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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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12、少女と災竜 3

グレムが口を閉じた時、アンナちゃんは呆然としていた。

彼女にとって、難しい話ではなかっただろうか。ちゃんと理解できたのだろうか。

そんな不安が、胸によぎったが。


「…私、レイナちゃんに言わなきゃ」


そう言った彼女の顔は、覚悟をまとった真剣なものだった。

やはり彼女は強いな、とダックは思った。


「アンナ…」


「言わなきゃ。グレンさんの気持ちと…私の」


そこで突然、辺りが白い光に包まれた。


「なんだ…!?」

「ひゃあ…!」

「アンナ…っ!」


各々悲鳴を上げながら、ダック達は白い光に飲み込まれたのだった。


———


僕の爪が刺さった彼女の首から、赤い鮮血が吹き出した。


「なっ…!?」


突然の出来事に、思考が止まる。

その一種の隙に、彼女は僕の爪を動かして、彼女自身の喉元までを抉らせた。

柔らかいようで固い感触が爪から流れ、鮮血が滝のように溢れ出す。


「…っダメだ…!」


慌てて彼女の両腕を振り払う。

そして、空いた腕と全身を使って、彼女の首元を押さえた。

どうにかして、これ以上の流血を抑えなければならない。


その時、視界の端に走ってくるメルリとカイが映った。異変を察知してきたのだろう。


「二人とも!今すぐ治癒師を連れてきて!彼女を…っ!」


がむしゃらにそう叫ぶと、二人とも驚いたようだった。


「エ、エルギオの声が…!?」


「…これが、『心話』ってやつなのか…!?」


…どうやら『心話』の力は今まで思っていたものとは、少し違うようだ。

けれど今は、それどころでは無い。そう思い直したのか、二人も驚きを消して頷いた。


その時、今度はその場が光った。

突然の出来事に驚愕する間も無く、その場に三つの人影が現れた。


「ダックさん…!」


「アンナちゃんに…グレムさんも!」


「二人とも…ここは」


辺りを見回した三人は、僕らの方を見て絶句した。


「レイナちゃんっ!」


真っ先に反応したのはアンナちゃんだった。叫んで、倒れているレイナへと駆け寄った。

溢れ出る彼女の血で、周りの花畑も、僕の白い毛も赤く染まってしまっている。


アンナちゃんが彼女の体に触れた時、今度は僕が押さえていた彼女の体の部分が、弾けた。


「うわっ…!」


飛ばされて、後方の花畑に尻餅をつく。

大きな揺れがメルリ達を襲ったが、事態はそれどころではなかった。


弾けたところから、光が上がった。

正確には、赤く光る物体がゆっくりと現れたのだ。

大きさは、人一人分くらい。

僕は、それがレイナの心臓であると、直感で悟ってしまった。


「それが聖痕…受け取って…」


レイナの衝撃の告白に、全員が目を見開く。


「無理だ…これは、受け取れない…」


怯えたような、自分の声が漏れる。

身体から力が抜ける。爪先が震え出す。


その場の誰もが察した。悟った。

察してしまった。悟ってしまった。

レイナが、彼女がもう、助からないことを。


———


「レイナちゃん…っ!死んじゃ…だめ…っ」


彼女が、優しい彼女が泣いている。

涙を、嗚咽を必死に抑えて泣いている。

泣かせたのは、私だ。

弱かった私が、泣かせた。


「だめだよ……グレンさんがっ…」


涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、彼女は不意に懐かしい名前を出した。

遠くなっていく意識を手繰り寄せて、瞳を開ける。

口からヒュウと、空気が漏れた。


「グレンさんがっ…手記、で、ごめんって…」


「……え?」


言われたことが理解できない。

グレンは、彼は、手記の中で私に謝罪していたのか。

当時の私と、真逆のことを考えていたのか。


「なん、でっ…」


口からゴボッと血の塊が落ちる。

彼の気持ちが分からない。


「…グレン…さんは…っ!」


そう言って、アンナちゃんは手記の最後の部分を、口に出した。



———

どうか彼女に会って伝えてほしい。


君は、もっと笑っていい。

君は、もっと思うがままに生きていい。



君は、()()()()()()()

———



瞳が見開く。

自分が息を呑むのが、分かる。

ずっと知らなかった、彼の本心。知らなかった、彼の後悔。


「……なに、それ……っ!」


開いた口から声が漏れる。ごぼごぼと溢れる血とともに。

開いた瞳から涙が溢れる。たらたらと流れる血とともに。


だってそんなのは。

彼の謝罪は、私への気持ちは。


あまりにも、今更すぎて。



——


生まれた時から、私は体が小さかった。

学舎に入ってすぐ、()()だなんだといじめられた。

弱かった私は、二年で抗うことを諦めた。

学舎なんかに行かず、家の、自分の部屋に閉じこもった。

自分の身体の小ささが、恨めしかった。


そんな日が数年続いた。詳しいことを聞かずにいてくれた家族には、正直迷惑をかけたと思う。

それでも、当時の私には彼らの気持ちを考えられるほどの余裕はなかった。



そして数年後。ドラメル族としての運命の日が来た。

『竜の奇跡』の、解放の儀。

自分の中に刻まれた力を、()()()()()()()()()()()儀式の日。

竜へとなれば、小さくは無くなる。私はもう、()()じゃ無くなる。

だから、私はこの日を待ち侘びていた。


しかし、竜の姿へとなっても、私は同族の中では小さい方だった。

おまけに、リトル・ラヴァー(小さな想い人)なんて竜名まで付けられてしまった。

私は、私にこんな力を授けた神さまを恨んだ。



ドラメル族としての仕事が始まった。

仕事は、最初は退屈だった。

物を載せて動くだけだ。正直やりたくなかったが、親から少しは動けと言われて、仕方なくやっていた。


ある時、事故が起こった。

船同士がぶつかって、大量の荷物と乗客が空中へと投げ出されたのだ。

がむしゃらに手を伸ばした。ただ、目の前で人が死ぬのは見たく無いという気持ちから。

自分の手先が、赤く光った。私はその時まで、自分の力の全てを知らなかった。


私の力で、投げ出された荷物も乗客も、全てを私の中へ収納できたのだ。

自分の力に混乱しながら、地上で彼らを出してやった。


沢山の人に感謝された。

多くの人を救える力だと、称賛された。

族長にも、親にも。いじめていた彼らも、掌を返した。


嬉しかった。

泣きたいほど、嬉しかった。

こんな自分でもやれることがあると、思えたから。()()な自分でも、人を喜ばせることができると、思えたから。


誇りを持っていた。

やりがいも感じていた。

仕事は、私にとっての、生きる意義になった。


大災害が、起こるまでは。




正気に戻った時、私は多くの人を殺したことを直感した。

吐いた。胃の全てを出し切ってしまうほど。

泣き叫んだ。声が枯れるくらい。

三日三晩泣き喚いて。

私は、近くの島に空いていた地下洞窟に引きこもった。


もう何もしたくなかった。

結局、誰かを傷つけてしまった。

それならもうここで、何も飲まず食わずで、消えてしまおう。

()()な私は、結局は引きこもっている方がいいのだから。



……。

………。



どれくらいそうしていただろう。

竜の力は強すぎて、何日飲まず食わずでもへっちゃらだった。


消えたいのに消えれなくて。

だからと言って、自ら首を絞めるのも怖くて。

それさえ出来ない自分が、どこまでも嫌いになって。

もういっそ、奈落にでも落ちてみようかと思っていた時。


彼が、落ちてきたのだった。

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