表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
46/167

9、少女と災竜 1

「大丈夫ですか!グレ…島主さんっ!」


ダック・ボンデールは慌てて島主に駆け寄り、その肩を揺すった。

気絶していたらしいグレム・コンボボロ・イルーシアは、すぐに気を取り戻した。


「うーん…あなたは…聖女様の」


「はい、ダックと言います」


「…ここは?」


「分かりません。気付いたらここにいました」


彼も体に外傷はなく、すぐに立ち上がれた。

真っ暗な辺りを、ダックの持つ携行燈が照らす。

照らし出された壁や床は赤っぽく、天井は高くて見えない。

明かりを動かしても、先は見えない。かなり広い空間のようだ。


「一体、何処なんでしょう、ここは」


「わかりません…とりあえず、進んでみましょう」


奥へと続く壁と床を踏み締めて、二人は歩き出す。

暗い道は、果てしなく続いているように見えた。


「…グレムさん、ここに来る前に何かありましたか?」


ダックが、携行燈を揺らして歩きながら言った。

赤っぽい壁が、灯りと共に色味を揺らす。

現状を整理しておいた方がいいだと考えたのだろう。


「何か…そう言えば、あなたたちを見送った後、誰か来たような…」


「誰か…?」


「はい。確か、聖女様ぐらいの女の子だったような気がします。そこから、覚えていません」


彼の言葉を聞きながら、ダックは何が起こったのかの推測を立てていく。

こんな時こそ、冷静にならなければならない。


「…私達は、理由あってあなたのところに向かっていました。しかし突然、花屋敷の中から災竜が…」


「さ、災竜ですか!?」


「はい。突然のことだったので、私は仲間を守る事しか出来ませんでしたが」


意識の最後ではカイは無事だった。今がそうかは限らないが。


「そして、気がつけばここにいました」


「ということはまさか…ここはその災竜の…?」


グレムの言外のありえない想像に、ダックの口が少し緩む。

周りの壁や地面は硬く、とても内臓などとは思えない。自分が知らないだけで、災竜の腹は硬いのかもしれないが。

そんな予想を言うと、グレムは再び震え上がってしまった。


「冗談ですよ…ところで、」


ふと足を止めて、ダックは少し後ろを歩いていたグレムへ振り返る。


「…あなたは、花守という存在について、詳しく知っていたのではありませんか?」


気になっていたことを口に出す。途端に、グレムが色を失う。

やはり彼は、何かを知っていたのだ。

メルリ達は気づかなかったが、花守について話す時の彼は、どこかよそよそしかった。


「…一年ほど、前です。娘が突然、花守さまに会ったと言い出しました」


どこか観念したような面持ちで歩きながら、グレムは話し出した。

その話は、もう聞いたことがある。が、どうやら続きがあったようだ。


「最初は、何かの間違いだと思いました。花守さまは御伽噺の存在、いるはずが無いって」


彼の声が、暗い通路に響いていく。


「けれど、アンナがそんな分かりやすい嘘をつくはずがないとも思いまして、調べたことがあるのです」


「調べたのは、それはどのように?」


「隠していましたが、花屋敷には歴代島主の備忘録が納められていましたから」


その言葉に目を見開く。そんなもののの存在、全く知らなかった。

つまり花屋敷で話した時、グレムは隠し事どころか嘘をついていたのだ。


「どうしてそんな嘘を…」


「娘に頼まれまして…花守さまとの、約束だからと」


花守の唄の一節。花守さまを探してならぬ、という文言。彼らは忠実にそれを守った訳だ。


「それで…調べた結果は?」


「…娘の頼みですので、あまり言いたくはありませんが…仕方ありません。腹を括りましょう」


彼が一息つく。

ダックも、静かに息を呑んだ。


「結論から言いますと…花守とは、災竜のことです」


「それは……」


あまりのことに絶句する。

グレムは、そんなダックは一瞥してから微笑み、続けた。


「…花守の存在が書かれていたのは、初代の島主さまの手記でした。それには、こうありました…」


覚えるほどに読み返し続けたのだろうか、グレムは流れるように手記の内容を語っていった。

