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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第二章 鎮魂祭
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9、秘密の契約

星々が夜の空を駆けていく。

街道の屋台はさらに賑やかになり、大多数の人間が事件の存在すら知らないことを、鮮やかに示していた。


私たちは空読み塔を離れ、西側、ハーレ機関の領地に来ていた。

機関長のホラ・ハーマレーさんが隠しているという秘密を探りに、ハーレ機関の本部に行くためだ。


「…そう言えば、エルギオはどこ行ってんだ?」


本部に向かう途中、誰もが何気なく沈黙していた空気の中で、カイがふと呟いた。

ギルギさんを送っていった彼は、今どこにいるんだろうか。ギルギさんをどこまで送っているのだろうか。

どこかで会えればいいけど。


「着きましたわ」


その時、ローラさんの声が響いて、私は意識を目の前の建物に向けた。

大きな建物だ。

複雑な意匠が全体的にに盛り込まれていて、島の重要な施設だと言うことを示している。何より目を引くのが、何本も立てられた赤色の旗。


赤は西側、ハーレ機関を示す色だ。

逆に青は、東側、ハーマ集会を示す色。

色から見ても、この島の東西は真逆なのが分かる。


「さ、夫の部屋に案内しますわよ」


ローラさんが言う。

初めて会った時は酷く苛烈で、まるで猛獣みたいで恐ろしかった。

今は、落ち着いてるからというのもあるのかもしれないが、幾分か恐ろしくはなかった。


ローラさんの案内で、私たちは建物の中を進んだ。情報が先に着いていたようで、内部はなんとなく殺伐とした空気で満ちていた。

機関長であるホラさんの部屋は、最上階にあった。


「…なぁ、これって大丈夫なのか?」


部屋の前に立った時、カイが言った。


「何が?」


「だってこの部屋って、言わば死…人の部屋だぜ。妻さんとヒラさんはいいとして、それを関係ない俺たちが漁るって言うのは…」


「あー…」


その懸念はもっともだと思う。

そもそも、本人の了承なしに他人の部屋に入るのは、あまり良い事じゃないだろう。


「しょうがありませんよ。今は事件の捜査ですから…」


「あら、それもそうですわね」


「…ローラさん?」


ヒラさんが彼女を見据える。

空気がすんと、冷たくなった気がした。

仲が悪いのは分かるけれど、四六時中ピリついた関係でいられると、部外者のこっちが胃を痛める。

空気を悪くするようなことは、個人的にもしないでほしい。


「この部屋は、我らが機関長であり私の夫の部屋。聖女様達は関係者ではありません。ですので、部屋に入るのは言語道断ですわね」


「ローラさん。貴女は」


「ですので!」


ヒラさんの苦言を、彼女は声を大きくして押さえる。

突然の大声に、私達も驚く。


「わたくしが、許しますわ。妻である私自らが、聖女様達の部屋への立ち入りを許します」


「…!」


「ローラさん、あなたは…」


ダックさんが目を見張り、ヒラさんが表情を変える。

カイとペミーと私は、彼女の真意が分からなくて首を傾げた。

立ち入りを許さないのかと思ったが、許してくれた。どういうことなのだろうか。

そこに、ダックさんが囁き声で説明してくれた。


「ハーレ機関長の権力は、西では絶対的だ。そんな人の私室に、部外者が勝手に入ったと言う事実があっては、機関の権力に傷がつく」


「…そっか。勝手に入ったっていう前例を作らない為に、妻さんが許したってことにしたのか」


「へえ…あの人、そういうことは色々考えてるんだね…」


カイが補足して、私も分かる。

自分の夫が殺されたのに、それでもハーレ機関全体のことを考えたってことなのか。

…彼女への見方が、ちょっとだけ変わった気がする。


「…今の発言は失礼だぞ、メルリ」


「あ———ごめんなさい」


「おほん…では、鍵を開けますよ」


咳払いをして、ヒラさんが言った。

彼がもっていた鍵を差し込むと、スルッと扉が開く。本当に合鍵だったのか。


扉を開けると、思っていたより小さな部屋が視界に広がる。ベットに椅子に机と、最低限のものだけが揃っている。

機関長の部屋っていう割には、意外と質素だ。


「それで、どこから探しますの。夫の秘密とやらは?」


「普通、物を隠すっつーたら机かベットの下じゃねぇの?」


「机は分かるけど…ベットの下じゃ見つかりやすくない?」


「み、見つかりやすく無い!全然、見つからないから!」


個人的な意見を言っただけだったのに、カイから予想以上の悲鳴が響いた。

見ると、他の男性陣もなんか微妙な顔をしていた。ローラさんも、そっぽを向いている。


「……じゃ、じゃあまず、机の中から探そう!」


微妙になった空気を払って言う。

よく分からないけど、ベットの下からは何も出ませんように…!


