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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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7、花守の正体 2

——数分前——


坂道を登っていく大きな背中を、なんとなく複雑な気持ちで見つめる。

そう言えば、こうやって彼と二人きりになるのは、久しぶりだった。

それも仕方がない、最近彼…ダックさんとは微妙な関係になっているからだ。


ハーマレー島で殺人事件が起き、その末に災竜が暴れて有耶無耶になっていたが。

自分とダックさんは、主に自分の発言が原因で気まずくなっていた。


(…でも、ダックさんはいつも、俺にだけ特別厳しいからな)


思えば昔からそうだった。

ダックさんは、自分に対して叱ることがメルリより多い。

叱られて然るべきな時はともかく、何かと当たりが強いと思う。


(…メルリやエルギオには、甘々だもんなぁ)


実際にはメルリに対しても厳しい時はあるが、自分からすればエルギオへのそれと変わらない。

なんで自分だけが、と思ったことはある。

けれどそれより、拾ってもらって、育ててくれた恩もある。

それにギルギが暴れた時も、自分を守って重い怪我をして。


(…なんで)


暗い考えが、胸をよぎった。

叱られるような事を多くして、メルリやエルギオのように落ち着きもなくて。

有事に怯えて動けなかった自分を、彼は拾ってくれたのか。


考えすぎなのは分かっているが、思考は止められない。

そのうちに、坂を上り切って空岸沿いに出る。

そのまま花屋敷に向かう間も、ダックさんは一言も喋らなかった。


なんとなく話しかけづらくて、粛々と彼の後を追う。

今の彼は、さっきアンナちゃんへ叱ったばかりなのだ。

よく叱られている身として、今の彼がどう思っているのか分からない。

そんなこんなで、花屋敷の入り口まで戻って来た。


「島民って…誰を呼ぶつもりなんだ…?」


流石に聞かねばまずいと思って、意を決して口を開く。


「島主に聞いて、丁度良いのを連れて来させるつもりだ」


「あー…」


これ以上ないほど、今では最適な解。

自分では、考えすらもしなかった。

感心する自分の横で、ダックさんが扉を叩く。

しかし、初めて来た時はすぐに使いの島民が出たのに、今度は来ない。

それどころか、扉の向こうから物音ひとつ聞こえないようだ。


異変を感じて、ダックさんの顔が顰められる。

ノブに手を回すと、扉はあっけなく開いた。

中は不気味な程に静かだ。


「グレムさん、どうしたんだ…?」


不安を感じる自分の声が、静かな屋内に響いていく。


「分からない…だが、何かが」


起こったのだろう、と言う前に、扉の向こうの玄関に異変が起こった。

入り口から一番遠くにある扉が、周りの床や壁ごと()()()と歪んだのだ。


そして次の瞬間、何か巨大なものが壁ごと扉をぶち破って飛んできた。

一瞬だった。動けなかった。

気づいた時には、ダックさんの歪んだ顔が目の前にあった。


「…ふ……」


「ダックさん…?」


屋敷の奥から飛んできたものは、巨大な腕で。

その広い掌は、ガッチリとダックさんを掴んでいて。

ダックさんは自分を庇って掴まれていて。

それら全てを理解した時、屋敷の奥から怪物が現れた。



………。

……………。




走った。

ただ、来た道を戻って走った。

後ろも振り返らずに、がむしゃらに。


「—すまねぇが、お前が必要になっちまった」


自分を飛び越えて、花畑に降り立った災竜。

その手に、彼が捕まっているのが見えて。


「…まだ、生きてる、と思う…」


災竜への恐怖より、ダックさんを失う事への恐怖が勝って。

それでも自分は、結局エルギオに頼るしかなくて。


「…くそ」


花畑で暴れる災竜をメルリ達と見つけた時の、溢れた声と顰めた顔。

何も出来ぬ自分の不甲斐なさを、どこまでも呪っていた。


——現在——


「…ダメだよ!レイナちゃん!!」


アンナちゃんが叫んだ言葉の意味を、その瞬間は理解できなかった。

しかし、それを聞いた災竜が明らかにこちらを向いて動揺したのを見て、大まかに察してしまう。


