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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第三章 竜との旅へ
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11、残されたもの

私たちは、コンボボロ島に向かう為の準備を進めていた。あの島の辺りはここより暖かく、今より薄い布の服が必要だった。


「それぐらいの旅費なら、こちらから出せますわ」


そう豪語したローラさんの計らいで、私とエルギオは、ハーレ機関本部に訪れていた。島の復興用の緊急金庫では無く、ローラさん自身の財産から、お金を少し拝借する為だ。


「ローラさんの部屋は、ここであってる?」


「…うん。ホラさんの部屋の隣、ここで合ってるね」


本部の最上階に二つ並んだ部屋。

片方は今から入るローラさんの部屋。そしてもう一つが、あの事件から開きっぱなしのホラさんの部屋。


「…ねえ、あっちにも入っていい?」


ローラさんの部屋の、彼女専用の金庫を、貰った鍵で開けて、少しだけお金をもらう。

鍵でしっかり金庫を閉めて、部屋から出た時、エルギオが不意にそう言った。


「ダメじゃないと思うけど…なんで急に?」


「メルリ達が見つけたっていう契約書を、僕も見てみたくて」


そう言いながら、エルギオはホラさんの部屋に入って行った。私も、慌てて彼の後を追った。

件の契約書は、机の引き出しから見つけた後、机の上に置きっぱなしだった。エルギオがそれを、じっと見つめている。


「…何か、気になることでもあるの?」


「いや…ギルギについて、何かわかるかもと思ったんだけど…」


エルギオはそう言いながら、何も分からなかった事を、首を振って示す。

私もエルギオから聞いたが、確かにギルギにはおかしい点があった。


人間の姿になれるのは、エルギオもそうだから置いておいて。

彼は普通に人と話せたし、立ち振る舞いも変でなかった。

つまり、彼は正気を保っていた。


エルギオの記憶によれば、ドラメル族は竜の神の制約を破ったせいで、理性を失い暴走したとあった。

エルギオだけは、彼の母のお陰か今も正気を保てているが、他のドラメル族、つまり災竜に理性はないはずだった。


なのにギルギには理性があった。それどころか、竜の力を使いこなしていた。きっとそこには、エルギオさえ知らない何かが、あるに違いない。

彼はそう思って、手がかりを探して契約書を見てみたのだろう。完全に無駄足だったけど。


「この契約書は、どこから見つけたの?」


「そこの引出しの中からだよ」


それでも彼は、まだ諦めずに手掛かりを探すようだ。なら私も手伝わなくちゃと思って、机の引き出しを開ける。

もう中には、何もない。


「…あれ?」


と、エルギオが何かに気づいた。彼は突然引き出しを奥まで開け、あろうことかそのまま全部引き出した。


「ちょ、ちょっと!?何やってんの!?」


「奥に、まだ何かある」


見てみると、契約書が入っていた段だけ、他の段の引き出しより短く作られていた。そして、その奥にもう一つ、引き出しが隠されていた。


「…ほんとだ。隠されてたのかな?」


「…中を、見てみよう」


二人がかりで、奥の引き出しを出してみると、巻かれて紐で留められた紙が一枚、その中に入っていた。


「なんだろう、これ?」


紙を留めている紐を解いて、紙の中を見てみる。

その中に書いてある文を見て、私とエルギオはハッとした。


———


ヒラ・ハーマレーは、メルリとエルギオに呼ばれて、ハーレ機関本部の最上階に向かっていた。

ローラ自身の貯金を拝借するために、彼女の部屋へ向かっていた二人から、遠話機で連絡が来たのだ。

今すぐ、ここに来て欲しいと。


特に呼ばれる理由もないから、二人が何かを、自分に伝えたがっているのだろうと推測する。

その答えは、二人の待っていた部屋にローラ・ハーマレー・ネネリアもいたことで、微妙に違っていたことが分かった。


「あら、あなたも…」


「ローラさんも、呼ばれたんですね」


「ええ。今すぐ、来て欲しいと」


そう言いながら、彼女は鋭い眼光を二人の子供に向ける。

彼女は今、部下や住民への指示出しで忙しい。そんな自分に、時間を取らせるほどのことなのかと、視線で言っているようだ。


「…二人には、これを読んで欲しくて来てもらいました」


不意に口を開いたエルギオが、そう言って丸められた紙を取り出した。


「これは、契約書が入っていた引き出しの奥に、隠されていたものです。エルギオが見つけました」


メルリが、その紙について説明する。彼女の言葉から考えれば、この紙はホラ・ハーマレーが、契約書よりも隠したかったものだ。

確かに、自分達二人だけに見せるのも、おかしくはないのかも知れない。


「そう…見せてちょうだい」


ローラが紙を受け取る。留められた紐を解いて、紙を開く。

彼女の横から覗こうとすると、彼女は腕を広げて、自分にも見えるようにしてくれた。

紙には一面に、ホラの字が見えた。

どうやら、手紙のようだ。



 『このようなものをどのように書き出せばいいか分からないので、とりあえず今の心境だけを綴っておく。

 自己紹介はいらないと思うが、念の為。

 私はホラ・ハーマレー。

 この島の西側の島主だ。』



それは、どう見ても誰かに宛てた手紙だった。

いや、誰かじゃない。誰宛のものかなんて、考えなくても分かる。



 『突然ですまないが…私は近々、死んでしまうかも知れない。

 だから、後に残す者たちのために、この手紙を書くことにした』



それは今はもうどこにもいない者からの手紙。

ある者の夫であり、ある者の弟でもあった、一人の男の遺書だった。



