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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第二章 鎮魂祭
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5、世界の希望の少女

まず、聖女とはそもそも何なのか。ケンヤさんはその事から説明を始めた。


彼曰く、古い文献にかつて世界が未曾有の大災害に見舞われた際に、人々を導いた少女がいたという。

神の印というものが描かれた旗を持った彼女は、女とは思えぬ大胆さで犠牲者を最小に抑えた。

人々はそれを讃え、彼女に聖女の名を付けたという。

それ以降、人々を災害から救う少女、というのが聖女の定義とされた。 


「ああ、だから聖女」


「そ、災害とされる災竜から人々を救う。だからメルリちゃんは聖女とされたんだ」


ケンヤさんが、人だかりの方を見る。

僕も釣られて、そっちを見た。


「あの子は、世界の希望なんだよ。まだあんなに若いのに」


人々に囲まれて、笑う彼女。大人からも子供からも声をかけられ、それに真摯に返す彼女。

彼女が人々にとって希望であることが、否応なく思い知らされる。


「俺なんか、もう二十四だぜ?あの子より五つ以上年上だ。なのにあの子、俺より逞しいかも」


ケンヤさんが、自分の歳を自虐して雑談を続ける。

そんな中、僕は違うことを考えていた。


世界を災竜から救うことを求められた少女。

そんな、彼女の横に。


(災竜の、僕が…)


彼女が倒すべき災いが、居てもいいのだろうか。


「…ん?エルギオ?」


「ああいや、何でもないです。ただちょっと…重い使命、だなと」


母が自分に課した願い(呪い)を思い出す。

思えばメルリと自分は、使命を与えられたもの同士なのだろう。


「そんなに重く考えなくても良いんじゃないか?みんな、藁にもすがる想いなんだ」


「それは、信じてないってことですか…?」


世界一つを、たった一人の少女に背負わせる。

それを、今更誰も責めない。きっと、それしかなかったんだろう。


けど、それすらしっかり信じていないのか。

藁は文字通り、藁だと言うのか。


「だって、普通そうだろ?たった一人の女の子が、災竜を倒せると思うか?」


その言葉に頷いた。

それはそうだ。当たり前のことだ。

僕ら災竜は、とても大きな力を持っている。人間一人では、太刀打ちすらできない。

メルリぐらいであれば、僕の腕の一振りでも。



いとも、




容易く。





「うっぷっ…」


「ちょ、急に大丈夫か!?」


突然逆流した胃の中身を、手で押さえて立ち上がる。


「だ、大丈夫…です。ちょっと、気分が悪いだけ…です。ケンヤさんは、お祭りを楽しんで…」


口を押さえながら俯いて言う。


「いやいや、全然大丈夫そうじゃ…」


「いい、から!」


叫ぶように声を上げて顔を上げる。

そして僕は、そのまま森の中へ走り出した。

今、この場から、離れたかった。


———


(今のは…)


一人残されたケンヤ・ホープは、エルギオが走って行った森の方を、呆然と見つめていた。


(今の、は…)


直前の、彼の血走ったような瞳。

あれはそう、まるで獣のような。


知らず、身を抱える。

身体中に走ったのは、他でもない恐怖。

獲物が狩人を前にした時の、本能的な恐怖。


「エルギオ…お前は…」


彼と過ごした時間は、ほんの数ヶ月ほどだ。

その間にも、今のような恐怖を感じたことなどなかった。


「お前は…」


恐怖を感じてもなお、彼はエルギオを慮る。

去り際の彼が、苦しそうに見えたから。


———


走る、どこまでも走る。街道に並んだ出店の光が、小さく遠ざかっていく。

その光が、米粒のように小さくなった所で、僕はようやく足を止めた。


「はぁ…はぁ…おえっ」


息つく暇なく、胃の中を吐き出す。ビシャっと、地面に胃液が溢れた。

気分が悪くなると、こうやって胃液が逆流する。そういう内臓の仕組みは、人間のそれと同じなのに。


「…あっ…」


再び口を押さえる。

怖かった。

メルリを⬛︎すことを考えた自分が。

その考えを、何の躊躇いもなく出した自分が。


(災竜(ぼくら)は…ヒトとは違う…)


その言葉が、呪文のように頭の中で反芻する。

まるで、自分が目を逸らしてきたことを突きつけるように。

母の言った罪の意味合いが、酷く重くなる。


そして。



(……離れよう)


他人事のように、そんな考えが生まれた。

メルリの元を、離れよう。

自分は、彼女といちゃダメだ。


いつか彼女を傷つける。

それだけじゃない。

彼女の聖女という肩書きに、泥を塗る。災竜を倒す聖女が災竜と共にいるなど、あってはならないと。


ふと、再会した時に、抱きつかれて泣かれたことを思い出した。

僕が消えたら、彼女はどう思うだろう。血眼になって、僕を探すんだろうか。

それはそれで、何だか嬉しいと思った。



突き動かされるように、気持ちが冴えていく。

一つ深呼吸をして、立ち上がる。

来た道をのろのろと歩いて戻る。

街道の端に、ケンヤさんはもう居ないかった。


相変わらず、メルリの周りに人集りが出来ているのが見える。その中の彼女は、人々の笑顔に囲まれて笑っていた。


(この、祭りが終わったら…)


ケンヤさんたちと行こう。

もう二度と彼女と関わらないで、竜の力も使わないで。



小さな、とても小さな決意。

それすら無駄になることを、この時の僕はまだ知らなかった。

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