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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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3、メムリット族の村 1

慣れない生活にやっと慣れてきた頃のこと。

私は、村の同年代の子達と上手くいかなくて、なんとなく一人ぼっちになっていた。ぶらぶらと村の外れを歩いていた時に、森の出口のところに、それはいた。


「ねぇ、君、大丈夫?生きてる?」


小さくて、弱りきった、丸い生き物。

触れてみても、生き物の暖かさが感じられなかった。


「たいへん!ダックさんに知らせなくちゃ!」


この時、ダックさんが動物好きだということはまだ知らなかったけど、頼れる知り合いの大人が、彼氏しかいなかった。だから、何かと彼に頼ったものだ。


ダックさんは、すぐに応急処置を施して、村の医師のところへ連れて行った。獣の治療は初めてだと愚痴をこぼす医師を急かして、治療を終える。

ダックさんから、この生き物の名前はメムリットだと聞いた。


「そのメムリット、どうするんだ、メルリ?」


「飼う…ことは出来ない?」


安静に眠っているメムリットを見ながら、そんな会話をした。ダックさんは、少し迷ったような仕草をした後、しっかりと世話ができるならと、飼うのを許してくれた。


「……ペムゥ…?」


目を覚ましたメムリットに微笑みかけて、子供心に家族になったことを伝える。


「それで、名前は決めたのか?」


「名前かぁ…」


まだ困惑しているメムリットを撫でながら、考える。名前は大事だと昔の偉い人が言っていたっけ。


「ペム…」


「…じゃあ、鳴き声がペムだから、ペミーで!」


「ムゥ…?」


不思議そうに首を傾げるペミーに、私は再び笑いかけた。

それが、私とペミーの出会いだった。


———


やがて森を抜けると、草木の生えていない広場に出た。

港では見なかった建築物の跡が、いくつも見える。最も、その全てがほとんど朽ちかけでその古さを思わせた。


そして、ほとんど瓦礫であるそれらの隙間や木にできた穴から、何匹ものメムリット族が顔を覗かせていた。


「うわあ…!」


誰かが驚きの声を漏らす。

こんなに沢山のメムリット族が集まっている光景なんて、はじめて見た。この旅に出てから、私たちは初めての光景を見ることが多い。


「…モルガイ!ウージャ!ミージャ!」

「ウージャ!ウージャ!」「…ミージャ?」


メムリット達が、そんな言葉を発しながら集まってくる。

それが彼らの言葉であると分かっていても、その光景は異様だった。文字通り、言葉の通じない世界なのだから。

と、モルガイさんが近寄ってきた一人 (一匹?)に言った。


「ウージャ、イル・グオーシャ!」


途端に村の中がざわついた。

言葉の分からない私たちは、置いていかれるしかない。けれど、彼が最後に言った言葉は、私が不思議に思ったそれと同じ発音だった。

ざわつく彼らから、私たちに振り向いて、モルガイさんが呟く。


「そういえば説明しておりませんでしたな。ウージャはあなたたち人間のこと、ミージャはワシらのことですじゃ。イル・グオーシャは…まあ、聖女様のことで良いか」


正確な意味ではないが、とりあえずそう覚えてくれと、モルガイさんは言った。

つまりモルガイさんは、村のメムリット達に私たちが聖女一行であると、知らせたと言うことか。

それならこのざわつき様も分かる。


「モルガイ!ミージャ、ケイ?」


「おお、おお。そういえば聞いておらんかったのう」


メムリットの一人からモルガイさんが何かを聞かれた時、再び腕の中のペミーが震えた。

不思議に思って視線を下ろしたのと、モルガイさんが私たちに質問したのは同時だった。


「お主、ケイは何ですかな?」


「ケイ?」


「川の…いや、まあ…血筋的な意味ですな」


私の疑問に、モルガイさんは考えながら答えた。メムリット族にも、人間のような血筋があると言うことなのか。

ペミーを見下ろすと、彼…も、私を見上げた。その瞳が震えていたように見えたが、それは直ぐに消えた。

