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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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16、その花束に約束を

扉を開ける。いつも通りの、最低限の家具が揃った部屋。

紛れもない、自分の部屋だ。


甲板で呼びかけたメルリ達が、どこか不安そうな顔で部屋を見回す。

そこまで恐れなくても良いのだが。


「…入って、いいんだぞ」


コンボボロ島の島主からもらった花束を、しっかりと抱え直してそう言うと、カイが顔を顰めて言った。


「…いや、そうは言ってもさ、ダックさん。突然部屋に来て欲しいって言われて、困らないわけなくない?」


「…言いたい事があるって、言ってたよね。甲板じゃ駄目なの?」


疑問を投げてきたのはエルギオだ。

首肯する。今からする話は、あまり人目につかせたくない。


「…それで、話したいことって何ですか。ダックさん?」


「…ペム」


部屋の扉を閉めたのを確認して、メルリが開口聞いてきた。

自分の横にいたペミーが、視線をこちらに向けて催促してくる。

床に座ると、彼らも自分の前に各々座った。


さて。どこから、どう話そうか。


「…今回、俺は自分の無力さを実感した」


何から伝えて良いか分からず、とにかく一番大事なことから切り出した。

当然、子供たちは困惑した表情になる。

それでもじっと聞いてくれているのは、自分のこういう性分を分かってくれているからなのだろう。


「…ずっと思ってはいたのだ、自分はとても無力だと。ネイケシア島の時も、ハーマレー島の時も」


前者では、ただ呆然として何もできずに終わり。

メルリが、彼女が大きなものを抱え込んだことにも、気付いていたのに踏み入らずに。


後者では挙句、怪我如きで生死を彷徨った始末。

守るべき彼らを、それで失うことの恐怖に晒した。


まったく、本当に無力がすぎる。

結局自分はあの時から、両親を失ったあの時から何も変わっていないのだ。

一丁前なことを考えるだけで、いつも行動に移せない。


「…そして、今回も」


レイナという名の災竜に攫われたことは、すべて悪かったとは思っていない。

咄嗟にカイを庇った故のことだし、それでグレム氏としっかり話す時間ができたからだ。


それでも、子供たちを再び失う恐怖に晒してしまったことは、自分でも許せなかった。

だから。


「だが…それはもうやめだ」


何もできない自分が、言うだけで行動に移せない自分が、吐くほどに嫌だ。


そんな自分から、変わりたい。

彼らの親として、成長したい。

もう逃げないと、覚悟は決めた。


だからと、宣言する。


「…もう、君たちを恐れされるようなことはしない。させない」


大人として、全然なっていない。

親としても、とても恥ずかしい宣言だ。

もしかしたら、今まで自分は、彼らの親だと勝手に思っていただけだったのではないか。


そうだとすれば、本当に自分は——



「…ダックさん」


聞こえた声に、いつの間にか下げていた視線を上げる。

すぐそばに見える、三つ…四つの大事な家族の顔。


「そう思ってくれて、嬉しい。でも私、もう大丈夫だよ」


メルリの次は、カイ。


「うん。俺も、ダメダメだったけど、強くなるって決めたから。もう動けなくなったりしないぜ」


彼らの瞳には、既に強い光が宿っていて。

ああ、本当に。


「二人はこう言ってるけど、僕もだけどやっぱり弱い所はあるし、未熟な部分も多いと思う」


最後は、エルギオ。全員の中で、一番大人びているように見える子。

だけど年相応の弱さもあって。


「…だから、そういう時は頼らせてほしい、です」


本当に、ほんとうに、じぶんは。

仲間としても、親としても、駄目じゃないか。

彼らの成長にも、気付けなかったなんて。


けれど、自己嫌悪はすぐに消えた。

代わりに湧き上がってきたものに、心底困惑するが、すぐに受け入れる。


そして、自分でも驚くぐらいしっかりと、彼らを抱きしめていた。

論理的な理由なんて、あるわけない。


「ちょ、ダックさん!?」


カイの悲鳴を無視して、ぎゅうっと彼らを抱きしめる。

暖かさが、皮膚を伝ってくる。


「ああ…そうだな。そんな時は、構わず頼ってくれ」


実感する。

彼らはもう、子供ではなかったのだ。

一方的に守られる存在でも、ただ導かれるだけの存在でも、なかったのだ。


誰かを守り、なんとか自分の道を示そうとしている存在なのだ。

それならば自分は、その後ろをそっと支えるだけで良い。


それが、今の成長している彼らの親として、俺があるべき姿なのかもしれない。


「………うん、分かった。頼るよ」


誰が言ったかすら、分からなかった。


滲む視界に仲間(家族)が見える。

どこまでも小さくて、どうしても弱い。

そしてそれは、自分もそうで。


(まるで…)


花のようだ。

すぐに散ってしまう、儚い彼らのようだ。


でもだからこそ、こうやって抱きしめ合うのだろうか。

温め合って、慰め合って、そして支え合って。

こうやって一つになるのだろうか。

手に持った、この花束のように。


(命の…花束…)


意味合いも何もかも違うのに、そんな懐かしい言葉を思い出して、珍しく口角が上がった。

胸の奥底から、熱いものが湧き出てきたような気がした。


———


花畑の中に建てられた石積み。

そこにやってきたアンナ・コンボボロ・エルーシアが石積み…レイナの墓に持ってきた花束を置いた。

墓の前に、二つで一つとされる花が植えられている。ヒヨクソウという名のその花を少し眺めてから、アンナは口を開く。


「…レイナちゃん。私、決めたの」


墓石に話しかけるように、誓うように。

普通の墓のように、魂柱は使わなかった。他の島民には、これは花守を祀ったものだと伝えているからだ。

これが墓だと、知られてはいけないのだ。


「いっぱい勉強して、島中を花と動物でいっぱいにするって…それで…それ、で……」


堪えきれなくなった少女の肩が、震え出す。

グレムがそっと、そこに手を置いた。


「…私も、誓おう。…いや、約束しよう」


何年も島の花と命を守ってきた彼女が、最後まで叶えられなかった願い。

それを叶えたいと、彼は思う。


「…いつか、あなたの夢を叶える、と」


「…うん。でも、それだけじゃないよ」


「え?」


予想外のアンナの言葉に、グレムは首を傾げる。

今のことを言いに、ここに来たのではなかったのか。まだ何か言いたい事があるのだろうか。


「…いつか、レイナちゃんの夢を叶えたら…私、この島を出る」


「…!」


「それで…広い世界を、好きなように生きてみたい…!」


叶えられなかった願いは、もう一つ。

レイナと約束をしながら彼が抱いていた、正反対の願望。


「二人の夢…私が、いつか叶えるから」


涙は拭いて。

悲しみはまだ顔に滲んでいる。泣きたくなるほど苦しいのが、震える肩から分かる。

それでも確かに、彼女の心は晴れたような気分だった。

自分がしたいこと。やるべき事を見つけられたからかもしれない。


「だから、見ててね——約束だよ」


墓の前に植えられた比翼の花が、そよ風に揺れる。

花束に約束を告げた彼女が、その風に吹かれて、陽だまりのように笑った。



それぞれが、それぞれの立場で、それぞれの思いを胸に誓う。


その花束に、約束を交わして——。

第四章 終


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