ふと隣に置いたペミーを見ると、彼はモルガイさんの視線を受け入れていた。


「アヌシ…という血筋は、なあ……」


言いたくなさそうなのが、分かる。それでも、どこか覚悟を決めたようなペミーの視線に気づいて、モルガイさんは意を決した。


「——滅ぼされたんじゃ。グオーシャ…そなたらのいう、災竜によってな」


「………」



沈黙。

正直、なんとなく察していたのかもしれない。ペミーが、災竜から逃れてきたのかもしれないということ。初めて会った時から、なんとなく。


「…それじゃあ、ペミーはその、アヌシっていう血筋の…生き残り?」


「ロキ…という彼がペミーさんへ言った、オリヤ・メイという言葉は、そういう意味なのですか…?」


そうではないエルギオが、驚きを隠せないまま呟き、それにメーレンさんも続いた。

モルガイさんは、メーレンさんの疑問だけを否定した。


「オリヤ・メイは…ちと意味合いが違う」


「…違うんですか?」


今度は私が聞く。モルガイさん頷いて、あまりいい意味ではないがと前につけて、言う。


「オリヤ・メイは——死に損ない、という意味じゃ」



「……」


再びの、沈黙。

ロキと呼ばれた彼がペミーへ吐いたのは、とてつもない罵倒だった。悪意だった。

頭が、くらりとしたような気がする。


「…ま、暗い話は一旦ここまでにしとこうかの。長旅で疲れておるじゃろ、お主達?」


そう言って、モルガイさんは佇まいを崩した。

いつの間にか張り詰めていた息を吐く。

モルガイさんは、少しの間休憩のための時間を取ると言った。

色々と、衝撃的なことが分かりすぎた。その整理のための時間でもあるのだろう。

促されて、私たちも体勢を崩した。



十数分ののち、私たちは再びモルガイさんの住処に集まった。

村の中を散歩してみたり、メーレンさんが採掘人だった頃のことを聞いてみたり。


カイが不躾にモルガイさんを撫でた結果、怒られたなんてこともあったが、それで場の空気は緩んだ。

…エルギオも撫でたのだが、撫で方が良かったのかモルガイさんが溶けるような気の抜けた声を出した。まるでペットそのもの。

カイが少し不憫だなぁ。


「…さて、それでは本題に入ろうかの」


さっきまでエルギオに撫でられてニヤけていたのを隠すように、モルガイさんが咳払いをした。


「…そなた達がこの島に来た目的を知りたい。まあ、なんとなく分かりはするがの。大方、グオ…災竜関係じゃろ?」


「はい、まあ、間違ってはいないんですが…」


ダックさんが言い淀んで、私をチラッとみた。ここからは、聖女本人が説明すべきだと思ったのだろう。

その対応に心底感謝してから、ダックさんの続きを話す。


「…モルガイさん。突然ですけど、ケツガの紋章って知っていますか?」


私たちが今求めている聖痕は、災竜の心臓だ。血牙の紋章とい聖痕について知れれば、それを持つ災竜の情報も得られるはずだ。


紋章というのはケイオール島にしかなかった文化だと、コンボボロ島の島主のグレムさんは言った。

正確には、初代島主の手記に書かれていたことなのだが、なにかはこの島にあるだろう。


「…紋章?それはもしや、ル・ケイのことですかな?」


「知ってるんですか!?」


カイが乗り出して聞いた。

エルギオが、そんな彼を押さえつける。メムリット族より体の大きい自分達が下手に動けば、彼らは驚いてしまうこともある。


「ええ、ル・ケイとはケイを表すもの、という意味です。ですが、ケツガというのは、聞いたことのないケイですな」


「ああいや、ケツガというのは名前じゃなくて…」


「…血と、牙。そういう意味だと、思います」


エルギオの訂正の先を、私が補足する。血と牙というのも、あくまで私たちの予測でしかないけれど。

モルガイさんは、少しの熟考の後に、すぐに何かに思い至った。


「血と牙……紋章…ああ、アドルオ・ル・ケイのことですな」


「…!それは、どこのケイですか!」


私も思わず乗り出してしまう。

血牙の紋章がメムリット族の血筋に関係あるのなら、その聖痕を持った災竜は、メムリット族と何かしらの関係があるのだろう。

もしかしたら、この島に手がかりなどがあるかも知れない。


「……いやいや、アドルオ・ル・ケイというのは特定のケイのことではありませぬよ。あるグオーシャ…災竜のみを指すものです」


けれど、モルガイさんの口から出たのは、予想だにしなかったことで。



「…アドルオ様なら案内できますよ。村の裏手に、いつも居ますので」



「……え?」

「———は?」

「…なに?」


どれが、誰の声だったのか。

わからぬまま、全員が同時に困惑の声を上げていた。


———


村の入り口でメルリ達を襲ったメムリット族、ロキ・イーリスは、ぶらぶらと森の中を彷徨っていた。

モルガイじい様に叱られて、思わず逃げ出してしまったのだ。

あんな。あんな縮こまっているだけのオリヤ・メイを前にして。


それは彼にとってはとてつもない屈辱に等しかった。

なぜあの時、じい様の叱責を無視して攻撃を続けなかったのだろう。


両耳を押さえられていたから?

違う。人間の子供二人、容易く降り解ける。


大きな人間の男に、怯えていたから?

…違う。自分は分かる。あれは外を繕っただけで、中身は大人になりきれてない子供だ。



…それでは、なぜ?


「……チッ」


小さく舌打ちをうつ。

自分が逃げ出した理由など、自分が一番わかっている。わかっているからこそ、納得できない。

そんな自分が許せない。


「…仕方ねぇ。時間外だけど、行くか」


誰に聞かせるでもなく呟く。

自分が許せない時は、動けば。激しく動いて自分の全てを出せばスッキリする。

最も、村のヤワな連中では手を抜いても勝ててしまう。この村には、自分のイライラをぶつけられるような同族はいない。

…同族は。


森の中を大きく回って、村の裏手へ。

まるで過去から切り取られたような空間が、そこにはある。

明らかに異質な、ヒビ一つない石積みの山。

燃やされた後のような、草一本生えない地面。そして無人を思わせるこの空間で、そこだけ生活感を醸し出している巨大な建造物。


頂上に鎮座している、建造物と同じく巨大な生き物。

ロキ・イーリスは、それへと目線を向けて、口を開いて言った。



「アドルオっ!」


…人間が災竜と呼ぶ、その怪物の名を。


「……」


彼に気づいた怪物が、ゆっくりとその眼を開いた。

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