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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第二章 鎮魂祭
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1、世界最大の島

「それで、どうするの?」


朝早く、私はエルギオを空船(くうせん)の自分の部屋に呼んで、二人で頭を突き合わせて会議をしていた。

内容は、エルギオのことをどうするか。具体的に言うなら、彼の秘密を明かすかどうかということについてだ


「要らない困惑を招きそうだし、僕は言わない方がいいと思うけど」


僕だってこの十年はそうしてきたし、と彼は続ける。

それはそうなのだけど。


「でも、私達の旅の目的も災竜じゃん。絶対、いつか言わないといけない時が来るよ」


「それもそうだね…うーん、どうするか」


世界を脅かす災竜を倒すと言う私たちの旅に、エルギオが加わった。しかし彼は、現在災竜と呼ばれる大昔の一族の末裔だった。

そして彼自身も竜の力を使える災竜なのだ。


しかし、複雑な事情から彼は私たちと目的を同じにしている。だから、彼の秘密をみんなに話しても問題はないとは思う。

けれども、()()()()()もあった。


二人で色々考えてみたが、いい考えはついぞ浮かばなかった。


「…まあ、話すのはおいおいでいい、と思う」


そうやって思考を打ち切る。

少なくとも、秘密の開示は今すぐはやめた方がいい。その意見は一致したので、話すのは機を見て、と決まった。


「…そう言えば、この空船(くうせん)ってどうやって浮いてるんだろう」


話が終わった後、そうやってエルギオは切り出した。


「え、知らないの?」


「どこでも一般常識らしくて、今まで聞けたことがなかったんだ」


そう言う彼の理論に納得する。

確かに、空船が浮かぶ理屈は誰でも知っている。そんな当たり前のことを聞いたら、怪しまれてしまう。

無駄な混乱は避けたい彼にとって、知らない常識を聞く事は出来なかったのだろう。


「えっとね…『祝福』って分かる?」


どこから説明して良いか分からなくて、エルギオに最序盤の確認をする。

これぐらいは知っていてほしい。


「ああ、それは分かるよ。確か、只人が出来ない特別な技、だったよね?」


「…まあ、生きてく分にはその解釈で合ってる」


恐らく彼も、初めは『祝福』の存在自体知らなかったのだろう。

それを、十年間旅をしていく中で、自然に知っていったのだろう。


「学舎で習う定義では、もうちょっと違うの。えっと確か…神様が無作為に人に与えるもの、だったかな」


ネイケシア島の学舎で、学んでいた時のことを思い出す。あの時は未来の何もかも、ぼんやりとしか考えていなかった。

興味深そうに話を聞くエルギオに、説明を続ける。


「それで、『祝福』は本来人にしか刻まれないんだけど、例外的に人以外のものにも刻むことができるの」


「人、以外のもの…?」


「そう、浮遊石って言われる、南の方の島で取れる石にね」


なんと言う島だったかあまり思い出せない。確かケイ…とかなんとかだった様な気がする。

まあ、今は思い出せなくても良いか。


「じゃあ、その浮遊石と言うのが…」


「そう。それが空船の動力源なの。船員達も基本全員『浮遊の祝福』持ちで、浮遊石を制御しているの」


話の流れから先を察したエルギオに、正解だと答える。同時に、浮遊石に刻まれた『祝福』の名称も伝えた。

浮遊石の出力の、量や方向を制御することで、飛びたい方向に飛べると言うわけだ。


「…なるほど、分かった。僕は、知らないことだらけだな」


「しょうがないよ。それに、知らないことがあったら、私が教えるから」


私が彼と共にいるのは、その為でもあるのだろうと、胸にふと浮かんだ感傷を掻き消す。

と、その時部屋の扉が叩かれた。


「おーい二人とも!そろそろ着くらしいぞー!」


カイの声が扉の向こうから聞こえる。私たちを呼びに来たのだろう。

話を打ち切って、エルギオと一緒に部屋を出た。


私たちの旅の、今現在の一応の最終地点。ハーマレー島。

