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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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2、命と花の島 1

「おっ、見えてきたぜ!」


カイの言葉通り、コンボボロ島の島影が空船の甲板の前に姿を現した。

色とりどりの建物が並ぶ、港の様子も見える。


やがて空船は動きを止め、渡し板が降ろされる。カイを先頭に私たちはそれを渡り、コンボボロ島へと降り立った。


「うわぁー!きれい!かわいい!」


思わずそんな声を上げてしまう。

港をぐるっと囲むように建てられた、大小様々な建物。それら全てにパステルカラーの水玉が壁に描かれていて、まるでおとぎ話の世界のようだった。


「…目が、チカチカする」


「俺は趣味じゃねぇな、こんな柄」


前半はエルギオの感想で、後半はカイの感想。どうやら彼らには、これらの建物の良さが分からないらしい。


「シュミじゃなくていーよー、別に」


「無駄話せずに、島主のところへ行くぞ」


理解者のいない私が膨れていると、ペミーを抱えたダックさんが後ろからやってきた。


「ねえねえ!ダックさんはどう思う?かわいいと思う?」


「む?…ふむ」


仲間が欲しくて、ダックさんに聞く。

カイが無理無理と首を振っている横で、エルギオが興味の視線をダックさんに注いでいる。ダックさんは少し思案した後、呟いた。


「…まあ、可愛いんじゃないか」


「……ええ?」


カイが驚いた声を上げるが、私もエルギオも驚いていた。

動物が好きなのはなんとなく分かっていたけど、そもそもダックさんってこういう趣味なのだろうか。


「…さ、雑談はこれくらいにして、島主のところへ行くぞ」


衝撃からダックさんを詰めようとするカイを、エルギオが必死に止めている。

それらを無視して、ダックさんはこの島の地図を取り出した。ヒラさん辺りから貰っていたのだろう。


「今いるこの港は、売店街の役割も持っている。観光業の要だな」


ダックさんが、地図を私たちに見せながら説明する。


「そこから、二つに場所が分けられている。南側の花畑観光エリアと、北側の畜産用牧場エリアだ」


地図を見ると、一番下側の赤く塗られた場所があり、その上が緑と桃色に塗り分けられている。そして、一番上側に小さく黄色く塗られた場所があった。


「一番西側のここが、島主がを始めたとした島の重役が集まる運営部だ。この港から、一直線に行ける道がある」


黄色い部分を指してダックさんが言う。

確かに、港から直接その場所へ行ける道があった。

地図の説明によると、牧場エリアは島民以外立ち入り禁止。花畑エリアは運営部とは繋がっていないようだった。


「そうと決まれば、早速行こうぜ!その道から、花畑も見えるかも」


「『小さな花畑』の手がかりも見つかるかもね」


賛成する男の子二人の様子に、ダックさんは地図をしまう。

ダックさんから降りたペミーを、今度は私が抱える。安心できる温かさが、腕の中に広がる。


「ペム!」


「うん。じゃあ行こうか」


私たちは歩き出した。



水玉模様の建物の間をすり抜けて進むと、島民二人が守る門が見えてきた。

関係者以外を通さないためのものだ。

ここにきた目的を説明しても納得してくれなかったので、ヒラさんからもらっていた文書を見せて通してもらった。

本当に、あの人には頭が上がらない。


門を抜けると、整備された道が真っ直ぐ続いていた。左側に広い牧場、右側に所々に木々が生えた花畑が目に入る。


「うっわー!すげー!」


「牧場広い!奥の駆鶏(かけどり)が点のようにみえるよ!」


「うわー!花畑きれい!」


その広大な景色に、私含めて子供三人が大はしゃぎする。こんなことしている暇は無いんだけど、ダックさんは注意しなかった。


それが少し不思議に思って彼の方を向く。

ダックさんは、牧場に放たれている駆鶏(かけどり)を目を細めて眺めていた。

まるで、何かを思い出しているように。


「…ダックさん?」


「…ああ。いや、なんでもない」


私が聞いたからか、はしゃいでいた男子二人も気づいた。

