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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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11、約束

「…父…様?」


謎の空間に落ちてきたアンナ・コンボボロ・イルーシアは、すぐに目を覚ました。

これと言った目立った外傷もなく、落ちた衝撃で目を回しているだけだった。


「アンナ…よかった…っ!」


自身の娘を抱いて、グレムは涙を流す。

それをダック・ボンデールは、どこか遠いところを見るような目で見ている。

もう二度と会うことのできない、親のことを思い出していた。


「再会を喜ばれるのも分かりますが、それぐらいにして下さい。アンナちゃんに聞きたいことがあります。」


けれどそれはそれ、ダックはすぐに現状の把握に動いた。

グレムに抱かれていたアンナが、それを聞いてハッとする。


「そうだ…レイナちゃんが!…あっ」


「レイ、ナ…?」


慌てて口を塞いだ少女へ、ダックは容赦なく疑問を投げる。


「…花守さまは、レイナという名前なのです」


アンナを離したグレムが、娘の目を見ながらダックに言った。

その言葉に少女の瞳が驚きで見開く。


「…父様は、レイナちゃんのこと知ってるの!?」


「…黙っていて、ごめんよ」


「…そんな」


隠していた事について、グレムが謝罪する。アンナは、直ぐにはそれを受け入れられなさそうだ。


「グレムさん」


ダックは彼へと視線を送る。そして目で、彼がやるべきことを示した。

示されたグレムは、一瞬硬直した後、覚悟を決めるように深呼吸をして、娘へと向き直った。


「アンナ…聞いてほしいことが、あるんだ」


彼は話した。過去の島主の手記によって、花守と呼ばれる災竜について知っていたことを。


「初代の島主、グレン様の手記…聞きたいかい?」


手記の内容は壮大で、それで悲しいものだった。まだ幼い彼女に聞かせるのは、無慈悲ではないかとも思った。

それでも。


「…まだ、よく分かんないけど……私、レイナちゃんのこと何も知らない。何で花守をしているかも、何であんなに悲しそうなのかも」


だから知れるなら知りたいと、頷いたのだ。

強い子だ、とダックは思った。まだこんなに幼いのに、覚悟を決めてしまっている。

返事を聞いたグレムは、少しの間瞑目した後に頷いた。


「分かった。それじゃあ、話そう——」


———


——コンボボロ島の初代島主、グレン・コンボボロの手記——



本日起こったことを、整理がてらに書き出してみようと思う。

昨日、私は大事な母親を失った。今日、その悲しみを紛らわすために森の中をがむしゃらに走っていた。

島主としてあるまじき愚行だと自分でも思うが、そうでもしないと自分の感情に押し潰されそうだったのだ。


そうやって走って。

逃げるように、掻き消すように走って。

木の根につまずいて、洞窟に転げ落ちて。

そこで私は巨大な竜に出会った。


その竜は洞窟の中で縮こまり、私を見て驚いていた。

竜と言ったら、ドラメル族以外に存在しない。

20年前の『大災害』を起こした張本人だ。



——約750年ほど前のことと思われる——



「お前…もしかしてドラメル族か!?」


殺されるではないかと恐れたが、その竜も私を恐れている事に気付いた。


「お前…私を、恐れているのか?」


『ごめん…なさい…』


凛とした、女性の声がした。

何故謝られたのかは、なんとなく察せたのだが、同時に私は困ってしまった。

彼女が私に、『大災害』に対して謝っているのは分かる。しかし、私自身はあまりその被害を被っていない。

寧ろ、ドラメル族の強さに、どこにでもいる男子と同じように憧れていた()()だ。


「あー…その、私は、あまり君たちのことは知らないんだ」


それらの事をなんとかして説明しても、彼女はまだ縮こまっている。

その姿は、怯えているようにも見えた。


「そうだな……君、私と友達にならないか」


思い付いて、突然そんな事を言ってみる。予想通り、彼女は困惑したようだった。


「あーそうだな、最初から説明させて頂きたい。私の夢は、コンボボロと名付けたこの島を、綺麗な花と命で溢れさせたいと思っている」


私の夢だ、と語尾に加えて。

彼女は、困惑しながらも、私の話に耳を傾けてくれた。


