表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第三章 竜との旅へ
29/167

6、傷跡 2

エルギオが意識を取り戻したと聞いてすぐ、私は彼の所へ向かった。

彼はもう起き上がっても大丈夫なようで、配られた野菜と肉のスープを膝に置いて食べていた。


「…エルギオ、もう大丈夫?」


「…うん、もう大丈夫だよ。メルリ」


その声を聞くのが、酷く久しぶりな気がする。

実際一週間ぐらいは話したこともなかったのだけれど、私にはもっと長く離れていたように思えた。


「……」


「……」


沈黙が降りる。

話したいことが、たくさんある。

聞きたいことも、たくさんある。

けれどそれ以上に、彼に言わなければならないことがあった。


気を失う前に感じた、深い諦念。

弱い心に打ち込まれた、どうしようもない暗い感情。


「…あ……」


言わなくちゃ、彼に言わなくちゃと思っても、口が上手く動かない。

なぜなら、その内容を彼に伝えるのを、私が恐れているから。


旅を諦めたい。

恐らくギルギを倒してくれたであろう彼に、そんなことを言うのは心苦しかった。

そんな私と同じで、エルギオも話を切り出す機会を伺っているようだった。


「ねえ」

「あの」


言い出した言葉が、見事に重なってしまった。

沈黙が気まずくなる。


「…エルギオ、起きた?」


口を開く隙もなく、カイの声が聞こえた。

振り返ると、彼の他にダックさんとペミー、ヒラさんにローラさんまでいる。


「みんな…」


旅の仲間で大事な家族だし、ダックさんとペミーは分かる。

色々と忙しいはずの、ヒラさんとローラさんまで来ているのは、いったい。


「…エルギオ」


言葉を発したダックさんは、何故だか厳しそうな顔で。

ヒラさんとローラさんも真剣な顔で。

カイとペミーは、不安そうで。


みんなの様子に、エルギオも眉を顰める。

私も、何か嫌なものを感じて、ダックさんを見据えた。


「…君、は」


「あーもう、まどろっこしいですわ」


ローラさんが、ダックさんの言葉を押し除けた。


「あなたがエルギオ、ですわね。初めまして。私、ホラ・ハーマレーの夫のローラと申しますわ」


「は、初めまして…」


突然の自己紹介に、エルギオが困惑しながらも応える。

そういえば、この二人は初対面だったなとふと思う。

雑多な思考を、彼女のぴしっとした声が振り払った。


「…単刀直入に聞きますわ」


みんなに、痺れるような緊張が走ったのが分かった。

私は、無意識のうちにエルギオの手を握った。

一拍の後、彼女はその疑問を投げた。


「……あなた、一体何者なんですの?」



エルギオの体が強張っていくのが、繋いだ手から痛いほど感じ取れた。


「……それ、は」


彼の口が開いた。

声が震えている。

私は、彼の手を握る力を、強くした。咄嗟に、それしか出来なかった。


「…今すぐ、話す必要はない。だが、いつかは…」


「待てよ」


ダックさんの言葉を、今度はカイが遮った。

彼は、私たちの所に来て、座り込んだ。

彼の瞳が、私達と平行に並ぶ。


「…メルリも、エルギオも、俺にとっては大事な仲間なんだ。家族みたいなもんなんだ」


少しの沈黙の後、彼はそう切り出した。


「…でも、でも。だからこそ教えてほしい。()、教えて欲しい…」


途中までしっかり話していた彼の声が、不意に震えた。

彼の瞳も震え、歯を食いしばっている。


「お前、は…」


そして、一息ついて。



「エルギオ、お前は…さ、災竜、なのか……?」



彼の震える体が、必死に否定してほしい事を、訴えているのが分かる。

けれど、エルギオも私も、否定なんて出来ない。


「…ち、違うんだろ?何かの、間違いなんだろ…?」


ギルギは災竜だった。

その彼が、エルギオのことを同族だと言っていた。

当時の混乱の中ではそれに気づく暇は無かった。それ以上に大事なことが多かったから。


けれど、一週間ほど経った今。

事実を整理した人がそれに気付くのは、当たり前だった。


「…なあ、否定してくれよ…」


そしてそれは、否定できない。

他でもないギルギの言葉と、その後の災竜の闘いが、全てを物語っている。


今更否定できない。

したところで、もう遅すぎる。


「……お願い、だから…」


「カイ…その」


カイの声は、もう泣きそうだ。

聞いていられなくて、何かを言おうとしても、何も思い浮かばない。


「……ごめん」


「…っ、カイ!」


謝罪だけを言い残して、カイは走ってどこかへ行ってしまった。呼び止めても、止まらない。

彼へと伸ばした手が、無力にも宙を掻いた。


「…今じゃなくていい」


「話せるようになったら、話して下さい」


「ゆっくりで、いいんですわよ」


重い沈黙が降りた場に、大人達が言葉を残して去っていく。

どれもこれも本当に優しくて、苦しくなる。


「ペムゥ…」


場に最後に残ったペミーは、私の膝に擦り寄ってくれた。

手を置くと、柔らかい毛の感触が手を伝う。なんとなく、慰めてくれているのが分かる。


「…話そう、全部。もう、隠すことはできない」


ぽつりと呟いたエルギオに、私は何も言わずに頷いた。

心にぽっかり穴が空いたようで、泣きたいような気持ちだ。

それなのに、涙は溢れ出してくれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