表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第二章 鎮魂祭
17/167

4、のこされた墓標

「え、俺のこと?」


太陽が、世界の裏側へその半身を入れ込み、空が赤く染まる。

夜が近づいてきている。

舞台の催しがひと段落し、街道の出店が開き始めた。祭りの本番が近づき、浮き足立つ空気の中で、僕はカイに彼自身のことを聞いた。

人のいない、街道の端で。


「うん。ダックさと話してて知ったんだけど、君はメルリと同じで孤児だ、と」


「…ケッ。何話してんだよアイツ」


彼の気分がみるみる悪くなったのが、分かった。

ダックさんの過去を有耶無耶にするつもりだったのだが、逆効果だった。


「ああいや、直接聞いたわけじゃ」


「どっちでも良いよ。で?俺のことね」


訂正しようとした僕を止めて、カイは話題を切り替える。

あまりダックさん関係のことは話したくないらしい。彼の願いを聞いた後だと、少し複雑だ。

そうして、カイは自分のことを話し始めた。


———


えっと、俺についてはどれくらい言ったっけ?


あ、カイって名前だけ?

いやそれ名前じゃなくて愛称というか。


まあ良いや。

じゃあまずは俺の本名からね。


俺の本名は、カイルス・フェキシフト。


聞いたことねぇ苗字だろ?

え?知ってる?マジで?


お前って意外と物知りなんだな。


と、フェキシフトっつう苗字ね。

苗字を知ってるならこれも知ってるだろ?


『フェキシフト島の悲劇』ってやつ。


世界に誇る軍事島だったフェキシフト島。

それが、災竜によって一夜で滅んだっていう。


俺、そん時の生き残りなんだ。


———


僕は呆然としていた。

フェキシフト島の悲劇。聞いたことがあるも何も、調べたことがある事件だ。

なぜなら、ムロリメロ島のことを除けば、災竜関係における直近の事件だったからだ。


起こったのは、たった二年前。

その時、フェキシフト島は多くの兵士と、高い破壊力を持つ兵器をいくつも持っていたという。世界最強の島だと自負し、災竜対策を怠らなかったらしい。


そう、それが、災竜一体によって一夜で滅ぼされた。

世界最強の島でさえ、災竜一体にも及ばなかった。その時から、災竜への恐怖はより強まったと聞く。


そして、島の名をそのまま苗字として使うということは。


「君は…島主の家系の子だったのか」


「ま、そういうことだな」


彼は、メルリより二つ下という歳にしては有事に落ち着いていた。

それは、ダックさんの教育かと思っていたが、どうやら島主としての教育の賜物でもあるのだろう。


明るい彼のことだ。親を含めた家族や、島民からも好かれていたのではないだろうか。


「じゃあ、君の旅の目的は…」


ならば、それら全てを奪った災竜は。

それら全てを奪われた彼は。


「うん。災竜への復讐」


淡々とした声で軽く言ったのに、彼の目は笑っていなかった。

腹の底が、スンと冷えた気がした。


「…災竜はさ、俺から全てを奪ったんだ。大好きだった家族も、大事な島民も」


人当たりの良かった今までの彼とは違う。もっと深く黒く、グチャグチャでドロドロとした…。


「父様も母様もゾルガも、レナもガルアもモモも、あいつは全部奪っていった」


「……」


彼は語る。

いつも通りの声で。底に暗さを秘めた声で。

僕の知らない名を。彼の全てだった名を。


「俺は災竜を許さない。何もかもを奪っていったアイツを許さない」


いつか。

こうゆう感情を持つ人に会うと思っていた。

いや、こんな世界だ。恐らく誰もが持っていてもおかしくない感情だ。

きっとメルリだって、持っていない筈がない。


「必ず見つけて…殺してやると、決めたんだ」


災竜への、明確な恨み。そして殺意。

足の先から、感覚が無くなっていくような気がした。腹の冷たさが、胃まで登ってきた気がして、ブルっと震えた。


「あっすまん。ちょっとビビらせちゃったか?」


そんな僕の様子に気づいて、カイは態度を直す。

末恐ろしくなるような彼から、いつもの明るい彼へ。


暗い洞窟の中から、突然日差し溢れる畑に放り出されたような、気持ち悪さすら感じる落差だった。

さっきまでが、別人のようだ。


「カイ…君以外に、フェキシフトの島民は…」


「もういない。俺が最後の生き残りだ」


いつか、メルリが言っていたことを思い出す。


『カイったら、出会った次の瞬間に、告白して来たのよ』

『俺と結婚すれば、フェキシフトの全てが手に入るのだぞって』


その言葉は嘘ではなかった。

当たり前だ。

もう彼以外、フェキシフトの関係者は居ないのだから。


「…言ってくれて、ありがとう。旅、頑張らないとね」


一生懸命絞り出した声は、隠しようもなく震えている気がした。


「おう!頑張ろうな!」


カイが笑う。

それに、上手く返せたかどうかも分からぬほど、腹の底から吐き出したい気分だった。



その後、そこでカイと別れた。出店を見て回るらしい。

手を振り嬉々として去っていく彼に、僕は嘘の笑顔を見せることしかできなかった。

カイと別れた後、僕はその場に座り込んだ。腹の底の冷たさが、消えてくれない。


「罪、か…」


虚空を見上げながら、ポツリと呟く。

眠る直前、母が僕に言った事だ。

一族の罪を祓ってほしい。

その願いが、自分にはとても苦しいものだと、今更に気づく。


「どうしよう…」


どうしようもなくて呟く。

彼に、カイに僕の秘密は教えられない。災竜を明確に恨んでいる彼に教えたらどうなるか、考えるのさえ恐ろしかった。


「どうしよう、メルリ…」


この場にいない彼女へ問いかける。

そういえば、彼女は今何処で祭りを楽しんでいるのだろう。


「おーい、エルギオ大丈夫か?」


「わっ!?」


突然声をかけられて、柄にもなく叫んでしまった。


「ケ、ケンヤさん!」


「なんだ?驚かせちまったか?」


「あ、いや…」


かつて自分が世話になった彼がいた。

わざわざ探してきてくれたのだろうか。


「祭り、参加しなくて良いのか?」


「あー…僕は、こういう空気は苦手で」


「そうかもしれないけどよ。楽しめる時に楽しんどかないと、損だぜ?」


その言葉で思い出す。

メルリもそうやって、この祭りに参加してるはずだ。


「メルリは…何処にいるか、分かりますか?」


「メルリ?あーっと…あそこだな。ほら、舞台の横の」


そう言いながら、ケンヤさんは舞台の右横にできた人集りを指した。


「いつ間に人があんなに…」


「ま、メルリは聖女だからな」


その言葉に引っ掛かりを覚える。


「聖女だから…?」


覚えば自分は、聖女やら予言やらということを何も知らない。

それは即ち、メルリのことを知らないということだ。


「あーそっか。エルギオはしらないのか」


じゃあ説明しないとな、と咳払いをごほんとして、ケンヤさんは話し始める。

僕の知らなかった、メルリのことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