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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第三章 竜との旅へ
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12、竜との旅へ

ホラさんの遺書を見つけてから数日後、殆どの準備を終えた私達に、空読み塔から遠話(えんわ)が届いた。

いや、正確には空読み様から。


出発の前日、正式な手順で神降ろしをさせて欲しいという内容だった。

前回の神降ろしは、突然だったのもあり十分でなかったと、空読み様本人が言ったのだという。

正式な手順を踏んだ神降ろしなら、より具体的で分かりやすい予言が、降りるらしい。


そもそも神降ろしというのは、手順を踏んで神を呼んで、合意の元体を神に預けるものだと、空読みの使徒だという人が言っていた。

だから、私たちが見た、強引に神が入り込んだ神降ろしは、かなり異質で例の無いものだったのだ。


話を戻して、具体的な情報が得られるなら、断る理由もない。

そんな訳でこの日、私たちは再び空読み塔の最上階を訪れていた。


「お久しぶりです、空読み様。体は大丈夫でしょうか」


「おお大丈夫、モーマンタイじゃよ」


「モー…?」


最上階の広い部屋で少し待つと、やがて真っ白なローブを頭までしっかり被った、見覚えのある老人がやって来た。

服装を整えた空読み様は、最初に声をかけたヒラさんに、よく分からない言葉で返す。


「…今日は、お願いしますわ。空読み様」


「おーおー分かっとる。すでに準備は整っておるよ」


「…それでは、神降ろし、の方を」


ごくりと、私とカイとエルギオの、唾を飲み込む音が、変に大きく響く。

腕に抱いたペミーも、神妙に静かにしている。


少しと待たずに、儀式が始まった。

低い銅鑼の音と共に、老人の口から聞きなれない呪文が流れ出す。

思っていたより早くに、老人が白目を剥いた。

神さまが降りた合図だ。


場に、緊張が走る。

誰もが、老人の左右に控えている空読みの使徒達さえ、静かに老人の言葉を待っている。




ザ。ズザ。



そして、聞いたことのある音と共に、老人の口から無機質な声が溢れた。


「…聖女よ…そして、聖女に付き従う者たちよ…」


ぐんと、腹の底が重くなったように感じる。只事ではないほどの重いものが、身体中を駆け巡り、ただ耳を傾けることしかできなくなる。

その内容全てに気を配っている、余裕は無くなる。


「三つの聖痕を集めよ…小さな花バタケに誓いを、ケツガの紋章に英雄を、剣のタマ柱に弔いを」


三つの聖痕という言葉に、ハッとする。

確かにこの前より、具体的な内容になっている気がする。

まだちょっと、分かりにくい所はあるけれど。


「さすれば、竜の島…()()()()()()()()()への扉が開くだろう」


思わず下げていた顔を上げる。

横を見ると、他の皆も驚いていた。


前回の神降ろしでは、聞いたことのない情報だ。竜の島、竜を祀る島というのは、北の果てにあるのか。


「…行け、竜を倒す為に。古くからの過ちを、祓うために…」


声の調子が、変わる。

それはまるで、私たちに懇願するような。

それに、私は少しだけ、本当に少しだけ違和感を覚えた。


(前回見えた人影と、違う…?)


今回も、声の奥に誰かの影が見えたような気がしたのだ。

けれどそれは、前に見たものと少し違って見えたような気がした。


違和感は違和感だ。

次の瞬間に、老人の体が崩れ落ちたので、その思いは黙殺された。


———


翌日。

私たちは、島の港に来ていた。

ヒラさんが手配してくれた、私達のための船。これに乗って、この島を離れる為だ。


「怪我に、気を付けてくださいね」


「この島の心配は入りませんわ。私とヒラがいるんですもの」


すでにヒラさんとローラさんには、ハーレ機関本部の前で別れを告げてきた。

ホラさんの遺書を読んで泣いていた彼らだったけど、逆にそれで前に進めたようだ。


あの二人なら、今後もハーマレー島を守っていけるだろうと思える。

もちろん、もう東西で睨み合うこともなく。


「…メルリ、みんな」


船に乗る時、ふとエルギオが口を開いた。

視線が、彼に集まる。


「改めて、お礼を言いたい。…僕を、災竜と知っても共に居たいと言ってくれて、ありがとう…これからも、よろしく」


そう言って、しっかりとした顔で、私たちに微笑んだ。

その笑顔に、私も笑みをこぼす。


「こちらこそ!よろしくな!」


「ムー!」


カイとペミーが、エルギオへと笑い返す。

本当の意味で、エルギオは私たちの仲間、共に旅をする家族になれたわけだ。


「この旅には、君の力が必要不可欠だ。エルギオ」


ダックさんはそう言うけど、本心は一緒に行けて嬉しいのがわかる。

ダックさんって意外と素直じゃないんだよね。


「…メルリ」


彼の視線が、私に向いた。

それは、初めて会った時のような、それとは全く違ったような雰囲気で。


「…うん。これからも、よろしくね」


笑いかけると、エルギオは少し顔を逸らしながら頷いた。

ちょっと顔が赤い気がする。

案外可愛い所もあるな、この子。


船へと渡ると、渡し板が外されて船が汽笛を上げる。

動き出した船の甲板から、遠ざかり始めたハーマレー島へと、手を振った。


「…さようなら!」



色んなことが、本当に色々なことがあった。

楽しいことも、苦しいことも。

けれど、私たちは乗り越えられた。分かり合えた。


ここからだ。

ここから、本当の意味で竜との旅が始まるんだ。

私は、まだ見ぬ空の向こうを、不安と期待が混ざる瞳で見つめた。



———



コンボボロ島へと向かう空船の中で、聖女達一行は思い思いに時間を過ごしていた。


未だ自らの運命を知らぬ、少年と少女。

自らの過去、血筋と向き合うことを決めた竜の少年。


ただ一人、空読みの予言、()()()()()()()()()()()小動物。

そんな彼らを親として見守る、子供な大人。



そんな彼らの乗った空船を、空岸から眺める者が一人いた。

かつてのエルギオの友人、ケンヤ・ホープである。

彼は、呆然としながら自分が盗み聞いてしまった、彼らのやり取りを思い出す。


(エルギオが…)


災竜であると。

聞き間違いかと思った。

しかし、確かに彼自身が言っていた。


ケンヤの脳裏に、事件が起きる前の、体調の悪かったエルギオの様子が、浮かび上がる。

確かにあの時、自分はエルギオに怪物的な何かを感じた。

いやまさか、それでも。


(エルギオ、が…?)


信じられない。信じられるはずがない。

ケンヤ・ホープは、呆然とした面持ちのまま、小さくなっていく空船を、見つめ続けていた。




***


ああ、長かった。

ここまで、本当に長かった。


ここに辿り着くまでに、一体どれほどの時間が流れたのか。

自分は分からないが、きっと何百年も経ってしまっているだろう。


それでも、ようやく。

本当にようやく。


世界が、運命が、本格的に動き出したのだ。

第三章 終


次 幕外1

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