2、鎮魂祭開催
「あれ、もしかしてエルギオじゃねーか?」
重い沈黙を破ったのは、私達の誰でもない声だった。
声の方を向くと、みたことない三人組が目に入る。
黒い短髪に青色の鎧を着た好青年と、栗色の長髪にピンクのローブを着た女性。それと、白髪に緑のゆったりとした服を着た老人。
なんだろう、とても既視感のあるような見た目だと思った。完全に勘違いではあるのだけれど。
「ケンヤさん!エラさん!ムーロさん!」
「やっぱりエルギオじゃん!元気してたか?」
「ちゃんと食べてるわね。えらいえらい」
「…ふむ」
その三人がエルギオと仲良さげに話しているのをみて、彼に聞く。
「こ、この人たちは…?」
「ちょっと前まで一緒にいて、色々とお世話になったんだ。いい人達だよ」
「あら、はじめまして。あなた達が今のエルギオの仲間なのね」
女の人が言う。
私たちは、さっきの重い空気を払うように、名前や事情を話し合った。
男の人は、ケンヤ・ホープ。女の人は、エラ・メイズ。老人は、ムーロ・ホージィと言った。
彼らは、とある事情で旅をしているらしかった。数年前にエルギオと出会い、つい最近まで行動を共にしていたという。
エルギオの言った通り、彼らはいい人達だった。
私達の旅の目的を言ったら、びっくりしていたけど、応援してくれた。
「じゃあ、あんたがウワサの聖女様ってとこか。じゃあこの島には、お告げをもらいに?」
「はい。ここの空読み様が、一番正確だと聞いたので」
「…?」
私の受け答えに、エルギオが疑問を示した。
そういえば、エルギオには言っていなかった。私たちの旅の、具体的な目的を。
「じゃが、もうすぐ鎮魂祭じゃろう?」
「あら、そう言えばそうね。」
「じゃ、祭りが終わるまでは無理だな」
その時、自己紹介以降静かだったカイが、いつも通りの笑顔で話した。もう大丈夫なのだろうか。
「せっかくの祭りだ。羽を伸ばすのも、いいだろう」
「はしゃぐなっつってたのは、誰だよ…」
「……」
ダックさんの言葉に、ぼそっとカイが言い返した。途端に再び、二人の間を微妙な空気が占拠する。
やはりまだ大丈夫ではないらしい。
「あ、あの、一つ聞いてもいい?」
重くなりかけた所に、エルギオが口を開いた。
「ち、鎮魂祭って、何?」
どこまでも彼を置いてけぼりにしてしまった事を、少しだけ反省した。
———
私たちは、島の内陸の方へ向かっていた。途中で会ったケンヤさん、エラさん、ムーロさんも一緒だ。
鎮魂祭。
ハーマレー島で行われる、年に一度の大きなお祭りだ。
その名の通り、祭りの本懐は死者の鎮魂だ。
空読み様という偉い人が、この一年で死んだ人たちの魂を、儀式をして鎮め、死後の世へと送り届けるのだという。
それが終われば、好きに楽しんでいい。
たくさん出る出店で食事をするも良し。飛び入りオーケーの舞台で、舞やら演劇やらを見るも良し。
とにかく楽しめばいい。むしろそちらが本番だ。
鎮魂の祭りなのに、楽しむのが本番な理由は、ごく簡単だ。
鎮魂の儀をしても現世に残る魂に、みんなが楽しんでいる様子を見せる為だ。それで、安心して死後の世に行ってもらうということだ。
そんな訳だから、毎年この時期には多くの人がハーマレー島を訪れる。文字通り、世界中から。
そんな説明をエルギオにしながら森を抜けると、街道に出た。
「ここが、マレー街道か…」
「いつ来ても、この景色は圧巻だな」
エルギオとケンヤさんの感想が飛ぶ。
ハーマレー島は、マレー街道と呼ばれる広い道が、島を東西に二分するように伸びている。
島自体がかなり広い為、マレー街道の広さもとんでもない。ざっと見て、家が二つ三つ立ちそうなほどだ。
そして、街道に合わせて、普段の島の統治も東西で分かれている。
東が、完全な多数決で物事を決める、ハーマ集会。
西が、東と正反対に頭首の決定は絶対の、ハーレ機関。
色々といざこざはあるみたいだけど、鎮魂祭の時は協力しているらしい。
「夜になると、ここに沢山出店が並ぶんだぜ!」
「うわー、みてみたいな!」
カイがエルギオに、祭りや説明を意気揚々としている。カイも、来るのは初めてだったような気がするけど。