 『そうだな、まず何から書こうか。

 私が、もうすぐ死んでしまうと思っている理由でも書くか。


 私はこの島が大好きだ。

 人も、動物も、植物も、全てが活気に満ちている。

 何より、大事な人たちがいる。

 私は、この島を何をしてでも守りたい。


 かつて、私は島を守りたい一身でとある人物と契約を交わした。

 今思えば、あれはとんでもない間違いだった。

 契約を交わした相手は、人間じゃなかった。

 あれは、おぞましい怪物だ。


 私は臆病にも、怖くなってしまった。

 いつか、あいつがこの島を襲うのではないかと。

 契約の破棄を打診してみたが、相手にされなかっ

 た。


 だから私は、決心した。

 震えながらも、決心したのだ。

 この体、この命を契約破棄の代償にしてもらうと。


 私が死ぬ代わりに、契約を破棄して欲しいと懇願する。

 あいつには人の心がないから、喜んでこの提案を受け入れるだろう。


 そういう訳で、私はもうすぐ死ぬ。

 身勝手かも知れないが、許して欲しい。

 私も、頭を痛めるほど悩んだ末の決断なのだ。



 クニット。

 君にとっては、辛いことだろう。

 君は、ようやく私のお付きになれたと、喜んでいただろう。

 謝っても、許してもらえるか分からない。

 でも私は、君の、自身が良いと判断したことなら、機関のしきたりさえ無視するその真っ直ぐさが。

 危ういと思いながらも、気に入っていたよ。』



読んでいるものが、信じられない。

島主になってからはいつも寡黙で、いつも何か考えていて、無愛想な彼が。

そんな彼が、身の内を曝け出している。


ふと横を見ると、ローラの手紙を持つ手が震えていた。メルリとエルギオの二人も、俯いて耐えていた。



 『ローラ。

 一人残されてしまうであろう君に、どう謝ればいいか分からない。

 だから、思いついた感情だけを、書き残したい。


 君は私の為に、優しい性格を隠して、周りに厳しく当たってくれていた。

 臆病な私にとって、それがどんなに助かったか、言葉では言い表せない。


 それでも、私はやはり優しい君の方が好きなんだろう。

 いつか、午後の森で笑ってくれた時。

 私の為になら、鬼女にでもなれると言ってくれた

 時。

 私の肩にのしかかる責任を、一緒に持つと言ってくれた時。


 私は、本当に嬉しかった。

 それだけは本当だ。


 大好きだ。

 今でも、いつまでも。

 愛してる。』



手紙に、雫が落ちた。

彼女の体が震えて、溢れるような声が、小さく響く。


「………ばか、ばかよ……」


嗚咽をこぼして、ローラが崩れ落ちる。堪えきれなくなったメルリが、彼女に駆け寄った。


夫を失った妻の嘆きが、静かな部屋に響く。彼女の手を離れた手紙を拾って、続きに目を通す。

手紙には、まだ続きがあった。



 『兄さん。

 つくづく自分は、島主には向いてないと思う。

 それでもここまでやってこれたのは、兄さんのおかげだ。


 もう何年前か覚えていないけど、子供の頃。

 よく兄さんと二人で、こっそり森に出かけたこと

 を、憶えている。

 その時兄さんは、島の命に責任を持てと言ってくれた。

 あれがあったから、自分は島主としていられたのだと思う。


 それが行きすぎて、今回のような許されない罪を犯した。

 それは、完全に自分の落ち度だ。

 兄さんは、責任を感じなくていい。


 …どうも兄さん宛に書くと、文体が安定しない。

 恥ずかしいな。


 兄さんは俺の憧れだった。

 カリスマを持っていて、それでいていつも笑顔で。

 そして、自分が負うべき責任を、見失っていなかった。


 幾度も書いたが、謝っても許されないのは分かっている。

 けれど、どうかこんな駄目人間を許して欲しい。


 俺が死んだ後の、ハーマレー島をどうか頼む。

 兄さんの弟で良かった。

 ありがとう。』




瞳の奥から、胸の奥から熱いものが溢れてくる。

感情の昂りが止められなくて、口から小さな嗚咽が漏れて。

それで堰を切ったように、両目から涙が溢れた。遺書の上に、ポタポタと雫が落ちる。


「……本当に、不器用ですね…あなたは……」


泣き崩れながら、遺書を胸に抱く。

誰かが、背中に手を置いた。慰めてくているのが分かる。


『分かった!ありがとう、兄ちゃん!』


いつの日か、彼が自分へ向けた幼い笑みが、脳裏の裏に蘇る。

その笑顔は、本当にどこまでも楽しそうで。本当に限りなく、愛おしくて。


「うう…ああぁっ…」


声を漏らして、いつまでも泣き続けた。背中に手を置いた誰かは、涙が引くまでそうしてくれていた。



 『ああ、最後にもう一つ。

 鎮魂祭の頃に来るであろう聖女様にも、頼みたい。


 私が死んで、島は混乱するだろう。

 その時、兄さんとローラと協力して、どうにか場を納めてほしい。

 二人なら、協力してくれるだろう。


 なんたって、私の大事な人たちだ。


 …やはり、手紙で書くのは気恥ずかしい。

 後で機会を見て、彼らに直接伝えた方が良さそう

だ。

 これは、引き出しにでも隠しておこう。』



ホラさんは、島のことを私たちにも託していた。

彼がやった事は決して許される事じゃないし、とても大変な事だ。

それでも、その文からはどこまでも優しさが溢れていた。

それだけは、痛いほど分かってしまった。



 『私は、責任の先に許されざる罪を犯した。

 弁明するつもりはないが、一つだけ信じて欲しいことがある。


 私はこの島を、この島に生きる全ての命を愛している。

 何にも変えられない、大事な人達を愛している。

 それだけは、誰がなんと言おうと本当だ。』

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