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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第三章 竜との旅へ
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4、ブラッド・ハンター 2

ハーマレー島の、遥か上空。


「ほらほら、どうするぅ!?」


精神を逆撫でする声を無理やり無視して、僕は幾度目かの爪の攻撃を避けた。

…避けきれずに、頬に痛みが走る。


(くそ…!)


彼の血だった火球は、隕石となってハーマレー島へと降り注いだ。それで起こった惨劇を確認する暇もなく、ギルギは攻撃を加えてくる。


焦りからか、見切れていたはずの彼の攻撃を、避けきれなくなってきた。

このままでは、いずれこっちが殺される。


そうなれば、奴は今度こそハーマレー島で暴れるだろう。


(そもそも…)


あいつは何でハーマレー島に現れ、そこの権力者を殺したのだろう。

メルリ達が何か掴んだようだったが、聞けるタイミングが無かった。


「狩りの途中に、考え事すんなぁ!」


「くっ…!」


襲いくる爪を掻い潜る。

今は考え事なんてしてる場合じゃない。

まず、どうにかして眼前の敵を討つ。

それだけを考えろ、自分。


「ほらほら、もう一回やってやるぞ」


彼が再び大きく爪を振るう。

そして、大きな隙ができる。

先程誘い込まれたのと、同じ動き。けれど、自分が不利な今、なりふり構っていられない。

僕は生まれた隙に、大きく牙を立てようとして。


寸前で思いとどまった。

追撃を避けるために距離を取る。

するとギルギは、口を開けて笑った。


「そうだよな!お前は俺に、()()()()()()()()()()()()()…!」


図星だ。

僕は彼を傷つけられない。

まだ流血させてしまうと、再び血の力で島を爆撃される。


それならどうすれば良いか。

傷をつけずに、彼を倒すしかない。


(そんな方法…)


心臓を貫けば、致命は確実だろう。しかし、死ぬまでの数秒で血の力を使われる。

彼を傷つけられない。

牙も爪も、使えない。


「もうお終いか?もっと色々考えてみろよ、俺を楽しませてくれよ!獣でさえ、もっと賢く動くぞぅ!」


(どうする…っ!)


彼の戯言を無視して思考を続ける。

何か、何かあるはずだ。傷を付けずに、彼を倒す方法が。


「おい。おーい。おーい!無視かよ、萎えるぜまったく。お前ももっと楽しまなきゃ…うげっ」


必死に攻略法を模索していた僕の前で、ギルギは突如咳き込んだ。


「ゲホッゴホッ…あー『心話』を酷使しすぎた。喉いてぇ…」


『心話』と彼が呼ぶこの力は、使いすぎると喉にダメージがいくらしい。そういう欠点もあるのか。

子供の頃に封印されて、10年前まで眠っていた自分は、知らない事が多すぎる。


けれど、今はそれはいい。

彼は今、喉が痛いと言ったのだ。


()()()()

喉を絞めれば、血を出さずに倒せるかもしれない。


それ以外咄嗟に思いつかない。

これしかない。


僕は不意に動いて、思い切りギルギに自分の身体をぶつけた。

そして同時に、ギルギの喉に両腕を押し付ける。


「おっ…!?」


困惑の表情を浮かべた彼を無視して、力一杯に首を絞める。考える時間など、与えない。

彼は一瞬苦しそうな顔をし…そして再び、ニヤけた。


「そう来ると…思ったぜ」


ごぼっ。



突然響いた音。

僕の首の下、腹の辺りから響いた音。

視線を下げる。

ギルギの腕が、僕の腹を貫いていた。

途端に、彼の腕周りから大量の自分の血が溢れ出した。


「が、はっ…」


痺れるような痛みが全身に走って、悲鳴すら上げられない。口から赤い血が流れ、腕から力が抜けていく。


「俺の力を知った奴は、大抵首を狙うんだよな。()()()()()()()()()し。あと…」


心臓の音が、煩いほど大きく聞こえる。体が、四肢の方から冷たくなっていく。


「お前、目が動きすぎだ。何を狙ってんのか、丸分かりだったぞ」


死ぬのか、ここで。

旅の目的も、何も出来ないまま。


「じゃあな。まあまあ楽しい狩りだったぜ」


視界が暗くなっていく。

消えゆく意識の中で、後悔だけが頭の中に流れ出した。




いや。


まだだ。


まだ、諦めたくない。


だって彼女が。

メルリが、きっとまだ戦っているから。

自分に出来ることを、自分にしか出来ないことを、必死にしているから。


災竜は人では倒せない。

災竜を倒せるのは、災竜だけ。

なら、災竜の僕に出来ることは、決まってる。


「っああああああ!」


意識を無理やり引き寄せて、雄叫びと共に目を醒ます。

再び腕に力を込めて、ギルギの首を絞め上げた。

途端に、刺すような痛みが再び体を貫き、腹の出血が勢いを増す。


「なっ…!?」


「ぐ、うううううううっ!」


ギルギの顔が、苦しみと驚きで歪む。

腹から溢れる痛みに、意識が飛びそうになる。

それでも、ただ眼前の首を絞めることだけに、全てを注ぎ込んだ。


「こいつっ…!往生際の悪い…!このっ!死ね…!」


顔に焦りを浮かべた彼が、もう片方の腕で僕の顔を殴った。視界が白く染まって、キインと音が飛んでいくのを気合いで引き戻す。

開いた眼で彼を睨み付けて、腕に更に力を込める。

ミシミシと、彼の首が鳴った。


「…!お、まえ…」


彼の顔が、初めて恐怖で歪んだ。口から泡が出始め、瞳に涙が浮かんだ。


「がっ、あああああああーーっ!」


最大の雄叫びと共に、すべての力を両腕に流す。

途端にギルギの力が弱くなり、自分の体躯や腕力、全てが大きくなったような錯覚を受けた。


「お、前…まさ、か…王の——」



グギッ。


そんな音と共に、突然ギルギの体から力が抜けた。

見ると、首を絞めるどころか、骨ごと折れている。

苦痛に歪んだ顔のまま、ギルギの瞳には、もう光はない。それは、彼の命がもうないことを、分かりやすく表していた。


(勝った…のか…)


切れそうになる意識の中で、ぼんやりとそう思う。途端に、自分の命が更に速く、腹から流れていく気がした。


ギルギの体から力が抜け、同じく全部出し切った僕の体と一緒に、空の中を落ち出した。

真下に、ハーマレー島の空読み塔が見える。


彼の体を掴んだまま、無意識のうちに最後の力を振り絞って、翼を一度だけ羽ばたかせる。

そうして島の端の方に体を動かしてから、今度こそ体中から力を抜く。

流れ出る血と一緒に。


(メル、リ……)


闘いに勝ったという事実が、頭の中でぼんやりこだまする。

地面に落下した衝撃をほとんど感じぬまま、僕は意識を手放した。

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