———


ホラさんが隠していたものは、幸いにも机の引き出しから出てきてくれた。

出てきたのは、一枚の紙。表面がザラザラしていて高級感があり、紙一面に文字が走っている。


「これは…」


「…契約書、ですわね」


ヒラさんとローラさんが紙を覗き込み、同時に言った。

私達も二人の後ろから覗き込む。紙の最上部に大きく契約書と書かれていた。


「…これが、ホラ・ハーマレーさんの隠し事なのか?」


私たちの疑問を、ダックさんが代弁してくれた。


「ハーレ機関長では機関長である夫の命令は絶対ですわ。そんな夫が秘密で契約を交わすなんて、考えられませんわ」


「私も、ホラが誰かと契約した、なんて話は聞いたことがありませんね」


二人がそれぞれの立場から答えてくれる。彼らの言葉なら本当なんだろう。


「それより、この契約内容…」


ヒラさんの顔が厳しくなる。

視線を下ろして、紙の中程に書かれた契約内容に目を通す。

私は、そこに書かれた内容に思考が止まった。


『貴方様は、今後この島をあらゆる災いからお守り下さいませ。その代わり、月に一度そちらに一人、餌を送りましょう。』


静かな衝撃が、場の全員を貫く。


「なに…これ」


「ホラ・ハーマレーさんは、契約相手にこの島を守らせた…?」


「んで、その代わりに餌を送った…餌って?」


「…一人、と書いてありますね。まさか……」


「そんな…ありえませんわ!」


紙面の内容を各々が噛み砕く。そこから導き出された答え(予想)に、ローラさんが叫んだ。


つまりはこういうことだ。

ホラさんは、誰かにハーマレー島を守らせていて、引き換えに生贄を差し出していた。しかも月に一度。


島主として、島の安全が大事なのは分かる。でも、その為に人を犠牲にするなんてちょっとやり過ぎだ。

信じられない。


「……待て!ここを見ろ!」


不意にダックさんが叫んだ。

彼が叫ぶなんて考えられなくて、私とカイとペミー、ローラさんとヒラさんまで驚いて視線を動かす。


ダックさんが示したのは、契約書の下の方。そこには、契約した二人の人物の名前が書いてあった。

一人はホラ・ハーマレーその人の名前。

そしてもう一つは。


「…これが、事件に関係あるか分からない。しかしこれは…」


そこに書かれた名は、私たちが知っている名前だった。

この名の人物が、事件の犯人なのかは分からない。それでも、関係がないわけないだろう。


「話を聞きに行こう!()()()()()()()()()()()()()()()()()()


私達は急いで、部屋から出た。


(…なんだか)


胸騒ぎがする。

嫌な予感がする。

心の中が、突然雲に覆われたようだった。


(エルギオ…無事でいて…!)


———


塔を出て、街道を渡り、西の森へと入っていく。ギルギさんが、一緒に来ているという友人と会うためだ。

彼は、この森のどこかに友人がいると言っていた。

しかし僕は、そんなことは信じていなかった。

だって。


「いつまで、続けるんですか?」


不意に止まって、前を歩く彼に問いかける。


「続けるって、何を?」


ギルギさんが止まって、こちらを振り返る。

先程までと変わらぬ、どう見ても一般人のような姿。

それに、恐ろしいものを感じる。

僕は、一息吸って確信にも近いその考えを言った。


「あなたですよね?ホラさんを、殺したのは」





契約書に書かれていたもう一つの名前は、ギルギ・ボークロル。


私がお祭りの途中でぶつかった人であり、この事件の第一発見者だったはずの人だった。

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