カイが口を開く。


「なんだ、ダックさん駆鶏好きなのか?動物好きだし」


「…まあな。見つけると眺めてしまうのだ。元々駆鶏農家だったのもあるのだろう」


「ふーん……って、え!?」「え!?」


カイと同時に私も驚く。

ダックさんって元々駆鶏農家だったのか。あんまり自分の過去のことを話さないから、知らなかった。


「ほら、行くぞ」


何事もなかったかの様に、ダックさんは歩き出す。私の腕から離れたペミーも、その後を追った。

道には、未だ衝撃を受けている子供三人が残った。


「…知ってたか、メルリ?」


「…知ってるわけないでしょ。エルギオも?」


「…うん。自分から言うとは思わなかった」


一瞬だけ、静寂が降りて。


「……あれ?」


「おいちょっと待て、エルギオ」


私が疑問を感じると同時に、カイがエルギオへ迫った。

今のセリフは、まるでダックさんの過去を知っているかの様だ。

私やカイすら、知らなかったのに。


「三人とも!置いていくぞ!」


「ペムーウー!」


先に行った一人と一匹が催促している。

エルギオに詰め寄るのは一旦やめて、整備された道を再び歩き出す。

私とカイの胸中の興味は、消えなかった。


ダックさん達に追いついたその時。

道の先から、悲鳴が上がった。


「…!?」


反射的に、走り出していた。

あーあ、いつもの悪い癖だ。治そう治そうと思っているのに、どうにもできない。


道の先の方に、少女が倒れているのが見えた。

そして同時に、その近くで暴れている獣の姿も。


二本の長い角を空へ掲げ、白い綿のような毛で覆われた、大きな身体。

綿鹿(わたじか)と呼ばれる獣だ。


彼らは、体は毛に覆われて柔らかいが、突進力はかなり強く、木製の小屋一つなら崩せるとも言われている。

少女が突進でもされたら、大変だ。どうにかして、止めないと。



…でも、どうやって?


走るのを止めてしまう。

止め方なんて知らない。

私は綿鹿(わたじか)について、さっきのような常識しか知らない。


倒れた少女が起き上がる。

それにより刺激を受けたのか、暴れる綿鹿が頭を下げた。

突進の合図だ。


頭の中がサッと冷えて、胸から焦りと迷いが吹き出す。

心臓に板が立てられたように、ドクドクと鳴って痛い。

がむしゃらに伸ばした腕は、無情にも全然届かなくて。


ギュッと目をつぶる。

その瞬間を見たくなくて。

自分は結局は無力だということを、突きつけられたくなくて。

突きつけられると、きっとまた、崩れてしまうから。


「いかなる時も冷静に、だ。メルリ」


響いた、落ち着いた低い声。

私の肩に、大きくてゴツゴツした手が触れた。

見上げるほどの巨躯が、私の横をすり抜けて流れるように綿鹿に近づく。

そして、そのままするりと綿鹿の二本の角を掴んでいた。


獣の咆哮が響き、綿に包まれた体が大きく動く。しかしそれは一瞬で、気づけば綿鹿は座り込んでいた。

もう、先程のように興奮していない。

入り込んだ彼…ダックさんが、鎮めたのだ。


「……すごい」


呟いたのは、エルギオか私か。少なくとも、口を開けて呆然としているカイではない。


「…綿鹿は、片方でも角をしっかり持って飼育するものだ。何があっても、手を離してはならん」


呟くように、ダックさんが起き上がった少女に言った。

厳しいような言葉だけど、少女のことを思ってのものだ。


「…は、い。ごめんなさい」


当の少女は、シュンとしてしまっているけど。

遅れて、私たちがそこに辿り着く。

倒れていた少女には、目立った怪我はないようだった。


「あ、あの…助けてくれて、ありがとうございます」


「あーいや、いいって。困った時はお互い様、だろ?」


カイがカッコつけたように言った。

改めて少女を見る。

少し赤みがかった髪を肩で纏め、エルギオと同じ橙の瞳だ。

私たちよりも背が低く、それでいて顔も結構整っていてかわいい。

カイがカッコつけるのも分かる気がする。


「君は、島民の子?どうしてこんな所に?」


私が聞くと、少女は服についた土を払って、深呼吸一つして言った。


「…私は、アンナ・コンボボロ・エルーシアと言います。島主の、娘です」

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