最終地点と言うのは、ここで情報を集めるためだ。


ようやく、私の旅はひと段落を迎える。この島で情報を集めて、そして、どうしようか。



この時の私は、そんなふうに先のことを考えていた。

そこに辿り着くまでに、幾つの障害があるとも知らずに。


———


ハーマレー島。

空の楽園と呼ばれるこの世界で、最も大きい島。大きいのは見た目だけじゃなくて、政治、宗教、産業、貿易など、多くの面で世界の中心的な立ち位置にある。


地理的に言えば、中心は別にあるけど、それはとりあえず置いておく。


ともかく、そんな訳だから港もとてつもなく広い。ムロリメロ島ほど活気はないけど、それでも気持ちは明るくなる。


「うわ、すっごい高い塔!あれ、なんだろ?」


「内陸の方にもあるよ。あっちの方がもっと高そう」


「俺、一度来てみたかっただよなー、ハーマレー!」


「ミィー!」


「お前たち、気持ちは分かるがあまりはしゃぐな」


気が昂っている私達を、ダックさんが冷静に諌める。

そう言う彼もキョロキョロしてる姿に、思わず微笑ましくなってしまった。


「そういうダックも、楽しそうですね」


「む…」


「そうだぞ〜ダック。楽しめる時は楽しんどいた方がいいんだぞ〜」


「ダックさん、だ。カイ」


「は……」


無表情で訂正されたカイが、目を見開いて固まる。

見事な対応の差だが、それにしても何故エルギオには甘々なんだろうか、ダックさんは。

反対にカイには、ものすごく厳しい。


「カイ、諦めなさいな。ダックさんはね、エルギオ贔屓なんだよ」


「うう…」


固まった彼を慰める。

もちろん、私に対しても厳しい時はある。けれどそれ以上に、カイには特別厳しい。


「贔屓ではない。家族の恩人を大事にするのは、当たり前だろう」


「家族よりも、か?」


「む…そういうわけでは」


カイがブツクサと言った言葉に、ダックさんが顔を顰めた。

二人の視線が交わり、スッと鋭くなる。

二人の間を不意によくない空気が流れて、私とエルギオは顔を見合わせた。


「ちょ、ちょっと二人ともどうしたの?」


「…別に、なんでもねぇよ」


私の困惑に、カイが何でもないと返す。

そんな訳は全くなし、側から見ても二人の空気はどこか険悪だ。


「……」


ダックさんへと視線を移すと、彼は無言でそっぽを向いた。

こんな反応をするなんて、珍しい。

やはり、私の知らないうちに二人の間に何かあったのだろうか。


「…ダック、さん」


と、エルギオが口を開いた。


「僕はもう、旅の仲間です。だから、恩人ではなく家族として、接してもらえませんか?」


「…それは」


「そ、そうだよ!旅の仲間!私たちと、おんなじだよ!」


「ム、ムメ…」


慌ててフォローに入る。

ペミーも何か言ってくれてるようだ。渋々と言った感じだったけれど。

ペミーは、エルギオのことを、生き物の本能かなんかで分かってるのだろうか。自分より遥かに上位の竜である彼のことを、非捕食者として警戒しているのかもしれない。

エルギオは捕食なんて事は絶対にしないが。


「僕も、これからはダックさんと呼ぶので」


他でもないエルギオからの頼みに、ダックさんは渋々頷いた。


「…分かった。これからはそうしよう。悪かったな、カイ」


「別に…ダックさんが厳しいのは、いつものことだし」


「……」


いじけたようにカイが言い、ダックさんが無言になる。

良くない空気の代わりに、気まずい空気が広がった。


「メルリ、この空気どうしよう…」


「だ、大丈夫!数日すれば、いつも通りになるでしょ…」


「メムメム!」


今の会話で、何が原因で気まずい空気になったのか、どっちが悪いのか。

それはこの際どうでも良い事だ。どちらかから謝れば済む事だ。


けれども本当に、私にはこの空気はどうしようもなかった。

そもそも、今までカイもダックさんも、こんなに気まずい時なんてなかった筈だ。

本当に、一体どうしたっていうのだろうか。


私もエルギオも、二人の気まずい空気に挟まれながら、俯くしか出来なかった。

その時、不意に私たちへ声がかかった。

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