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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第四章 その花束に約束を
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1、船内会議

雲が空を流れていく。

鳥が囀り飛んでいく。

肌身に風を感じながら、私は船の甲板で空平線(くうへいせん)を眺めていた。

空は遥か上、そして遥か下の奈落まで続いている。


「…まだ見えないなぁ」


ポロッと声を漏らす。

私たちは、ハーマレー島での事件と災を乗り越え、空読み様の神降ろしによる予言を授かって。

そして今、コンボボロ島へ向かっていた。


「…あーいたいた。メルリー!作戦会議するぞー!」


聞き慣れた声に振り向いて、甲板を離れた。

私を呼んだのは、カイ。カイルス・フェキシフト。


かつて隆盛を誇り、そして一夜で滅んだ軍事島、フェキシフト島。その島主の実子であり、最後の生き残り。

今はただ、フェキシフトを滅ぼした、災竜への仇を燃料に、私の旅に付き添っている。

災竜への恨みは人一倍あるけれど、普段は明るく人懐っこいので、そんな一面を知る人は少ない。


「もうみんな集まってるぜ」


そんな彼に呼ばれて船の一室に入ると、そこにみんなが集まっていた。

入室した途端、白い塊が私の胸に飛んできた。


「ミィー!」


「っと。危ないでしょ、ペミー」


ペミー。

私が飼っているメムリット族のペット。意思疎通はできないけれど、とても優しいのは嫌でも分かっている。


「メルリ、コンボボロ島は見えたか?」


「…ううん。まだだよ、ダックさん」


ダックさん。ダック・ボンデール。

ネイケシア島に流れ着いた私を、実の子供のように育ててくれた人。

顔が良くて、面倒見が良くて。たまに何を考えているのか分からなかったりするけど、私やカイのことを第一に考えてくれている。


「なら丁度いいね。この後のことを考えよう」


「具体的に、どうするか。だよね、エルギオ」


エルギオ。エルギオ・ドラメル。

十年前に私が目を覚まさせた、ドラメル族の族長の子。

竜になれる力を持っていて、それで今も世界で暴れるドラメル族…災竜を全て、倒そうとしている。

私のこの旅には、エルギオの血と因縁が多く絡んでいる。きっとこれからは、彼の力を借りることが増えるだろう。


「メルリはなんか考えてんのか?」


「私は…コンボボロの島主さんに、何か知らないか聞いてみようかな、とか」


そして最後に、私。メルリ・ルアーナ。

十年前に事故にあって記憶を失い、ネイケシア島に流れ着いて。

そこで災竜を倒す聖女であると予言されて、ここにいる。


「ダックさんと、エルギオは?」


「メルリのいう通り、とりあえず島主に聞いてみるのが、一番だろう」


「…小さな、花畑。だっけ?」


ここに来る前。

ハーマレー島の空読み様からもらった予言によれば、コンボボロ島で『小さな花畑という聖痕』を得られるらしい。

そしてそれは、私達の旅の目的、災竜を全て倒すことに繋がるという。


「空読み様の名前を出せば、何か情報はくれると思うけど…」


「そもそも、コンボボロの島主が何も知らない可能性だってあるよな」


コンボボロ島は、様々な動物による畜産業と、綺麗な花畑による観光業で成り立っている島だ。

当然、花畑の知識は豊富だろう。それなら、何も知らないってことはないと思うけど。


「万が一の事も、考えておかねばならんな」


「それもそうだけど…一個、大事なことがあるぜ」


「何、カイ?」


私とエルギオの疑問の視線に、カイは少しだけ申し訳なさそうに、エルギオを見ていった。


「エルギオをどうすっか、て話だ」


「…!」


空気に緊張が走る。

エルギオの使う竜の力は、災竜のそれと同じもの。

つまり、エルギオは災竜なのだ。今も世界中で恐れられている、災いの化身なのだ。


たまたま、母親から託された願いで私たちと目的が同じで。

