幕間、昔日
草むらを駆け抜け、少し開けた所で止まる。
必要はないが、周りの音を聞く。
何も聞こえない。気配を探っても、何もいない。
(流石だな…)
こっちの言葉でそう思う。
あれほどの巨体で、どうやって気配まで消しているのだろうか。
こんなに小さな自分ですら、気配を完全に消すのは難しいのに。
そんな無駄なことを考えていたから、既に襲われていたことに気づかなかった。
「…っ!」
間に合わない。
この時、自分は死んでいた。自分を襲ってきた彼が知り合いでなかったら、確実に。
それなのに、これは訓練だから生かされた。それがちょっと、悔しい。
「…戦闘中に、考え事をしてはいけませんよ」
自分を殺せた彼が、そう駄目だしをする。
「…⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎は、何も考えてないの?」
悔しくて、わざとそう聞き返す。
彼は明らかに嫌そうな顔をした。自分が、こんな質問をするはずないと分かっているのだ。
「……そういう話ではないです。揚げ足を取らないで」
「…ぷっ、あははははっ!」
吹き出してしまった。
それで、彼の視線が、さらに恥ずかしさで横に逸れる。それが本当に面白くて、さらに笑い声を上げた。
いつかの、大切な一日の記憶だ。




