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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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5、少女の秘密

グレムさんの命を受けた島民に案内されて、私たちは島主の館、花屋敷の裏庭に来ていた。

庭の広さはさすが島主といったところで、一種の森のようだった。

花壇や花園が所狭しと並び、木々や茂みがそのあいだを埋めている。


「こりぁ…探すの苦労しそうだな」


「確かに…でも、やらないと」


カイの呟きに同意する。


「骨が折れそうだね。まずどこから探そうか」


「……む?」


私たちを案内した島民が離れて、エルギオはようやく喋れるようになった。

早速アンナちゃんを探そうとした時、ダックさんが何かに気付いた。

花を踏まないように花壇を乗り越えて、庭の端の茂みへ向かっていく。


「ダックさん、何か見つけたの?」


「…少し、気になる匂いがした」


「…匂い?」


鼻を動かすと、花の甘い匂いに混じって微かにつんとした刺激臭がした。

でも、この臭いがなんというのだろう。

ダックさんは、私たちを振り返りもせずに茂みをかき分けていく。

よく分からないまま、私たちもその後を追った。


「…おわっ!?」


匂いを追って茂みを抜けると、突然視界が開け地面が消える。


「…空岸に出たのか」


勢い余って落ちそうになったカイを、私と一緒に引き留めたエルギオが呟く。


「臭いは…こちらに続いているな」


空岸沿いに続く臭いを追うと、坂道に出た。

空岸の下に続く島の外壁に沿った、片側が奈落になっている危険な坂道だ。

高いところが無理なカイが、息を呑む。

なんでこんなところに臭いが続いているのか。

というか、そもそも。


「この臭い…なんの臭いなんですか。ダックさん」


エルギオが問う。

ダックさんは、少し迷ったあと、坂道を降りながら話し出した。


「…これは、綿鹿の臭いだ。しかも、産卵期の雌のな」


「産卵期の…綿鹿?なんで?」


この辺りは、方向で言えば花畑方面、綿鹿を飼っている牧場エリアとは真反対だ。

確かに、なんでそんなところに綿鹿の臭いがするのだろう。


「…追うぞ。もしかしたら、アンナ嬢と何か関係があるかもしれん」


「そっか。アンナちゃん、動物好きだって言ってたし」


「グレムさんに内緒で、この下でこっそり動物を飼っていたってこと?」


ダックさんの推測に、カイが事実を重ね、そこからの推測を私が言う。

子供だし可能性はあるけど、わざわざこんな危険なところで、という疑問は残る。


なんにせよ、私たちは坂道を降り続けた。

ふと坂道が終わると、道の横、島の外壁にぽっかり穴が空いていた。

奥に暗がりが続いている。

洞窟だ。


「こんなところに洞窟があるなんて」


「…行ってみよう」


微かな緊張を、唾を飲み込んで押さえつける。

洞窟の中へ足を踏み入れた途端、外の空気とは一変したひんやりとした空気が、脚にまとわりついた。

歩を進めるたびに、足音が天井へ奥へ反響する。

かなり大きな洞窟のようだ。


「綿鹿の臭いが、濃くなってきている」


ダックさんが呟いた。

その声も、洞窟中に反響していく。

ふと、真っ直ぐと続いていた道が横にカーブしているのが見えた。

そしてその奥が、ほんのり明るい。


「……」


お互いの顔を見て頷き合い、歩を進める。

曲がった道を進むと、広い空間に出た。

この島の地下に、こんなに広い場所があるとはと、驚く間もない。


明るかったのは、空間のあらゆる場所に蝋燭が灯っていたからだった。

そこには、臭いの元である綿鹿もしっかりいて。

そして、見覚えのある少女も居た。


「アンナちゃん…!」


口から漏れた声が、予想以上に反響して大きくなる。

アンナちゃんは、柵に囲まれた綿鹿の横で、怯えたような瞳で、こちらをじっと見つめている。


「……」


カイとエルギオと目を合わせて、彼女へとゆっくり近づく。

変に怖がらせない方がいいと思ったからだ。

しかし、そんな私たちの横からダックさんが割り込んだ。


「その綿鹿を、どうするつもりだ」


いつもより語気が強い。

ダックさんが、怒っているのだ。

静止しようとしたカイを、エルギオが止める。


「産卵期の綿鹿を孤独にさせるのは危険だ。それぐらい、分かっているだろう」


カイがエルギオへ、無言で非難の視線を送る。

けれどそれを受けた彼は首を振った。


「…まあ、それはいい」


その言葉を聞いて、カイも私も、ダックさんがなぜ怒っているのか分かった気がした。


「…こんな危険な場所に、なぜ一人でいる?」


アンナちゃんは喋らない。

ぬいぐるみをギュッと抱き、俯いてじっとしている。


「…もしここで、動けないほどの怪我をした時、どうするつもりなんだ?」


アンナちゃんの瞳が揺れた。

彼女は島主の娘だ。

人目のないこの場所で怪我でもして、そのまま動けなくなってしまったら大変だ。

最悪、外壁の坂道から落ちてしまうことだって、あるかもしれない。


けれど、ダックさんが怒っているのは、正確にはそこでもない。


「…そうなった時、島主はどうすればいい」


アンナちゃんがハッとした。

私たちも、思わずダックさんを見た。

彼の声が、震えていた。


「…島主に、大事な娘を見ていないところで失わせるのか、君は」


彼の肩も、震えている。

なんとなく、私はダックさんから目を逸らした。


確かに言葉足らずなところはあるし、寡黙で何を考えているのか、分からない時もある。

顔はいいし頼りになるけど、不満がないわけじゃない。

それでも、彼は、ダックさんは私たちを想ってくれている。

彼なりの、不器用なやり方で。

それを、酷く実感してしまった。


「…ごめんなさい」


俯いていたアンナちゃんは、震える声で謝った。

肩も震えて、今にも泣きそうだ。

私たちに背を向けている、ダックさんと同じように。


「…島民の誰も、産卵に気づいていなかったから…私だけでやろうと」


言い訳を並べた少女に、ダックさんは一息ついた。

少女はビクッとしたが、もう怒ってはいないことが、私たちにはわかる。


「……まあいい。その綿鹿、もう産気付いているだろう?」


「え…もう産まれるのか!?」


「綿が多く落ちているだろう。それが、産気付いた証拠だ。君と私の二人だけでは、出産補助は無理だ。島民を呼んできた方がいい」


アンナちゃんはふるふると震えていたが、やがて頷いた。



「じゃあ俺とダックさんで呼んでくるから、メルリとエルギオはアンナちゃんと居てて」


カイがそう早口で言って、ダックさんと一緒に洞窟を出ていく。

洞窟には私とエルギオ、まだ震えているアンナちゃんと何やら向かい合っているペミーと綿鹿が残った。


「この子、名前はあるの?」


「…フワリ、です。毛がふわふわしてて、空に浮かびそうなので」


エルギオが少女に話しかける。

少女なら問題ないだろうとの判断だったが、私は緊張して二人の会話を聞いていた。

けれどそれは気鬱だったようで、あっという間にアンナちゃんは笑顔を取り戻した。


「それで、フワリはよくここに連れてくるようになったんです」


エルギオって意外と聞き上手なんだよなぁ、と関係のないことを考えてしまう。


「この洞窟は君が見つけたの?」


話の流れで、エルギオが素朴な疑問を投げた。

しかし、それを聞いたアンナちゃんから、明らかに色が消えた。


「…どうしたの?」


何か不穏な気配がして、硬直したままの少女に語りかける。



その時突然、世界が揺れた。

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