表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第三章 竜との旅へ
28/167

5、傷跡 1

災竜同士の闘いは終結した。

二体の災竜は、島の東側の端に落下した。それで起きた巨大な振動に、西の森の木々が吹き飛び、倒れる。

そして、それを最後に島は静寂に包まれた。


「終わった、のか…?」


誰かがポツリと、呟いた。

その言葉に、周りの人々も、災いとされる災竜同志の闘いの中を生き延びた事を、実感しだす。


歓声は上がらない。

生き延びた者たちには、生還の喜びも、幸運の歓びも、生存の安心もなかった。


ただ疲れが。

途方もない疲れが、彼らに纏わりついていた。


「おい!こっち、誰か倒れてるぞ!」


誰かが、森の中で何かを見つけた。

それは、まだ年若い男の子だった。

なんと、腹の辺りに穴を開けて、血反吐を吐いて気を失っている。

かなりの重傷であるのに、その少年は奇跡的にまだ生きていた。


人々は慌てて、少年を避難所となったハーレ機関の本部に運んだ。

こうして、突如ハーマレー島を襲った災いは、幕を閉じたのだった。


———


闇。

どこまでも広がる、闇の世界。

恐ろしさはない。

その代わりに、どこか心地良い闇。

このまま、ここで眠ってしまおうか。


そんなことを思ったその時、闇に一筋の光が差した。

同時に、懐かしさを感じる声が聞こえる。

声は、自分の名前を呼んでいた。


流れに身を任せるように、声が聞こえてくる光に、飲み込まれる。

その先に、一抹の苦しさを感じながら。



「——リ!メルリ!」


「……カイ?」


うっすらとした視線の先に、少年の顔が見えた。それが誰かわかって、その名前を呟く。


「気付いたのか!…よかった」


自分より歳下の顔が、安心に歪む。

その顔を見て、私は何が起こったのかを思い出した。


「…そうだ、エルギオ!災竜は!?」


「ちょ、ちょっと落ち着け。一つずつ話すから」


慌てて起きあがろうとしたのを、カイが静止した。


「う、うん…ごめん」


「いや、謝まらなきゃなんないのは、俺の方だ…」


彼の顔が、スッと暗くなる。


「…何も。何も出来なかった。ほんと、ごめん…」


「…もう、大丈夫なの?」


「…おう。俺はな」


その言葉と一緒に、彼は横を向いた。

視線を向けると、未だに寝かされたままのダックさんとペミーが、目に入った。

私が気を失った後も、なんとか無事だったらしい。


「ヒラさんとローラさんも、無事だぜ。ヒラさんは、ちょっと怪我したたけど」


「そう…よかった」


とにかく、身の回りの大事な人達は、全員無事だった。

となれば、後の懸念は。


「…エルギオは?災竜はどうなったの?」


「…災竜は倒されたぜ。エルギオ、は…」


言葉を濁した彼に、腹の底から恐ろしさが這い上がってくる。

そんな私の様子に、カイが慌てたように言った。


「いやいや!生きてるよ!かなりの重傷、だけど…」


「重傷…」


「腹に穴が空いたたんだと。治療師さんのお陰で傷は治ったけど、熱が酷いらしい」


それからカイは、淡々と周りの状況を語っていく。


ハーレ機関の本部は、急遽避難所になったらしい。

東のハーマ集会からも人員と治療師を呼んで、怪我人の治療を最優先にしたという。

それでも、助けられない命は多かった。


ヒラさんとローラさんが共同で指揮をとってくれたおかげで、不要な争いは最小限で済んだという。

それでも、まだまだ問題は山積みだ。

大変なのは、ここからだ。


「…私も、動かないと」


大きな怪我もないのに、気を失ってしまったんだから。

遅れを取り戻さなきゃいけない。


「もう、大丈夫なのか?…崩れて落ちてきた、天井のがれきに飛ばされたって聞いたが…」


「うん、特に大きな怪我もないよ。気を、失ってただけ」


「そうなんだ…みんな、待ってるぜ…その、聖女様…を…」


カイが悲しそうな顔をする。

私にかかる責任を重く感じてくれているのだろう。


「…大丈夫、だよ」


みんなのためだと思えれば、私は動ける。それに、この旅だって。


「……」


気を失う前の深い諦めの気持ちが、再び私の胸をよぎった。

あの気持ちは今でも変わっていない。


島の復興を終えたら、こんな危険な旅なんてやめて、みんなとどこかで静かに暮らしたい。

そんな考えすら、浮かんできている。


(エルギオに…会って話そう)


なぜだか分からないけれど、彼にだけは、今のうちに話しておきたかった。


「よし…カイ、行こう」


立ち上がって、伸びをする。

そうして私は、島の復興を手伝うため、遠くで指示しているヒラさん達の所へ歩き出した。

カイが、ずっと苦しそうな顔をしている事に、一抹の不安を感じながら。



ダックさんとペミーが立ち上がれるようになったのは、それから二日後だった。

命に関わるほど大きな傷では無いったからかもしれない。

治療師さんは、ちょっと早すぎると言っていたけど。

エルギオは、その頃になってようやく薄らと目を開け始めた。それでも、話したり動いたりは出来ないようだった。


———


街道の横で、倒木を運びながら誰かが話している。

ケンヤ・ホープらだ。

彼らも、災い同士のぶつかり合いを生き延びていた。


「倒れた木の撤去、どうするのよ?」


「どうしようもないだろ。奈落に捨てるか、建築に使うしかねーよ」


「大事な建材しゃよ。奈落になんか捨てん」


このように、島の復興は、かなり難航した。

島が広いこともあって、被害規模が正確に分からなかったのだ。

東西の組織が協力して復興にあたったけど、少しずつしか進まなかった。


———


水や食糧は、溜めていた分があってなんとかなったが、問題は寝床だった。

死者は数千にも上ったが、怪我人だけでもその十倍はいた。

怪我人全員が寝れるほど広い場所は、この島には無かった。

だから、可能な人は森の中で野宿をした。


少しずつしか見えない光に、誰もが焦りと不安を感じていた。

それだからか、私の存在はかなり大きかったと思う。


「聖女様!」

「聖女様が来られたぞ!」

「手を握ってくれませんか?聖女様!」


災いの前に、人々を導く聖女。

それゆえに、みんな私から励ましの言葉を求めた。

私は、それに精一杯応えた。

私にしか出来ないことは、それだけだったから。


「……」


一つ、辛かったことがあった。

私が旅を辞めようと考えている事だ。

そんな私に、人々は羨望の眼差しを向けるのだ。

いつか災いをすべて取り去ってくれるのだと、願ってくるのだ。


苦しかった。

彼らを裏切っていると、感じてしまうから。

彼らの期待と羨望を、無意なものにしている気がしてしまうから。


カイやダックさんは、私が何か悩んでいる事に気づいて、何も聞かずに励ましてくれた。

それがちょっと嬉しくて、同時に苦しかった。

彼らからの期待も、私は裏切ろうとしているのだ。


そんな日々が数日続いた。

そして災竜の闘いから六日後。

エルギオはようやく意識をはっきりさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