表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
50/167

13、リトル・ラヴァー

彼は、飄々とした人だった。

私が災竜であると分かっていながら、友達になろうなんて言い出した。

けれど、私は彼の提案を受け入れた。それが、今の私にできる罪滅ぼしだと思ったから。


「君が地上にいれば、鳥も虫も寄ってこないと思うのだが、そうもいかないよな」


「鳥や虫が寄り付かないような、大きな物を置くってことは出来ないの?」


毎日、彼と頭を突き合わせて試行錯誤を繰り返した。苦闘の日々は、正直楽しかった。

彼は毎日、新しいことを考えてきた。それを一緒に吟味して、実践してみるのだ。


「個人的にこれは上手くいくと思ったんだが…やはり難しいな」


「虫が嫌いな匂いだと、思ったんだけど…」


結果は上手くいかないことがほとんどで、たまに上手くいっても別の問題が出てきて、最初から考え直しになる。


「仕方ない!別の方法を考えようじゃないか。…だから、そんなに申し訳そうにするな」


「……うん。分かった」


それでも、その日々は楽しかった。

本当に、楽しかったのだ。

だから、時間はあっという間に過ぎて。

竜の力を授かった自分が、人間とかけ離れた寿命を持ってしまっていることに気づいて。

気付けば彼は年老いていた。



「…約束する」


彼の夢を継ぐ。

この先も、この島の命と花を守って。

いつか、世界中を命で満たすと、約束した。

彼は静かに、笑っていた。


「あんまり大きな小屋じゃない…仕方ないよね」


その後は、誰とも関わらなかった。

日中は基本人の姿で、森の中に彼が隠し作ってくれた小屋に住んでいた。

竜の姿になるのはあの洞窟。私が引きこもっていた洞窟だけにした。

そして、花喰い虫や攫い鳥が活発になる夜になると、人目を盗んで竜の姿に。


「怖がらないでね…大丈夫だから…」


最初は、牧場の動物たちを怖がらせてしまったが、私が何もしないと見ると少しずつ警戒を解いていった。

そんな日々が続くうち、ふと思った。

牧場で眠る生き物達や、夜風に揺れる花々。

私は、それらの側にずっといていたいと。


「…いや、なんだそれ」


ちびな私が言うのもなんだが、私は彼らが好きになっていたのかもしれない。

そんな予感は、年月を重ねるたびに確信に変わっていった。


「……気のせいじゃ、ないのかも…」


人も、花も、綿鹿も、竜の自分と比べれば遥かに小さい。

おまけに、次の世代に渡すことがわかっているかの如く、すぐに死んでしまう。


「けれど…」


引きこもらずに、生きている。

生きることから、逃げない強さを持っている。

災竜なんてもの(わたしたち)がいるのに、明日を諦めずに、必死に。


「……」


その姿に、背中を押されていたのだろう。

自ら選んだ一人ぼっちで、それでもその孤独に潰されずに生きていけたのは。


「…ヒヨクソウ…」


他の花に囲まれて咲いていたそれを、自分は何を思って能力を使って収納したのか。

彼との、紛れもない思い出だったからか。


「なんだかなぁ…」


ちびな私は、小さな想い人(リトル・ラヴァー)なんて名を貰ったけど。

人を、生き物を愛せるそんな私は、小さきものへの想い人(リトル・ラヴァー)なんて名乗っても良いかもしれない。

夜の空を見上げながら、そんなことを思った日もあった。


そんな、ある日のこと。

久しぶりな同族が、島にやってきて。

4年後、自分が死ぬ運命にあると知らされた。


「…まぁ、突然言われてもって感じだよな…」


呆然とする私に、知らせに来た同族の中で情報通と呼ばれていた彼は、そう悲しそうに笑った。


「……笑い事じゃ、ない…」


「それはそうだが、あいにく俺には関係ないんでなぁ。同情しか出来ないんだ、ごめんな」


その言葉が、彼の精一杯の誠意だというのには、気づくに時間がかかった。

彼は、頑張れよと言葉を残して去っていった。


「頑張れって…何を…」


何を頑張れば良いのだろう。

このまま、ここで自分は死ぬ運命を待つのか。

でもそうなったら、この島の花と命は誰が守るのか。

そもそも私は、死にたいのか。


「死にたくは…ない……」


多くの人を殺したのに?

その清算すら、まともにできていないのに?

そんな自分が、このままのうのうと生きるのか?

ぐるぐると堂々巡りに考えがまとまらず、気づけば夜になっていた。


「いけない…竜の姿に…守らないと」


ぶつぶつと呟きながら、いつもの場所に行く。

そして、気付いた。

まだ竜の姿になっていないのに、外敵がどこにも見当たらないのだ。

花を啄む虫も、綿鹿を攫う鳥も、どこにも居なかった。


「なんで…」


いつも自分がいるから、場所を覚えて寄り付かないのかと思い、他の場所をあたってみても、どこにも外敵の姿は見当たらなかった。


翌朝、私は島主の館に忍び込んだ。

グレンの子孫だから、何か情報が残っているのだろうと浅く考えていた。

けれど、私が見つけたのはとんでもない物だった。


『花喰い虫は、オーリアス島から輸入した真音石で追い払える』

『攫い鳥は、彼らの休憩所となる木々を減らして対策する』


「なに、これ…」


それは、天敵から花や命を守る方法。

私とグレンが求め続け、遂に辿り着かなかった答え。

私が人と関わらなかった数100年の間に、人々は答えを見つけていた。


「……ああ…なんだ……」


ため息が溢れる。

私が、もう私が守らなくても。彼らは守る術を手に入れた。

私はそれまでのつなぎ。私の役目は、もう終わったのだ。


(なら…受け入れよう、運命を…)


足から力が抜け、崩れ落ちる。

自分の意味を失ったのに、なぜだか心は重い荷をおろしたように晴れやかだった。

だって私が愛した命たちは、もう私がいなくても生きていけるのだから。



覚悟を決めた、数年後。運命の日の、ちょうど一年前。

グレンが、彼が落ちてきた穴から。

今度は、少女が落ちてきたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