恐らくレイナとは、あの災竜、というか、あのドラメル族の名前。

そしてアンナちゃんとあのドラメル族は、お互いを知っていた。

こんな所だろうか。


「…っ!メルリ!多分この子は、あの災竜と知り合いだ」


辿り着いた結論を、メルリにぶつける。

彼女もなんとなく分かっていようで、全身から驚きを表しながらも頷いた。


「それなら、あの災竜を止める為に、彼女の協力が必要だ」


メルリの瞳に恐怖が宿る。

すぐ横から、カイが彼女の肩に手を置いた。

何かを耐えているような苦しい顔で、カイはメルリに首を振る。


「…大丈夫。この子の安全は保証する」


「…分かった」


震えながらも、その瞳に強い光が宿る。

彼女は自分を弱いと言ったが、土壇場ではこうゆう強さと優しさを持っている。

十年前、それに自分は救われたのだから。


「…アンナちゃん。今から、一緒にあそこに行きたいんだ」


災竜を睨んでいた少女に話しかける。

困惑の色が瞳に写ったのを無視して、少女を背負う。


「…うわぁ!」


「少し…目を瞑っててくれるかな?」


語りかけるように言うと、少女は少し迷った後に頷いて目を閉じた。


「じゃあ…行ってくる」


「頼むぜエルギオ…ダックさんを」


カイの縋り付くような目に頷いて、僕は災竜の方へ走り出した。


(いつものように…竜の力を引き出す…)


胸の内がドクンと鳴る。

想像するのは、炎。

いつもは体の奥に潜めている炎を、意識して引き摺り出すように。


ずるずると、ぐるぐると。

途端に、胸の内から手足の先へ、燃えるような感触が広がっていく。

同時に自分の体と意識が大きくなっていく。

目線が段々と上がってゆき、気づけば四肢は真っ白な脚へ。


いつの間にか飛んでいた意識を手繰り寄せる。

そうして、自分が巨大な獣になっている事を自覚した。


(アンナちゃんは…よかった。無事にいる)


自分の広い背中に、虫がいるような感覚がある。

どうやら彼女は、落とされずに済んでいたようだ。

竜の力を使う瞬間だけは、一瞬だけでも自分の意識がなくなるので、周りがどうなったのか把握するのが遅れるのだ。


(さてと…)


眼前に意識を向けると、自分を見て怯えているらしい災竜がいる。

ギルギのことを思うと、その姿は少し意外だ。

喉の辺りに、力を込める。確か、やり方はこれで合っているはず。


「君は…レイナ、と言う名前なのか?」


まずは状況を確認したい。

『心話』を使うと、相手の災竜は驚いたようだった。


「…あなた、それ使えるんだ…」


相手から言葉が返ってきた。

夜の奏蟲(かなでむし)のような、凛とした声だった。

それから、どうやらギルギのような相手ではないことが分かって、とりあえずホッとする。


「…質問に答えて欲しい。君は、レイナという名前なのか?」


「質問…うん。私の名前はレイナ・ドラメル・イルーシア。竜名は…リトル・ラヴァー」


質問にも答えてくれた。

これなら、どうやら対話で解決できそうだ。

彼女が、今現在どれくらいの被害を出しているかによるが。


「答えてくれてありがとう。…君と、対話がしたい」


言いながら、背中に感じる小さな命へ、ゆっくり腕をあげる。

慎重に、傷つけないように。


察しがいい。虫のような感覚の彼女が、指に乗っかったのを感じた。

ゆっくりと慎重に、腕を前に持ってくる。

僕の掌の中で、少女が僕の爪にしがみついているのが見えた。

落ちないように、掌の上まで移動させる。


「…っ!レイナちゃん!」


床…というか僕の掌の毛…の感触を確かめていたアンナちゃんが、彼女を視認して声を上げる。

レイナが、少女を見つけて一歩後ずさる。


「アンナちゃん…」


「花を傷つけちゃ、だめでしょう!守っているんじゃなかったの!?」


「それは…」


アンナちゃんが声を上げるたびに、レイナの声が弱くなっていく。

花を守っている、とは。


「そんなんじゃ、花守失格だよ!」


「……ごめん」


小さく驚く。

花守さまとは、レイナのことだったのか。

二人の関係は、思っている以上に複雑なのかもしれない。

ダックさんの現状を何がなんでも知りたいが、今はアンナちゃんに任せるしかない。

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