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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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8、聖痕の正体

最初にそこを見つけたのは、森の中を歩いている時だった。

確か、今からちょうど一年ぐらい前だ。

またこっそり動物達と戯れていた所を、お父様に見つかってこっぴどく叱られ、無理やり花畑エリアへ連れてこられていた。


厳しい父が嫌いになっていた。

なんで自分にあんなに激しく叱るのか、訳が分からなかった。

きっとお父様は自分のことが嫌いなんだと、思う。

だってそうじゃなきゃ、あんなに激しく叱るはずない。


そんなことを考えてたからか、道に迷ってしまった。

一緒に来ていた島民ともはぐれてしまい、途端に心細くなる。

そんな時に、茂みに影にぽっかり空いた穴を見つけたのだ。

特に意味もなく中を覗こうとして、バランスを崩して穴の中に落ちてしまう。


「だ、誰っ!?」


広い洞窟に、声が響く。

穴から落ちて頭をぶつけた私は、朦朧とした意識の中でその声を聞いた。


「ちょ、ちょっとあなた、怪我してるの!?」


声が近寄ってくる。

じんじんと頭が鳴っているのを感じながら、意識を手放した。



「あなたは…だれ?」


「えっと…まず、そっちから名乗って」


次に目を覚ました時、頭の痛みは鳴りは潜め、代わりにずんぐりと重かった。

落ちた穴の下にあった洞窟。そこにいた年上の彼女に手当されたのだと、ぼんやりと思った。


「…私は、アンナよ。アンナ・コンボボロ・エルーシア」


「その氏族名…あなた、今の島主の娘?」


「うん、そうよ。あなたの名前は?何で洞窟に住んでるの?」


意識がはっきりとしてくるうちに、目の前の彼女のことが気になってきた。


「…私は、レイナ・イルーシア。ここに住んでいるのは…まあ、昔から、そうだったから…」


その時の彼女は、私に氏族名を教えてくれなかった。


「昔から…?」


「そう。えっと…私、花守だから」


「花守…花守さま?」


「うん…その花守」


信じられなかったけど、なぜか信じてしまえた。レイナと言った彼女が、自分とそれほど歳が離れてないと思ったからしれない。

実際は、そんなことなかったのに。


「あなた、島主の娘なら…親が心配しているかも。ここ…外につながっているから…送ってあげられる…」


「…いい」


拒否した。

不思議そうな目を向けてくる彼女へ、まっすぐな視線を向ける。

今は、自分が嫌いな父様のことなんか考えたくない。

そんなことよりも、自分と歳の近い子に出会えたことが嬉しかった。


「…あの」


いつもお仕事ばかりで、誰とも遊べなかった。

歳の近い子達も、自分の仕事で忙しくて。

だから、花守さまなら。

私の些細な願いを叶えてくれると思った。


「…私の——」


その時彼女の顔に浮かんだ、苦しそうな表情の訳を、私はついぞ知らなかった。


———


「ごめん…ごめん、なさい…」


僕は目の前の光景を、唖然と眺めていた。

自分の掌に乗った少女が、それより何十倍の体躯を持つ巨大な怪物を謝らせている。


目の前の災竜、名はレイナ・ドラメル・イルーシアと言った。

どうにも、アンナちゃんが来てから威勢が弱い。

先程まで花畑を荒らしていたとは思えない。

彼女は一体、何が目的なのだろうか。


「…うん。分かったらいいよ」


かなり弱腰になってしまったレイナを見て、居た堪れなくなったのか、アンナちゃんが語彙を弱める。


「それで、なんでこんなことしたの?」


僕の方をチラッと見てから、アンナちゃんは聞いた。

賢い子だ。僕がどうして君を連れて来たのか、しっかり理解している。


彼女が暴れていた理由を聞き出したい。

しかし、同じ災竜の自分が行ったらまたギルギの時のように、先手で仕掛けられるかもしれない。

だから、彼女と関わりのあるアンナちゃんを中間に置いた。レイナと言った彼女が、これ以上暴れないように。


「…それは」


アンナちゃんの疑問に、レイナは窮した。

少しの間沈黙が続き、やがてボソリと呟くように。


