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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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6、花守の正体 1

突如起こった横揺れは、洞窟にぱらぱらと土埃を起こした。


「な…なに、今の揺れは!?」


叫んで、咄嗟にアンナちゃんを抱き込む。

しかしてその揺れは、すぐに収まった。


「…なんだか、嫌な予感がする」


天井を見透かして、エルギオが不安げな顔で呟いた。


「嫌な、予感って…」


心臓が早鐘を打っている。

呼吸が浅くなって、手足が痺れていく。

エルギオの、彼のその顔は、否応にもかつての記憶と繋がっていた。


「…お姉ちゃん?」


抱き込んだアンナちゃんが、不安そうな顔で私を見上げた。

いけない。彼女を怖がらせてしまう。

私とエルギオだけでも、彼女を安心させないと。


「…大丈夫だよ」


そう彼女に言い聞かせた時、入口の方から足音が響いてきた。

咄嗟にエルギオが立ち上がって、私たちの前に立つ。

私も、すぐに動けるように立ち上がる。


やって来たのは、カイだった。

酷く焦っている様子だ。


「…っ!よかった!まだいた!」


彼は私たちを見つけると、安心したように近づいて来た。

…胸の奥に、恐ろしい予感がふつと湧く。


「…エルギオ。すまねぇが、お前が必要になっちまった」


近づいて来たカイは、顔を歪めながらエルギオへ言った。

カイの言葉を聞いた彼が、何かを察する。

…予感が、現実味を増して。


「頼む…っ」


「…わかった。君はメルリとここに」


「ねえ」


口が開いてしまった。

嫌だ。聞きたくないのに、知りたくないのに。

口が、勝手に動いてしまって。


「…ダックさんは、どうしたの…」


カイの顔が、大きく歪んだ。

呼吸が遠のくような気がした。

視界が揺れて、足に力が入らなくなる。


「…まだ、生きてる、と思う…」


歪んだ顔のまま、カイの口が開く。

立っていられなくて、へたり込んでしまう。

腕の中のアンナちゃんが、私を見上げた。

ダメだ。

どうやっても恐怖は消せない。


「…なにか、あったんですか?」


ふと、私を見上げた少女が言った。


「…なんでも、ないよ」


努めて、平静を装って答える。

けれど。


「…嘘。それは嘘です。地上で何かあったんですよね?」


真剣な顔で、彼女はそう言った。

思わず、声が出せない。

カイが、私と目を合わせて、心を決めたような表情になる。


「…今外にね…怪物が現れたんだ」


「…カイ」


この子には、災竜の恐怖の記憶(トラウマ)を植え付けたくない。


だって彼女は、私なのだ。

空船の事故に遭って、島に流れ着いた時の、まだなにも知らない、好奇心旺盛な私に。

そっくりなのだ。


「…っ!」


「え、アンナちゃん!?」


緩んだ私の腕。それを振り払って、突然少女は駆け出した。

一目散に、出口へと。


「待って!」


「俺たちも!ペミーはここにいてて!」


慌ててアンナちゃんの後を追って走り出す。

カイとエルギオもついて来ているようだった。


「ペム!」


後ろのペミーの鳴き声が、遠ざかる。

ペミーは、私より大人なのかもしれないとふと思う。

洞窟から飛び出て、慎重に急いで坂道を登る。

空岸沿いに出てすぐ、再び強い揺れが起こった。


「アンナちゃん、どこに…!?」


「…多分。揺れの大元だ」


追いついて来たカイが、森の奥を指指す。

その時、三度目の揺れと共に、大音量の咆哮が響いた。


「———!!」


恐怖ですくむ足を、叩いて必死に持ち直す。

怯えている場合ではない。今はそれより、大事なことがあるではないか。


少し探すと、森の出口に少女がいるのを見つけた。

よかった。あまり遠くに入っていない。

森を抜けて、少女の肩に手を置く。

心配した事を注意しようとして、森の外の景色を見てしまった。


