8、事件捜査 2
「じゃあ、俺はこれで」
証言を終えたギルギさんは、役目を終えたとダックさんが判断したため、解放された。
「貴重な証言、ありがとうございました」
「いえいえ。犯人、しっかり捕まえて下さいね」
「はい!」
カイと私の声が重なる。
捜査は行き詰まってしまったが、きっとまだやれる事があるはずだ。
諦めるのは、まだ早い。
「じゃあ、僕がギルギさんを送るね」
「そうか、頼むぞエルギオ」
名乗り出たエルギオにギルギさんを任せて、私たちは塔の階段を再び上り始めた。
もうすぐ上の階に見える部屋。そこにいるはずのヒラさん達に、とりあえずの現状を報告するためだ。
「…考えれば考えるほど、無理だよなぁ」
カイが呟く。
犯人はどうやってホラさんを殺したのか。
ダックさんが言うには、彼が肩から斜めに切り裂かれたのは、彼が四肢を曲げて逃げれなくされた後だと言う。
つまり犯人は、大男らしいホラさんの四肢を曲げられる程の腕力を持っていることになる。
しかも、殺しに使った時間はギルギさんが駆けつけるまでの数十秒足らず。何か道具を使ったのかもしれないけど、どんな武器道具を使ったのか見当もつかない。
「意外と、第一発見者が犯人とか?」
「…ギルギさんを疑うってこと?」
カイが突拍子もないことを言う。
「も、もしもだよもしも!」
「…ギルギさんって結構細身だったでしょ?ホラさんの四肢を曲げられると思う?」
「それに、体を切り裂いたのに使ったはずの武器類も、彼は持っていなかった」
「メェム…」
「も、もしもだってばぁ!」
ペミーも含めた私達に詰められて、カイが叫んだ。
余りにも突拍子すぎたものだったから、しょうがないだろう。
その時だった。上の方、私達が向かっていた部屋から怒号が聞こえた。
驚いて上を見る。
なんだろう、ヒラさんの声じゃない。と言うか、女の人の声だ。
私たちは顔を見合わせて、急いで上の部屋へと向かった。
部屋に入ると、さっきは見なかった女の人が、ヒラさんに詰め寄っていた。ボンドさんとクニットさんのお付き二人が、怒るその女の人をなんとか抑えている。
その人は真紅の髪を縦に纏め、豪華な宝石を模った服を着ている。
そして瞳の色も、燃えるような赤。
「ちょっと、どうしたんですか!?」
考えるより先に体が動いた。走って部屋の中に入って、女の人をヒラさんから引き剥がす。
またやってしまった。
考えなしに動いてしまった。
この性分、いい加減にどうにかしないといけないだろう。
「あ、あなた何!?誰よ!」
「私はメルリです!メルリ・ルアーナです!」
怒ってるような名乗りだ。
頭に血が上りすぎだと自分でも分かっているけど、止められない。
「…ああ、聖女様なのね。だったら話は早いわ。早くこのクソ野郎を裁いて頂戴!」
「ク、クソ野郎!?」
ヒラさんをクソ野郎呼ばわりとは、一体何事か。
その人は、私達の旅のために、色々してくれた人なのだ。意味もなく罵倒されるのは、気分が悪い。
「メルリ落ち着け。まず、貴女は誰なんですか?」
ダックさんが、後ろからフォローしてくれる。
それで私も頭を冷やす。感情的になりすぎるな、冷静になれ私。
ダックさんに聞かれた女の人は、フンと私たちをじっくり見てから、不満そうに自己紹介をした。
眼光が鋭くて、ちょっと怖い。
「わたくし、ローラ・ハーマレーと申しますわ。ハーレ機関機関長、ホラ・ハーマレーの妻ですの」
機関長っていう部分と妻っていう部分を、強調して言った。
ホラさんの奥さんなら怒るのもわかるけど、いくらなんでもヒラさんに詰め寄らなくてもいいはずだ。
「これでもういいでしょう?さ、早くこのクソ野郎を…」
「待って下さい。なぜヒラさんを…?」
私の疑問を、ダックさんが代わりに聞く。
珍しく、困惑していて余裕がないのが分かる。
「何故も何もないでしょう!夫は東の森で殺されたのよ!東の連中が原因に決まっているわ!責任を取って、このクソ野郎を裁くべきだわ!」
女の人が、ローラさんが捲し立てる。
それは流石に論理が飛びすぎている。
確かにホラさんが殺されたのは東の森だけど、まだ東の人が殺したと決まったわけじゃない。
そう彼女を説得しようとしたけど、まるで大雨みたいに果てなく暴言を吐き続ける彼女に、私たちは入り込めなかった。
「そもそも、東の奴らは気に食わないのよ!何でもかんでも多数決で決めて…そんな悠長にしている内に、みんな死んでしまうのに!」
「お言葉ですが、ローラさん」