「…死にたく、なかったから」


「…え?」


どういうことなのだろうか。意味が分からない。

僕の困惑に、彼女は驚いたように目を見開いた。

なんだ。

なんだか彼女と自分の間で、情報が錯綜している気がする。何かが噛み合ってない。


「…どういう、ことだ?」


「どういうって…あなた、探しているんでしょう?」


僕の疑問にも、普通に答えて来てくれた。

どうやらアンナちゃんの仲介の役割は、功を奏したようだ。

それにしても。


「探しているって…」


今の自分が、自分たちが探しているものといえば、一つしか思いつかない。


「…『小さな花畑』」


弾かれたように、歩を一歩進める。ズシンと予想以上な振動が響いた。

あまりこういう事はしたくないのだが、興奮がそれを許さない。


「知っているのか、聖痕のありかを!?」


体を乗り出して聞く。掌のアンナちゃんが、そのせいで起こった揺れを指につかまって耐える。

いけない。彼女を傷つけでもしてしまったら、レイナが何をするか分からない。


「あなた…もしかして何も知らないの…?」


レイナの瞳が広がる。それに僕は首を下げて肯定する。

彼女の気配が、突然固いものを帯びた。


「…聖痕は、『奇跡』が刻まれたもののこと。『奇跡』は知っているでしょ?」


レイナの口から、ボロボロと言葉が溢れる。


普通の人ではできない妙技、治癒だったり、俊足だったり、剣だったりの名が付くそれらは、『祝福』と呼ばれる。

神が無作為に人に与える妙技が『祝福』であるなら、神が特定の人にだけ特別に与えるものを『加護』という。


そしてそれより上位、神が直々に人に与える神の権能そのもの、だとされているものが『奇跡』と呼ばれるものだ。

聖痕とは、『浮遊の祝福』が刻まれた空船の浮遊石のように、『奇跡』が刻まれたものの事だという。


「…だが、それと君が死にたくないのとは、なんの関係が…」


「関係も何も、そのまま。私たちのこの力は——」


言いながら、彼女は片足を上げる。

私たちの、この力。ドラメル族の竜の力は、竜の神から授かったもの…。




まて。


神から、授かった?


だとしたら、それはどう考えても。


「—『竜の奇跡』と、そう言われるもの」



今まで、自分の力がどんなものなのか、全く知らなかった。

ただ使えて、それがあまり使ってはいけない事を悟って。

名前が付けられていることすら、知らなかった。

あるいはギルギとかなら、知っていたのかもしれない。


でも今はそこではない。重要なのはそんなことではない。


「…では、『奇跡』が刻まれた聖痕というのは…」


聞きたくないと分かっていながらも、聞いてしまう。

返ってくるのは、予想通りの言葉。

対話で解決を試みようとした自分が、絶対に聞きたくなかった、言葉。


「…『奇跡』は私たちの心臓に刻まれた。聖痕は、私の心臓」


声が出ない。叫びたいのに、喉が詰まってしまったようだ。


「…付けられた名は、『小さな花畑』」


アンナちゃんの顔に、不安が浮かぶ。

やめろ。それ以上聞きたくない。


「…あなたが先に進むには、私を殺して心臓を抉り出すしか、ない」


死にたくないと言った彼女は、だから暴れた。

それに対して対話がしたいと言った自分の、救えない愚かさを思い知った。


———


ハッと目を覚ました時、ダック・ボンデールは自分が何処にいるのか分からなかった。

覚えているのは、巨大な何かに捕まれたこと。

自分の隣にいたカイルス・フェキシフトを庇って。


「……」


彼は無事だろうか。

彼だけではない。メルリは?ペミーは?エルギオは?


立ち上がって、見渡す。

暗い。ぼんやりとしか、周りが見えない。


自分の体を探る。どうやら、何も取られていないようだ。

腰にぶら下げた緊急用の小物入れを弄る。もしもの時のためと、持っておいてよかった。

手触りで、小型の携行燈を見つける。


手探りでつまみを回すと、『光の祝福』が刻まれた中身が、ほんのり光る。

と、目の前に自分以外のもう一人がいるのを見つけた。

そして、その顔立ちと髭には見覚えがある。


「…島主?」


この島の島主たるグレム・コンボボロ・イルーシアが、倒れていた。

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