「しかし生憎、この辺りは花喰い虫も多いし、獰猛な綿鹿もいる。この夢を叶えるのは至難の業だ」


そこで君だ、と彼女を指差す。


「君の竜の力があれば、それらの害虫や害獣を追い払える。花を守れるという訳だ」


強大な竜の力を、そんな事の為に使うのは贅沢だとも思ったが、知ったことは無い。


「どうかな?やってくれるかね?」


手を伸ばすと、彼女は横長の瞳で私をじっと見つめた後、その体を光に包んで人の姿になった。


「分かった…私も、暴れまわった事の、罪滅ぼしがしたい。あなたの花と命を、守らせて、ほしい」


私より年下のような姿になった後、彼女はそう言った。

殺されなかった事を心底安堵しながら、私は伸ばしてきた彼女の手を受け入れた。

どこからどう見ても、人間の手そのものだった。


「君、名前は?」


「…レイナ。レイナ・ドラメル・エルーシア…」


「レイナか…いい名前だ。これからよろしく」


「うん…よろしく」



——そこから30年ほど、二人の健闘と試行錯誤の様子が綴られている——



「なに、見てるの?」


休憩中に、珍しく彼女の方から声をかけてきた。それが嬉しくて、つい喋り過ぎてしまった。


「これだよ、この花。ヒヨクソウ、という名なんだ」


「ヒヨクソウ…」


「一つではなく、二つでようやく花を咲かすのさ。まるで、私たちのようだと思わないかね?」


一人では夢すら叶えられなくても、二人で一緒なら。彼女と私なら。


「それは…確かに、そうかも…」


「だろう?だから、私はこの花が好きなのだ。別々の種族が手を取り合うことを、肯定してくれているようだからな」


ドラメル族と手を取り合う事に、後ろ暗い感情が無かったわけではない。

だから、こうして肯定してくれることは嬉しかった。


「うん……私も、好きかも」


花を眺めていた彼女は、やがてそう言って小さく笑った。

初めて見た、彼女の笑顔だった。



——約700年ほど前のことと思われる——



最近、体を動かすことすらままならなくなってきた。

私ももう70を越す。そろそろ息子達に島主を譲るのもいいかもしれない。

そんなある日、彼女が人の姿で、私の部屋に忍び込んできた。私を心配してくれたのだろう。


「その…大丈夫…?」


迷ったような仕草をした後、彼女はそう切り出した。


「ははは。この通りピンピンしてますが、寿命には勝てませんね」


冗談のつもりで言ったのだが、彼女に悲しそうな顔をさせてしまった。


「…ねえ、グレン」


「なんです、レイナ」


いつも通りに、お互いに名前で呼び合う。

これができるのも、もう間も無くだ。


「あなたの夢…叶えられなかった」


「ああ…そんなことも言ってましたね」


結局、島中を花と命で溢れさせるという夢は、叶うことはなかった。

北側の土壌が、花を咲かすのに絶望的だった。色々試行錯誤してみたが、ついぞ一輪も咲かなかった。


「だから…私が、代わりに叶える」


「あなたが…?」


「うん…約束する。この島を守って、いつか、あなたの夢を叶えるから…だか、ら…」


最後の方は、声が震えて聞き取りにくかった。

彼女が泣いていた。


「……そうですか。それなら私は、あなたのために色々としなければいけませんね」


「…いや、別に何もしなくていいよ。グレンはゆっくりして…」


「そうもいきません、何かしてないと私が嫌です。そうですね…例えば、あなたのことを伝える唄を作るとか」


そうして、彼女にしてほしいこと、してあげたいことを話し合った。

後に、彼女に事情の知らない他人が近づかないように、掟を作った。

名を、花守の唄とした。



——さらに数年後——



島主の座を息子に譲り、花守の唄を伝えていくよう教育した。

彼女は、今でも一人で私の夢を叶えようとしてくれている。



……。

…………。


分かっている。分かっているのだ。

私はあの時、彼女の覚悟と提案を受け入れた。

けれど本当は、全く逆のことを願っていたのだ。


彼女は誠実だった。

彼女は実直だった。

彼女はどこまでも、優しすぎた。


だから、私の夢なんてものに縛られなくてよかったのに。

だから、こんな島なんかに居座らなくてもよかったのに。



これはもう、意味のない後悔である。

ああでも、できることなら、いつかこの手記を誰かが読んでくれるなら。

それなら、どうか彼女に会って伝えてほしい。



君は————

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