花畑を荒らす、その巨体を。


「——あ」

「…やっぱり」

「…くそ」


追いついたエルギオが渋い顔をする。カイも顔を顰めた。

けれど二人はそれだけで、私みたいに震えていない。

私なんかより、強く成長しているのだ。


頬を叩いて、必死に自分を鼓舞する。

まだ震えているのか、私。

災竜如き、いい加減に慣れろ。

怯える前に、次やるべき事を考えろ。

動けなくなる前に、あれの姿を見極めるんだ。


瞑りそうになる目を開けて、花畑で暴れる災竜をみる。

巨体といっても、ギルギやエルギオ、ムロリメロ島を襲ったものよりかは小さい。

と言うより、今まで見て来た災竜の中でもかなり小柄な方だ。


赤紫色の鱗が全身を覆い、それと同じ色の瞳が必死に動いている。

何かを探しているのだろうか。

と、エルギオが私たちの前に出た。


「…ダックさんは、今どこに?」


「…わからねぇ。突然あいつが現れて、連れ去られちまったんだ」


「つ、連れ去られた!?」


信じられなくて、思わずカイの顔を見る。嘘はついていないようだ。

だからさっき、カイはまだ生きてると思うと、あやふやな答えをしたのか。


「人を、連れ去った…?災竜にそんな知恵が…?」


「…!確かに、災竜にそこまでの知恵があるわけが…」


エルギオが疑ってくれたおかげで、私もその違和感に気づいた。

竜の神の罰によって災竜となったドラメル族は、その呪いで正気を失っているはずだった。

事実、ムロリメロ島を襲った災竜は、獣のように暴れていた。


しかし、ハーマレー島を半壊させたギルギは正気を取り戻していた。

あれは彼だけの特異性なのかと思ったが、もしそうではないのだとしたら。


「…もしかして、あの災竜も正気を取り戻している…のか?」


私と同じ結論に辿り着いたカイが、それを口に出す。

あの災竜だけじゃない。他にも、正気を取り戻したドラメル族がいるかもしれない。


「…正気を取り戻しているなら、対話でなんとかなるかもしれない」


「そうか!なんか、災竜同士で話せるんだったよな?」


聞いたカイに、エルギオが頷いて肯定する。

ギルギの襲撃の後、みんなへ真相を話すときに、エルギオが言っていたはずだ。

確か、『心話』と言ったか。


「…『心話』については僕もよく分かんないけど…とりあえずあの災竜は僕が引き受ける。二人は、その子を連れて島民を避難させて」


淡々と言いながら、その目には少なくない恐怖が浮かんでいるように思えた。


「エルギオ…うん、分かった」


頷くししかない。

災竜は、私たちでは到底敵わない。

けれど、その為のエルギオだ。

私はカイと目を合わせて、側にいたアンナちゃんを連れてその場を離れようとした。


その時、少女が叫んだのだ。


「…ダメだよ!レイナちゃん!!」


———


しょうがない。しょうがないのだ。

花々や木々を踏み荒らしながら、私はそう思っていた。


彼が来てしまったのだから、しょうがない。

私がこんな事をするのも、しょうがない。

…誰だって死にたくないのだから、しょうがない。


そうやって、何度も自分の行動を正当化して。

それが、ただの自己弁護でしかない事から目を背けて。


「———!!」


喉の奥から込み上げて来た苦いものを、咆哮でかき消す。

花を蹴散らして、木々を踏み倒して。

こんな所、()が見たら悲しみながら怒るんだろうなと、関係ない事を考える。


けれどしょうがないのだ。

生きる為なんだから、しょうがない。


そうだ。それなら許してくれるはずだ。

生きる為だったのならしょうがないねと、許してくれるはずだ。


私だって、本当はこんな事したくないのだ。

()()()()()()()()()みたいに、狂ってるわけではないのだ。

だから、許してくれるはずだ。

だから——


「…ダメだよ!レイナちゃん!!」


…分かってる。分かってた。

誰も、私を許してはくれはしない事を。

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