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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第五章 その爪牙に祝福を
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1、採掘の島

ケイオール島に着くまでの数日間、私たちは思い思いに過ごした。


ダックさんは、よく話すようになった。自分が思っていること、考えていることを共有してくれるようになった。

カイはそんなダックさんに質問するようになった。彼曰く、人生経験の多いダックさんから学びたいのだという。

そこにはエルギオも混じって、災竜を殺さずに聖痕を得るという目標に向かって、試行錯誤しているようだった。

私もうかうかしていられない。



「竜の時の動きも、やっておきたいなぁ」


ある時、エルギオがそう呟いた。

ある程度は人の姿のままでも戦えるよう、カイから剣の稽古をつけてもらっていた時だった。

カイの故郷のフェキシフト島は、当時の世界最強の軍事島だったのもあって、カイは私達の中で一番の腕っぷしだった。

今までは、それを活かせる場面が無かっただけで。


「今のエルギオは、どう動いてるんだ?」


「あ、それ、私も聞きたいかも」


男子二人の隣で、ダックさんから最低限の護身術を教えてもらっていた私も、興味を示した。


「殆どはギルギと闘った時の経験からだけど、それ以外は…勘、かも」


「…じゃあ、今の竜の動きがあるのは、殆どギルギのお陰…ってことか?」


「…そう思えば、初戦がギルギだったことは、案外悪いことではなかったのかもな」


ダックさんも会話に入ってくる。彼が普通に話してくれることに、私はまだ慣れていない。


「…竜の姿の時も、色々試したいことがあるんだ。まだ知らない力が、災竜にはあると思うから」


「けれど…」


こんな空中のど真ん中で災竜になるのは、危険だ。

遮蔽物も何もないし、どこで誰が見ているかわからない。

ダックさん曰く、メーレンさんは事情を何となく分かっているらしいけど。

エルギオも危険性は分かっているらしい、言葉に詰まった私をみて溜息をついた。


「…やっぱり、実戦で積んでいくしかないかなぁ…」


「…メルリ。そう言えばペミーは?」


木剣を握りしめたまま、思い出したようにカイが言った。


「ああ…それが、最近なんか変で…」


ペミーは、コンボボロ島を出てから、明らかに様子が変だった。

いつも通りに懐いてくれているのは分かるし、呼べば来てはくれる。

けれどもふと、どこかを見ているように無反応な時があるのだ。


「…ダックさんは、何か分かる?」


「…ふむ。ペミーはメムリット族だったな?」


彼の専門ではないが、動物好きのダックさんなら何か知っているかも知れない。


「…メムリット族は精神性がかなり複雑だと聞く。何か、ストレスになる事でもあったのだろうか?…これだという確信は持てんな」


「そっか…ありがとう」


「さ!雑談はここまでにして、稽古の続けをするぞ、エルギオ!」


快活なカイの声が響く。ペミーのことは、後でダックさんに見てもらうとしよう。


「…なるべく、優しくしてほしいんだけど…」


「それは、エルギオ次第だな…っ!」


二つの木剣がぶつかり合い、カンカンと心地いい音を出す。

それを見てから、私もダックさんに向き直る。


「…それじゃあ、こちらも再開するか。さっき教えた型、覚えているか?」


「うん。えーっと——」


災竜を倒し、世界に平穏をもたらす。そのためには、私たちはあまりにも弱かった。

けれど、弱いままではいられない。

だから、強くならなきゃいけない。

その一歩を、私たちは少しずつでも踏み出し始めていた。


その翌日、ケイオール島の島影が見えた。


———


降り立った私たちは、すぐにこの島が異様であることに気づいた。

港に、人影一つなかったのだ。

それどころか、目立つ建造物一つ見当たらなかった。

ただ、だだっ広い広場と、その奥に森が続いているだけ。


「ここが…ケイオール島、なの…?」


コンボボロ島と違って、ケイオール島について私たちは殆ど知らない。

『浮遊石』の原産地であるという情報以外、調べようがないからだ。

だから、どんな島なのかと、少しは胸を躍らせていたのだけど。

はっきり言って、不気味だ。


「島、跡…?」


カイが、他でもないカイが呟く。

島跡。