たまたま、いい人の巡り合わせにあってまっすぐに育って。


私たちと同じ方向を見る(目的を持つ)、心強い味方だけど。

下手をしたら、あのギルギみたいな凶敵になっていたかもしれない。


「…僕の秘密は、誰にも知られちゃいけないだろうね」


「それだけじゃない。エルギオが竜の力を使うところ。災竜になる所も、誰にも見られてはいかん」


「同じように、災竜から戻るところもな」


ダックさんが提示した条件を、カイが補足する。

災竜を倒すには、エルギオの災竜の力が必須だ。けれど、力を使うのを自分たち以外の誰にも知られてはいけない。

ハーマレー島主のヒラさんとローラさんには知られてしまっているけど、あの二人なら周りにこぼす事もないだろう。


けれど、コンボボロ島主が同じだとは限らない。

それは、とても難しい条件に思えた。


「もしまた災竜が現れた時のために、どう動くか考えておいた方がいいよな」


「…まあ、もしそうなった時に、決めていたように動けるか分かんないけど」


カイの提案に弱音を吐く。

正直、私もカイも今までのように恐怖で硬直したり、ただ喚き散らしてしまう可能性が高い。

災竜への恐怖には、なかなか慣れない。


「…それぞれが考えて動くしかあるまい」


「臨機応変に、って事か」


ダックさんの回答に、エルギオが纏める。

私達の旅が予想以上の難易度であることを、改めて思い知る。

けれど、だからこそだ。


「…聖女様御一行。もうまもなく、コンボボロ島に到着いたします」


と、話していたところに部屋の外から声がかかった。

扉を開けると、長身の男が目に入る。


「あ、はい。分かりました、メーレンさん」


薄緑色の長髪を右に纏め、空船員の服に身を包んでいる。

鋭い黄色の瞳が少し怖いが、機嫌が悪いわけではなく生来のものらしい。

彼の名はメーレン・フロウシ。私達の乗る船の船長だ。


私達の旅は、航路、つまり次はどの島に行くのかが不明瞭だ。

通常貿易などの為に出ている空船を乗り換えていくには、下手をすれば時間がかかり過ぎてしまう。

だからヒラさんは、私達のためだけに専用の小型船と船員を一人、つけてくれた。

それが彼、メーレンさんとこの船、名前はフロー号だ。


「じゃ、そろそろ甲板に出るとすっか」


「そうだね。手筈はとりあえず、さっきの通りに」


カイの言葉で、私たちは部屋を出る。

もちろん、部屋の前にたったメーレンさんへの感謝は忘れない。

私は甲板へ向かいながら、存在は知っていたものの、初めて見るコンボボロ島の姿に思いを馳せた。


———


カイを筆頭に、メルリ、ペミー、エルギオが部屋を出、部屋にダック・ボンデールが残る。


「さ、ダック様も甲板へ」


「…メーレン、さん。あなたには感謝しているが、どうしても聞かねばならないことがある」


立ち上がったダックは、不意にそう言った。

言われた彼は、その真意が分からず首を傾げる。

それを無視してダックは歩き出し、メーレンの横に並んで、言った。


「…私達の話を、どこから聞いていた?」


「…なんのことでしょうか」


ダックは気づいていた。

メーレン・フロウシは、部屋の前にやってきてすぐ、メルリ達に声を掛けたわけではなかった。

ダックの視線が鋭くなる。それを見て、メーレンは一息ついて言った。


「私は、ヒラ様の命令に従うだけです。聞き耳を立ててしまったのは、すみません」


「…口外するつもりは?」


彼が盗み聞いた内容は、聖女の同行者。

エルギオという少年の、とんでもない秘密について。


「ありませんよ。何があっても無視しろ、との命ですので」


「……そうか」


不意に降りた緊張が、地に染み込む水のように消えた。

メーレンは一礼して、船長室の方へ向かう。ダックはそれを見届けて甲板へ向かった。


(…彼は、只の空船長ではないのかもしれない)


そんな不安を、胸に残して。

コンボボロ島の低い影が、雲の間から見えかけていた。

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