幕外1、オーディエンス、あるいはエディター
「ちょっとー!降りるなら、僕にやらせてよー!」
何処でもない場所、いつでもない時、何でもない空間で、誰でもない自分の声が不満を言った。
その相手は、同じく誰でもない彼。顔を顰めながら自分へ言葉を返す。
「勝手に人間に降りたお前には、任せられないだろ」
「しょーがないじゃん。あれが一番、手っ取り早かったんだし」
「大事な空読みジジイが、それで死んだらどうする!?」
うわ、急にキレた。こっわ。
そんなに人生に余裕ないの?もーちょっと余裕を持って生きようよ。
そんなんだから、現代人は荒んでるとか言われるんだよ。
そんなことを思いながら、彼を落ち着かせる。
「僕はあの人間が、頑丈だと信じてたのよ。だからそんなに怒らないでー」
「…どうせ、ジジイが死んだら別の人間に、『空読みの加護』与えればいいか、とか思ってたんだろ?」
ギクっ。
い、いやいやー。そんなことある訳ないでしょー。
僕はそこまで殺生で、人の心が無いわけじゃないよ。
ため息をついて、そもそもさーと呟く。
「空読み、めっちゃ遠回りでくっそメンドクサイ手段だと思うんだけど。彼らみんな、司祭みたいにしちゃえばいいのに」
「そんな事をしたら、本当に兄様たちに怒られるぞ。そもそも、全ての元凶はお前が、昔やらかしたからで…」
「あーそれはもういいから。ちゃんと聖女を選んで、尻拭いしてんじゃん」
そうやってすぐ昔のことを掘り返す。こんな奴がいるから、新しいことができずに社会が腐っていくんだよ。
もう老害だよね、老害。
「誰が老害だ!俺とお前は、歳は同じだろうが!」
「ちょ、セリフ以外に突っ込むなよ!」
思わずそう言い返すと、彼は更に顔を顰めた。
自分の発言に、怒りを表している様だ。
やっぱり、急に文体変えたりするの嫌?
「ちょっと前からしてるけど、ウザいんだよその地の文!要らないだろ!」
「セリフばっかだと、飽きちゃうでしょ?」
「地の文が多い方が飽きるわ!」
「それは人によりけりじゃない?」
世界の外側。あらゆる現象の裏で、自分と彼は口論を続ける。
案外、こうやって戯れあっている時が楽しい、なんて。
…おいおい、照れんなって。
「ホントにお前は…ところであの子たち、これからどうさせるつもりなんだ?竜の島なんかに行かせて」
「んーまあ。色々考えてるから、気にしなくていいよ」
こっちの思い通りにならなそうだったら、今回みたいにまた強引に介入すれば良いし。
あ、怒った。
いーじゃん。これくらい楽観的でもさー。
「普通に気になるし心配だわ!あの子が死んだりしたら、どうするんだ!」
「それは、彼らがそこまでだったという事で。あ、でも一応君も準備してるんでしょ?」
流し目をして、彼に問う。
「…気付いてたのか」
「当たり前だよ。こっちが聖痕を持ち出した途端に、そんなもの仕込むんだから」
「そんなものとはなんだ…ほら、雑談はこれくらいにするぞ」
語気が弱くなってる。
怒り疲れたのだろうね、うん。
「そうだねーそろそろコンボボロ島につく頃かな?」
「いや、流石にまだかかるだろ…」
彼の世界で運命を刻む、人と竜の物語に視点を向ける。
「…我らは、こんなことしか出来ないが…」
「十分だよ。少なくとも、彼らにとってはね…」
なーんて、部外者みたいな事とか言ってみたりして。
でもまあ、うん。
少しは彼らの運命に、自分も関わってみてもいいかなとも、思ってみたりして。
「……それは、ダメだ」
…結局、最後まで地の文に反応しやがって。
分かってるよ、それぐらいは。
「我らは、彼らにとって部外者であった方がいい」
分かってるってば。僕らがあの世界の運命に関わりなんかしたら、兄様達になんて言われるか。
僕のそんな考えに、彼はふっと笑う。
——そして、自分が思うに珍しい、憂いを帯びた顔で言った。
「そう、部外者でいい……今はまだ、ね」
幕外1 終
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