様々な理由で人が撤退した島の跡のこと。

そして、その理由のほとんど全てが、災竜による被害だ。

例えば、フェキシフト島のような。


「…いや、それはない。島跡であるなら、建造物の跡ぐらいはあるはずだ」


ダックさんが、いつもの冷静な声で言う。

この冷静さに、いつも本当に助かっている。


「…初めから、何も建っていなかったのだろう」


「そっか…それなら、よかった」


カイが安心した声を出す。

それじゃあ、この島は無人島って事になる。


「でも、ここは『浮遊石』の原産地なんだよね。無人なのはおかしくない?」


エルギオが当然の疑問を口にした。

原産地と言うからには、『浮遊石』を採る人、島の外へ売っている人が居るはずだ。

採掘の時期ではないのかもしれないけど、それでも大事な資源である『浮遊石』を盗掘されないよう、警備員ぐらいはいるはずだ。


「少なくとも、無人なのはおかし…お?」


その時、近くの茂みから何かが飛び出した。


「…え…メムリット族?」


まん丸とした形の体に、大きな垂れた耳。私が抱えているペミーと同じ、メムリット族だ。

そしてそのペミーは、現れたメムリット族に向けて、微妙な視線を送っている。


「…ムゥ…?」


現れたメムリット族は、低い声でも確かにメムリット族の鳴き声を発した。

しかし、ペミーはそれに何も返さない。同族のはずなのではないのだろうか。


と、いうか。


「かわいい…」


正直、色々辛いこともあった旅の中で、ペミーという存在は癒やしでもあった。

丸っこくて、ふわふわの触り心地。

ぽよぽよと動く、意外と感情表現豊かな耳。

この誘惑を前に、触るのを我慢できる私ではない。

私は未だ微妙な顔をしているペミーを置いて、現れたメムリット族に近づいた。


「おい…メルリ……」


「…ムゥ…?」


カイの静止は、今は無視させてもらいたい。

私は少し警戒しているメムリット族を、躊躇なく撫でた。

ペミーより硬い毛の感覚が手に伝わった次の瞬間、そのメムリット族が跳ねた。


「ミ…っ()()()っ!」


「わっ…えっ!?」


飛び跳ねたことよりも、そのメムリット族が何か言った事に、私は驚いた。

そもそも今のは、メムリット族の鳴き声なのだろうか。

飛び跳ねたメムリット族は、私を胡乱げに見た後、口を開いた。


「………え?」


硬直する。

私以外のみんなも。今起こったことが、信じられなかった。

だって、だってメムリット族が。


「…何度も言わせるな!気安くワシを撫でるなと言うておる!」


人の言葉を、話すなどと。



「喋った…」


カイがこぼす。

それを見て、目の前のメムリット族は佇まいを直した。


「その反応…お主ら、なぜこの島に来た?」


「あ、え、えっと…」


処理する間もないまま、質問を投げかけられる。

ダックさんのようにいつでも冷静にいたいと思うけど、流石にこれは無理だ。結局、しどろもどろの答えになってしまった。


「あの…私、聖女で…」


後ろでカイたちが、微妙な顔をしている気がする。


「聖女…ああ、()()()()()()()()か」


「イル…え?」


「…残念じゃが、聖女であろうと採掘人が居なければ、島に入れることはできん」


「…入れないのですか…その、採掘人とは?」


島に入れないと聞いて愕然とする私の後ろで、ダックさんが適切な質問をした。

採掘人という人が居なければ入れないのであれば、逆に居れば入れる。


「部外者には教えられん」


「…それは……」


その時、後ろから、私たちが乗ってきた空船から足音がした。

振り返ると、メーレンさんが何やら焦った様子で来ていた。


「メーレンさん、どうしたんですか?」


「…いえ。もしかしたら、私が必要かと思いまして」


「…え?」


話しかけたエルギオがそう言うのと、話すメムリット族がメーレンさんを見つけたのは同時だった。


「…なんじゃ、ちゃんといるじゃないか」


「…居るって、何がよ?」


「…まさか」


ダックさんの言葉と共に、私たちの視線はメーレンさんに集まった。

その時になって、メーレンさんはメムリット族を見つけた。


「…ああ、やはり。久しぶりですね、()()()()()()()


その言葉だけで、十分だった。

カイの震える声が響く。


「じゃあ…メーレンさんって…」


「—はい。私は元々、この島の採掘人でした」


久しぶりに、私の思考が停止した。

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