表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
41/167

4、花守の唄

コンボボロ島の運営部には、幾つかの重要な施設が所狭しと並んでいる。

島民達が寝泊まりする家。

多くの動物を養う為の飼料屋敷。

花畑に撒く水を、循環させる為の水車。


そして、それらの最奥に厳かな雰囲気を醸し出した、島主の館があった。

紺を基調とした威圧感のある見た目だが、ここは別名で花屋敷と呼ばれている。

その理由は、内装の至る所に花が植えられているからだ。


現島主は、花好きなのだ。

事実、応接間に通された私たちを、部屋中から花の匂いが囲った。

ぷうんと甘くて、ずっといたらクラクラしそうになる。


「…臭い」


「…島主の前では、そんな失礼なことは言わぬようにな」


文句を言ったカイを、ダックさんが宥める。

コンボボロの島主は手が離せないらしく、少しの間待たされることになった。

強い花の匂いを我慢すること数分、ようやく島主が姿を現した。


「いやー、待たしてしまってすみませんね」


開口一番、島主は人が良さそうな笑みを作った。

一方で、ダックさんを除いた私たちは、きつい花の匂いに晒され続けた事で、猛烈に気分が悪かった。


「いえ、綺麗な花を眺めていたので、退屈はしませんでしたよ」


ダックさんが大人の対応を見せる。

すごい。なんで我慢できるんだろう。


「改めて自己紹介を。私、グレム・コンボボロ・エルーシアと申します」


グレムさんが頭を下げると、ダックさんが私を小突いた。

ああそうか。こういう時の自己紹介は私からか。


「すみませんねえ。アンナが迷惑をかけたでしょう」


「迷惑だなんて、思っていません。大丈夫です」


各々が自己紹介した後、グレムさんは彼の娘について謝罪した。

私がそれに必死で返す。

冷静になって、大人の対応をするんだ、私。

花のどぎつい匂いなんか無視しろ。


「本題に入りたいのですけど、その前にこっ…こちらを」


カイが、顰めた顔を一生懸命整えて、ヒラさんからの文書をグレムさんに渡した。

文書といってもとても簡単なもので、私たちの旅の詳細については書かれていない。

それぐらいは自分で説明しなさい、ということだろう。


「ほう、ヒラが…それで、私たちの島に何の用ですかな?」


私された文書を斜め読みして、グレムさんは理解したらしい。

今度は、ダックさんと私が説明を始めた。


こう言う時、エルギオは何も話さないことにしている。

下手に口を開いて、何かあったら大変だからだ。


「…という訳で、『小さな花畑』というものを探しているんです。何か、知りませんか?」


説明を終える。

疑問を投げられたグレムさんは、長い髭を触りながら少しの間唸っていた。


「…すみません。私はよく知りませんね」


「…っ!何か、ないんですか!その…伝承とか!」


「伝承…?」


カイが叫んで縋りつく。

グレムさんは、質問の意図が分からなくて、首を傾げた。


私たちの旅と、災竜およびドラメル族は、切っても切り離せない。

ドラメル族は遥か昔の一族だ。

それなら、彼らと関係があるであろう三つの聖痕とやらも、遥か昔のものなのではないか。

船の中でみんなで考えて出した答えだ。


遥か昔のものなら、伝承などに残っているはず。


「伝承といわれても……あ。いや、でも…」


悩んでいたグレムさんが、ふと何かを思いついた様だったが、自信なさげだ。


「伝承と言えるかどうか微妙ですが…花守の唄なら」


「花守の唄?」


私とカイが乗り出す。

ダックさんもエルギオも、ペミーさえも彼の言葉に耳を傾けている。


「ええ…といっても、島主の家系に伝わる子守唄ですけど」


「代々伝わってきたもの、なんですね?」


それなら、伝承でなくとも聖痕に関係あるはずだ。


「突然ですけど、歌ってもらえないでしょうか?」


「いいですけど…」


グレムさんは、心底困惑している様だ。