そして、モルガイさんに向けて、彼らの言葉を話した。


「……アヌシ…」


ペミーから彼らの言葉が出たことに、なぜか胸の奥がギュッとなる。

しかし、それを機にする余裕はなかった。

ペミーがそう言った瞬間、明らかに村に緊張が走ったからだ。


「な、なんだ…?」


「これは…」


静かな緊張に広がりに、困惑したカイの声。

ダックさんも息を呑んだのが分かる。


「…そう、か…()()()()…」


モルガイさんがあからさまに狼狽えた。

エルギオが、緊張したように私に視線を向けた。私はそれに頷く。

何があっても対処できるように。


瞬間、私に向かって弾丸のように白い塊が飛んできた。


「…わっ!?」


咄嗟に横に躱わす。姿勢を直して向き直ると、私に躱されて地面に激突した塊は、メムリット族の一匹だった。

あんなに素早く動けるなんてと、驚愕する。

地面に突っ伏したメムリット族が、顔を上げる。


「…ムゥゥ…」


ペミーとは似ているようで違う、薄い青色の毛。

可愛らしいはずの瞳を鋭くして、明らかな敵意をこちらに向けているのが分かる。

そのメムリット族は、私を睨み、視線をペミーへと移してから、跳ねた。


「……っ!」


ただ、メムリット族の大きな耳をぶつけてきたのは、分かった。

咄嗟に捻った体の肩に、予想外で予想以上の衝撃が走る。


ペミーを抱く力を、強くする。

縮こまって警戒した追撃は、来なかった。

振り返ると、エルギオとカイがそのメムリット族の耳を抑えていた。


「…()()っ!」


ダックさんに抑え込まれながら、モルガイさんが叱責する。

叫んだ名前は、襲いかかってきたメムリットのものだろうか。

ロキと呼ばれた彼は、モルガイさんの叱責にそっぽを向いて男子二人の拘束を振り解いた。


「…うわっ!?」


「…ち、力が強い…!」


彼は再び、私ににじり寄る。

私は、ペミーをギュッと抱いて彼を睨み返した。


何が起こっているのか、全ては正確には分からないけれど、少なくとも彼がペミーを狙っているのは分かった。

大事な仲間を、傷つけされるわけにはいかない。

私はもう、小さなことで泣き喚きなんかしないと、決めたのだから。


私の中で縮こまるペミーを見た彼は、目の鋭さを強めて口を開いた。


「お前、イル・グオーシャといっしょで、なぜ戦わない!」


小さな体から発された、細く高い声。人間の言葉。

それでもその声色は、どこか擦れていた。


「ペム…」


「…っ!縮こまる、な!()()()()()()の、くせに!」


「ロキっ!!」


ついにモルガイさんが怒鳴った。

怒鳴られたメムリット…ロキ、は、バツが悪くなったのか、森の中へ逃げた。


場の緊張が解ける。

ダックさんとカイの助けで立ち上がる私に、モルガイさんが謝ってきた。


「すまんのう。今の子…ロキ・イーリスというんじゃが、彼は少し複雑での」


「ロキ・イーリス…あなた達も、苗字を持っているんですね」


エルギオの問いに、モルガイさんはそれも言っていなかったと自責した。


「これは…ケイの名じゃよ。お主らでいうところの…氏族名、で合ってるかの?ま、苗字でもいいがの」


そう言って、モルガイさんは私たちに向き直った。


「改めて…モルガイ・ケイオールの名において。ようこそ、メムリット族の村へ。我らは、そなたらを歓迎しよう」


立ち上がった肩が、ズキリと痛む。ロキに叩かれたところが、痣にでもなっているのだろうか。

カイとエルギオの高速を解いた彼が、とてつもない力を持っていたのが分かる。

メムリット族であるのに、人間を傷つけられるなんて。


モルガイさんが、自身の住処へ私たちを案内する。ついていく皆から離れて、ロキが走って行った森を振り返った。


「ペム…」


腕の中で鳴いたペミーへ、視線を落とす。彼…と呼べるほど、まだ慣れてはいなけれど…は、ロキのことをどう思っているのだろうか。


「…行こっか、ペミー」


呼びかけて、みんなの後を追う。

ペミーの視線が、それでも森の中へ注がれていたことに、気づいていながら。

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