「それじゃあ、あの塔は何?」
エルギオが聞いた。
彼が指さしたのは、街道の中心にそびえ立つ、高い塔。
「ああ、ありゃ」
「ハーマレーの空読み塔だな」
「ちょ、ケンヤさん!俺が言おうと…」
「空読み塔?」
エルギオの疑問の視線が、私に向いた。
カイとケンヤさんがちょっと残念そうな顔をしたけど、それを無視して答える。エルギオが疑問を呈するのに選んだのは、私だという事だ。
「空読み様っていう、とても偉い人が空を読んでいる所だよ。空を読んで、予言をするの」
「予言?」
「そう。私達の旅にも、重要なものなんだよ」
エルギオに説明を始める。そもそも、私たちの旅はどのようなものなのか。
いまから二年前。
空読み様の予言は、世界を揺るがした。
『間も無く、災いの竜を滅ぼす聖女が、東の島より現れるだろう。』
災竜を滅ぼす聖女。
それは、暗い世界に降って湧いた、とんでもない希望だった。
「え、もしかしてその聖女って…」
「そう!メルリのことだぜ!」
カイが自慢げに私を指さした。
恥ずかしいから、あまりそういうことはしないでほしい。
そもそも、あまりそれを信じていない人もいるらしいのだから、誇らしげに言うことでもない。
「おほん…」
恥ずかしさを咳払いで隠して、説明を続ける。
今から二ヶ月前、空読み様は新しい予言をした。
『竜を滅ぼす聖女は、ネイケシア島より現れるだろう。』
聖女は十代後半だとされた。
その時ネイケシア島には、十代の少女なんて数えるほどしかいなかったし、そこから一ヶ月で、私は聖女だとされていた。
災竜を倒すのは元々の夢だったし、私は嬉しかった。他の人は、あまりいい顔はしなかったけれど。
「まあそんなわけで、私は空読み様に会って、次の予言を貰わなきゃいけないってこと」
「だからこの島に向かってたんだな」
エルギオは納得したようだ。
と、その時、広い範囲に広話が流れた。
『これより、第八十九回鎮魂祭を開催いたします!皆様、ぜひ楽しんでください!』
同時に、沢山の人だかり見えてきた。
もう催し物は始まってるらしい。
「ほら、行こ!みんな!」
「ペムー!」
そう言って走り出す。
多分、私の旅が楽しいだけなのはここまでだろう。これから、いよいよ本格的に旅の目的に近づくのだから。
だから、せめて今だけでも楽しみたい。
———
(エルギオ視点)
彼女が、メルリが走っていく。
身体中から、楽しみたいという気持ちを滲み出しながら。
「あ、待てよメルリ!」
「ペームー!」
そう言って、カイとペミーも彼女の後に続いた。
「じゃあ、俺らも一緒に楽しむか!」
「そうね!」
「息抜きは大事じゃ」
ケンヤさんたちも、顔を見合わせて歩き出した。
僕も歩き出そうとした所で、ダックさんの様子に気づいた。
少し俯いて、じっと地面を見つめている。無表情で、何を考えているのか分からない。
けれど。
「…ダック、さん?」
「…どうした、エルギオ」
今までと変わらず、冷静な声と無表情な顔。
けれども、その中に。
「あの…大丈夫ですか?」
そんなに長くいた間柄じゃないが、なんとなく辛そうに思えた。
さっきのカイとの、微妙な空気のことが原因だろう。
「俺は年長者だ。そうでなくとも、大丈夫と言わねばならん」
「そ、そんな訳は…」
その言葉は、大丈夫ではないことを隠していることを明らかにした。
「すまないが、意地だ。通させてくれ」
「……」
その言葉で、彼は意外と不器用なのかと思った。
そして同時に僕に、彼への興味が湧いた。
僕も彼と同じように、冷静に振る舞っていた過去があったからかもしれない。
「…あの、良かったらでいいんですけど」
「なんだ?」
これから旅する仲間だ。
知っておいても、良いはずだ。
「聞かせてくれませんか?あなたのことを」
「……」
表情から感情を読み取れないが、驚いているのだろうか。
メルリの言ってた通りだが、本当に分かりづらいな。
少しの沈黙の後、彼はふと歩き出した。
「歩きながらで、いいか?」
「…!はい、問題ないです」
歩いて彼の横に並ぶ。
少しの沈黙の後、彼は少しずつ、自分のことを語り出した。
僕の知らない、彼の過去を。