内容を全て語り終えた時、二人の間には虚しいものが流れていた。


「…以上が、手記の全てです」


「では…私たちを襲い、今も暴れているであろう災竜は…」


「…恐らく、手記の中の彼女でしょうね…なら、私を訪れたあの少女も…」


ダックは歯軋りした。

彼にしては珍しい、歪んだ顔で。


「早く…カイ達に、知らせなければ」


しかし。


「…行き止まり…?」


「そんな…まさか…」


焦った彼を嘲笑うように無情にも通路は行き止まってしまった。

そして、行き止まった壁の足元、赤っぽい地面の中で唯一緑が生えている部分。

そこに。


「……花?」


二輪の小さな花が、寄り添うように咲いていたのだった。


———


「それ、は、本当に…」


「この状態で…嘘は言わない…分かる、でしょ」


震える自分の声が縋りついた希望を、彼女の声が打ち消す。


「…レイナちゃん、死んじゃだめだよ!」


「アンナちゃん…」


掌の上の少女へ、視線を下ろす。

彼女も、全てはないにしろ事情なんとなく分かったのだろう、抗議の声を上げた。


聖痕とは、自分たちドラメル族に与えられた竜の力。

『竜の奇跡』と呼ばれるそれが、刻まれた心臓のこと。

そして、目の前のレイナという名を持つ災竜の聖痕が、小さな花畑。

手に入れて旅を続けるためには、彼女を殺して心臓を抉り取るしかない。

彼女がいったのは、そういう事だった。


「花守さまが死んだら、誰が花畑を守ってくれるの!?」


少女の悲痛な声が響く。

それを聞いて、目の前の災竜が顔を歪めたのがわかった。


「…本当に、僕と君は戦うしかないのか…?もっと他に方法は…」


「ある訳…ないでしょ!」


レイナが『心話』で叫んだ。

その必死な声に、思わず後ずさってしまう。彼女が初めて見せた激情だった。


「これしか、ないの!私とあなたは…殺しあうしか、ないの!」


体を振って、彼女は叫び続ける。

その姿と叫びが悲痛に満ちていて、僕もどうしようもなく顔を歪ませる。

掌の上の少女も、もう泣きそうだ。


「…だめだよ…レイナちゃん…」


「あ、アンナちゃんは、関係、ない…!」


「関係、あるよ」


「うる、さい!何も…何も、知らないくせに!」


突然目をカット開いた彼女が、片腕を上げる。

途端にそこから赤い光が溢れ、気づけば掌のアンナちゃんの姿が消えていた。


「…なっ!?」


「はぁ…はぁ……ギルギの奴を、殺ったなら、分かる、でしょ?私も、()()()()()()が使える、の」


激しく息を吐きながら、レイナはそういう。

災竜には、竜の力とは別に特殊な力が備わっている。血の狩人と名付けられたギルギが血を操れたように、彼女も何かできるのか。


「…私は、リトル・ラヴァーっていう竜名通りに、自分より小さい物を()()()()。私だけの、特別な場所に」


「仕舞える…?特別な場所?」


アンナちゃんがどこにいったのか。警戒を怠らずに彼女へ問う。


「私も、よく分からないけど…私の体の中にある空間に、アンナちゃんを、閉じ込めたの。そこは絶対に安全だから…心配しなくていい」


「それは…」


彼女は無事ということか。まだよく分からないが、レイナが彼女を殺すとも思えない。


「…これで、心置きなく、やれる」


この場に残ったのは災竜だけ。どれだけ暴れても、誰も傷つかない。

レイナは遠回しに、アンナちゃんを危険から遠ざけたのだ。


「…その場所に、僕の仲間はいるのか」


カイの話では、ダックさんは彼女に連れ去られた。しかし、彼女と話す間もその姿はどこにも見えなかった。

最悪の予想も一度は過ったが、そのような空間があるなら話は別だ。


「…うん、いる。あなたの仲間も、島主様も」


「…能力を解いて、彼らを解放してはくれないのか?」


「しない。私が…生きている限りは」


「……本当に、それでいいのか」


そんなの、虚しすぎるではないか。彼女も心の底では、こんなことはしたくないはずではないのか。


「っ!まだ…言うの!?」


「だが…っ!」


「この、分からず屋!」


そう言って、僕より小さめの赤い災竜は突っ込んできた。

心から望まぬ、殺し合いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