誰も割り込めなかった大雨に飛び込んだのは、ヒラさんだった。
私達に事件を任せてくれた時の、優しい顔じゃなくて、いっそ怖いくらい真剣な顔だ。
「だからこそ私たちは、皆で意見を出し合い、一歩ずつ進んでいく必要があるのです」
「それが悠長だって言ってんのよ!」
「悠長だとしても!最善の道を探ることが大事なのです!」
「災竜は待ってくれないわ!そんな時間なんて無いわよ!」
「二人とも、落ち着いてください!!」
ダックさんが、ついに声を張り上げた。
私とカイとペミーは、それにすら混ざれずに、ただ呆然とするだけ。
自分を責める。
さっきの威勢は、どこに行ったんだ。押されっぱなしじゃないか。
「…どちらも、正しい意見です。しかし、今はそれは関係ありません。事件の解決が最優先です」
ダックさんの言葉で自責をやめる。
二人の考えも気になるけれど、事件の方が優先だからだ。
「…そうですね。私としたことが、優先順位を間違えました」
「…だから、事件は東の奴らの…」
「せい、とはまだ限りません。メルリ」
「えっ、あっ、はい!」
突然名前を呼ばれて驚いたが、ダックさんの方を見て思い出した。私たちは、報告に来たんだと。
そして、私たちの報告を聞けば、ローラさんの考えは違うことに気づけると。
「えっと、報告です——」
———
数分後、私達の報告を聞いた部屋は、さっきよりかは幾分、冷静さを取り戻していた。
因みに、私が上手く伝えられなかったところは、ダックさんとカイが手伝ってくれた。
「…つまり、不可能犯罪ということですか…」
「そのギルギってやつはなんなんですの?」
「少なくとも、ハーマ集会の手のものではありませんよ」
「…チッ」
聞こえるほどの大きな舌打ちに、私とカイはブルっと身震いした。
少し、いやかなり怖い。
何となく実感が湧いていなかったけれど、この島の東西は本当に仲良くないのだ。
「…じゃあ、結局犯人は何者なのよ?」
「……」
ローラさんの問いかけに、部屋が静まる。
現状を確認したところで、結局また行き詰まった。
「…やはり、直接行って確かめるしか、ありませんね」
「え?」
静かになった部屋に、ヒラさんの声が響いた。
行くってどこへ?確かめるって何を?そんな疑問の視線が、彼に集まる。
「ああいや、ホラの部屋に行こうと思いまして」
「は?夫の部屋に?あなたが直接?」
「はい、合鍵も持ってますので」
「いや、何で持ってんだよ」
カイの疑問ももっともだ。
東西って仲悪いんじゃないのか?
何で一方のボスが、もう一方のボスの部屋の合鍵持ってるんだ?
「…まさか」
ダックさんが何かに思い当たる。
「…今代のハーマレーの二大島主には、ある噂が流れていたと聞く。もしやそれが…」
「え、それってもしかして?」
カイも何か思い当たる。
私はこういう時鈍いので、覚えている限り二大島主のことを思い出してみる。
ハーマレー島は代々二人の島主がいる。
どうやって選んでいるのかは分からないけど、どの代も優秀だったという。
そして今代の二大島主。
特にこれといった業績はなかったと思うが。強いて言えば、今までの島主達よりいがみ合うことが少なくて、色んな噂が立っていたことぐらいか。
例えば、友人だとか恋人同士だとか。
家族、だとか。
「…え?もしかして…」
私も、思い当たる。
合鍵を持っているってことは。
ヒラさんが、ニコッと笑い、そして言った。
「はい。私ヒラと、ホラは兄弟です。わたしが兄で、ホラは私の弟ですね」
「は……?」
ローラさんが固まる。
無理もない。私たちだって衝撃をうける事実なのだから。
というか、ローラさんはそれを知らなかったのか。妻なのに。
「…ああ、だから氏族名が無かったのですね。元々直系だったから」
「鋭いですね。そうですよ、私とホラの父は、元島主でした」
ダックさんが納得して、それで私達も理解できた。
普通、島主になったら名前と苗字の間に入れる氏族名。
エルギオ曰く、昔は島民全員につけていたらしいが、今はもう島主にしか残っていない。
そして、直系島主の家系では氏族名をそのまま苗字にする。
二人ともハーマレーを、氏族名じゃなくて苗字にしてるってことは、島主の直系で同じ家族ってことになる。
と、いうことだ。
「…おほん。話を戻しますよ。直接確かめると言うのはですね、実は気になっていたことがありまして」
私達が衝撃を飲み込むのを待たずに、ヒラさんは続ける。
「恐らくですけどホラは、私や妻の貴女にも、隠していたことがあると思うのです」




