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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第二章 鎮魂祭
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10、事件の犯人

「…お前さん、何言ってるんだ?」


僕とギルギさんは、森から離れ街道へと戻って来ていた。

屋台の喧騒が、今は遠く聞こえる気がする。

僕の考えを聞いたギルギさんは、僕が言ったことが、あり得ないことかのように、きょとんとしている。


「俺が見た死体は大男だったんだから、犯人はそんな奴を殺せる力持ちなんだろ?」


そして自分は細身であることを示すかのように、両腕を広げた。その間も、清らかな笑顔は変わらない。

けれど、先ほどまでと違い、明らかに口調が強くなっている。


(メルリは、こんな気持ちだったのか…)


僕が秘密を打ち明けた後、詳しい説明をするまでの間、ムロリメロ島を数日間復興していた。その間、メルリが僕をどう見ていたのか分かったような気がする。


それは怖かっただろう、恐ろしかったのだろう。

それでも、彼女は僕に手を差し伸べてくれた。一緒に行こうと、言ってくれた。


「あの死体から嗅げた肉の匂い…その匂いを、僕は覚えていました」


慎重に、確かめるように言葉を紡いでいく。今の内容だけで、ギルギさんの顔がサッと鋭くなった。


「…お前さん、一体何者なんだ?その言葉、まるで獣みたいだぞ」


明らかな警戒の声色。

僕を睨む顔が先程と別人のようで、恐ろしい。

それでも、腹をよぎる冷たさを無視して、正面から受け止める。


率直に言って、ギルギさんからかなり濃い血肉の臭いがした。

それも、第一発見者というには濃すぎるほどの。


ペミーは恐らく気が付かなかったのだろう。

ギルギさんはかなり臭いを隠そうとしていたし、そもそもメムリット族の嗅覚は人並みだ。


「っエルギオー!」


突然、メルリの声が聞こえた。

振り向くと、メルリ達が森から出てこちらへ向かってきていた。彼女達も、何か掴んだのだろう。


「…エルギオ、ねぇ」


()()()が呟く。

それだけで、僕の背筋はスッと震えた。

なんとなく、そうかもしれないと思っていたことがあった。

他の誰も彼の犯行に気付けず、それに気付けたのは自分だけ。他人と自分の違いは、ただ一つ。


「どっかで聞いたことある名前なんだよなー。どこだっけなぁ」


そして彼の今の反応で、僕の考えは確信に変わった。

息をついて、決定打になりかねないその言葉を紡いだ。


「あなたはどうして…氏族名を隠しているんですか?」


「…え?」


「…ああ、なんだ。そーゆー事かよ」


こちらに近づいて来ていたメルリ達が、困惑に動きを止める。

そしてギルギは、やはり分かってしまったようだった。


「…ああそうだ。俺は自分の氏族名を隠してたさ」


「えっ。じゃああんた、島主なのか!?」


カイの叫び声が聞こえる。

そうか、氏族名制度は、今はそうなっているんだったな。


「ちげーよ。隠す意味ももうないからいうけどな…」


氏族名制度。

今は、島主だけが氏族名を受け継いでいる。かつては、一族全員が持っていたものだった。


ならば、島主でもないのに氏族名を持っているのは。



「ギルギ・ドラメル・ボークロル。それが俺の名前だ」



遥か過去に生きた、大昔の人物その人である以外にない。


———


「ドラ…メル…」


その、氏族名は。

エルギオと、全く同じの。


「…よく、分かりませんけど」


静かになった場に、ローラさんが口を開いた。その名に驚いたのは、私だけだったようだ。

それはそうだ。私以外は、その氏族名の意味を知らないから。


「私達は調べた末、あなたが犯人だという予測を立てましたの。それを認めるなら、即刻自首してくれません?」


「…そうですね。島主でもないのに氏族名を持っているのは不自然ですが…なんであれ、殺人犯である可能性がある限り放っては置けません」


ローラさんに続いて、ヒラさんも続ける。

そして、東西の兵士たちが彼らを守るように前に出た。ここに来るまでに、念の為にと連れて来ていたのだ。

不穏な気配に気づいた周りの一般人達が、こちらを見たり野次馬に来たりし始める。


「殺しの方法は不明だが、尋問すれば出るだろう」


「おし、捕まえるぞ!」


「ペム!」


みんなに囲まれて、ギルギさんはもう逃げられない。しかし彼は、余裕そうに頭を掻いた。


「…あーあ。めんどくせぇ」


「…!メルリ!」


エルギオが、私へ振り向いた。

今まで見たことのないような、焦って引き攣った顔。


「…あ」


エルギオと同じ氏族名を持つということは、同じ一族だということ。

かつて竜の神から、竜の力をもらった一族。その一族達は、のちに災竜と呼ばれて。


「…みんな!逃げて!」


「ハッ。もうおせーよ」


その言葉を聞いた次の瞬間、私たちを巨大な衝撃が襲った。



「ぐわっ!?」

「ああっ!?」

「な、なんだ!?」


体ごと吹き飛ばされて、メチャクチャに地面を転がる。叫び声も上げれず、街道横の木々にぶち当たって止まった。


「あっ…ああっ…」


うでが、腕が痛い。

いたいいたい。


潰されるような痛みで、思考回路が止まりそうになる。飛びそうな意識を振り絞って、立ち上がる。


そして。


「…ペミー!?」


足元のところに倒れていた、私の大事なペットを見つけた。口から血が出ていて、ぐったりしている。


「ペミー!大丈夫!?ペミー!しっかり…」


なんとか動かしたはずの思考回路が、ブツンと切れた。何かしないといけないのに、頭が真っ白になって何も考えられない。


「大丈夫か!?」


不意に声が聞こえて、街道の方を見る。ダックさんが、カイを背負いがら走ってきていた。


「ダックさん!ペミーが…ペミーが…!」


「分かっている!早くハーレ機関本部へ!あそこなら医務室もあるだろう」


「あ…あああ…っ!」


こんな時でもダックさんは冷静なのに、私はただ泣き叫ぶことしかできなくて。

そこに追い打ちをかけるように、地面が大きく揺れた。


「うわあっ…」


「…これは」


街道の方から、轟音が幾度となく響いた。そして突然、森の木々が倒れ、街道の様子が露わになる。


「……」


上がった土煙の向こうのその光景に、誰も口を開けない。

一度見たことがある私たちでさえ、言葉を詰まらせる。


「災竜が…二体…?」


誰かがそう呟いた。

竜と竜が、轟音と雄叫びを上げながら闘っていた。


困惑と衝撃が、恐怖と絶望に変わるのに数秒もかからなかった。

そして、巻き起こる混乱を二体の災竜が起こす轟音が、掻き消していく。


鎮魂祭の夜は、未だ明けそうになかった。

第二章 終


次 第三章

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