無理もないけど、今は仕方ない。

この島にあるかもしれない、聖痕に迫る絶好の機会だから。

グレむさんは、咳払いを一つして、恥ずかしがりながらも歌い出した。



  花の命を 荒らしてならぬ

  花守さまの 罰が降る

  花の命を 壊してならぬ

  花守さまの 怒りが降る


  花守さまを 畏れてならぬ

  花守さまは 慈悲深い

  花守さまを 讃えてならぬ

  花守さまは 恐ろしい


  花守さまに 触れてはならぬ

  花守さまは 小さな畑

  花守さまを 探してならぬ

  花守さまは いつもそばに



グレムさんが口を閉じ、部屋に再び沈黙が降りた。

彼は沈黙に縮こまっていたが、私たちが沈黙しているのは違う理由だ。


唄の最後の方、小さな畑という言葉。

それはどうしても、私たちに『小さな花畑』を思い出させた。

やはり、花守の唄と聖痕には何か関係があるのかもしれない。


「その、花守というのは?」


「えっと…いかんせん、子供の躾のための唄ですので、詳しいことは知らないのです」


沈黙を破ったダックさんの問いに、グレムさんは申し訳なさそうに答えた。

次に、カイが口を開いた。


「子供ってことは、アンナちゃんにも歌ったんだよ…ですよね?」


カイは、丁寧な言葉使いがあまり得意じゃないのだが、なんとか使えている。


「ええ…あ、そういえばアンナ。花守さまに会ったとか言っていたような…」


「それ、本当ですか!?」


思わず乗り出して聞いた。

グレムさんは、困惑したように頷いた。

彼からすれば訳が分からないだろうけど、仕方ない。


「いかんせん子供の話すことですから、何かと見間違えたのかもしれません」


「それでも…調べる必要はある、よな?」


カイがダックさんに尋ね、彼の頷きで立ち上がった。


「グレムさん、娘さんは今どこに?」


「…言いつけを守っていれば、ここの裏庭にいると思いますけど…」


「ありがとうございます!」


グレムさんに礼を言って、私たちは各々立ち上がる。

ダックさんが別れの挨拶をしているのを横に聞いて、私たちは部屋から出た。


島に来て、こんなに早く聖痕への手掛かりが見つかるなんて、幸先がいい。

このままいけば、案外すぐに見つかるかもしれない。

この時の私は、そんなことを考えていた。


———


取り残された応接間で、グレム・コンボボロ・エルーシアは詰めていた息を吐き出した。

聖女達は、自分にしっかり礼を言って去っていった。

それはいい。

礼儀のなった、いい人たちだと思う。

恐らく、ダック・ボンデールという彼がいい教育をしているのだろう。


「その彼は…少し怖いな…」


何を考えてるのか分からない無表情の瞳で、じっと睨まれてしまった。

それに怖気付いて、()()()()()()()()()()()()()


「…どうにかして、誤魔化すしかないな」


花守のことを調べたら、いつかは()()()()に辿り着いてしまうだろう。

そんな事は、娘のためにもしたくなかった。


「それに、あの少年は一体…」


彼女らの仲間かと思ったが、自己紹介したきり何も話さなかった。

しかも、その自己紹介すら名だけで、姓を隠していた。

一島主である自分が、突っ込むべきものではないのかもしれない。

それでも、気になってしまったのだから仕方ないだろう。


物思いをやめて立ち上がった時、部屋の扉が叩かれた。

聖女様達が戻ってきたのだろうか。

だとしたら早すぎる。

恐らく、アンナが言いつけを守らずどこか遊びに行ったのだろう。


「まったくあの子は…」


そう呟きながら、扉に手をかける。

また謝罪の言葉を言わなければならない様だ。

あの子の、ひいてはこの島の将来が心配だ。

そう思いながら、扉を開けて。


「…ごめんなさい。島主様」


その言葉を聞いたのを最後に、グレム・コンボボロ・エルーシアは気を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