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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第七章 明日のことを
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9、「竜を飲む」 2

少し経って。

私たちは神殿を離れ、本島の祭壇跡に向かっていた。

神降ろしに寄れば、その祭壇で竜を飲めと言われたからだ。


「……」


整理すると。

普通、『祝福』や『加護』と言った神さまの力は、人間の一つの心臓に一つ、刻まれる。

そして、その人間が死ぬと心臓を離れる。

しかし、ドラメル族だけは違った。


人の時の彼らに刻まれた『竜の奇跡』は、彼らの内臓さえ作り変えた。

その結果、人の時とは違う、竜の時の心臓を彼らは持った。

そして、その心臓に二つ目の力…聖痕が宿った。


ドラメル族が死ぬと、人の心臓に刻まれた(宿った)方は通常通り体から離れるが、もう一つの竜の心臓に刻まれた(宿った)聖痕だけは残ってしまう。

そしてそれをエルギオが取り込む事が、竜を飲む事なのである。

という事だ。


「……いやいや」


正直、その全てを理解できているわけがない。まだ、必死に噛み砕いている途中だ。


「…それで、僕がその、残り物?聖痕?を取り込むと、どうなるんですか?」


けれどエルギオは、すでに次のことを考えていた。分からない事は、とりあえず一旦置いておく事にしたのだろうか。


「…確か、神降ろしの言葉では、それで『王の本領』の封印を解けるだとか」


「…ええ、それで合ってます。この残り物を取り込む…具体的には飲む事で、あなたの力を強く出来るのです」


エルギオの問いに、マルティナさんが答える。

竜を…残り物を飲む事で、エルギオの力が強くなるのか。つまり神さまは、エルギオにその力を強くして欲しいのだ。

『王の本領』の強化。今でも十分強いと思うのだが、強化する意味は神さましか分からない。

そうですかと答えた彼の顔に、少し影が落ちた。


「…なにか?」


「いえ。ただ…僕たちは本当に、何も知らなかったんだな、と…」


自分の、自分たちの無知を知る。思い知る。

世界を、世界の平穏を託されていながら。

と、サフィラさんが首を振った。


「いいえ、エルギオ様。さっき説明した一連の事については、私たちも少し前まで知りませんでしたから」


「ちょっ、サフィラ!それは司祭の沽券に関わるから言わないでと…」


「私もサフィラに賛成です。なるべくこちらの事情は、話しておいた方が良いんじゃないでしょうか?」


「…う、うぐ。ラケルまで……」


カンナ二人から言の葉を受け、マルティナさんは赤くなって縮こまってしまった。

彼女は時々、子供のような印象を人に与える。

恥ずかしがっている彼女に代わり、カザリスさんが説明した。


「僕らにもね、半月ぐらい前にこの残り物を全部集めろって、変な神降ろしがあってね。マルティナが、直接その意図を二柱に聞いたのよ」


「ちょ、直接…!?」


驚いたのはカイ。まだ恥ずかしそうにしながらも、マルティナさんが口を開く。


「神降ろしの間…私は神さまと繋がるのです。普通なら意識を保てないのですが…私の『霊依の奇跡』のお陰か、意識を持ったまま神さまと対話できる時が稀にあるのです」


首を傾げた私たちに、彼女は言葉で説明するのは難しいと言う。


「それで、神さまに聞いた結果…先程の魂と力の関係を、この世界の仕組みを知れたのです」


彼女の視線が、先ほどまでいた神殿、それを覆う岩山へ向く。けれどその目はきっと、もっと向こうを見ていて。

なぜか、ぎゅっと胸が軋んだ。

その横で。


「神に物事を聞ける彼女も彼女だが…」


「…答えてくれる神さまも神さまだな……」


ダックさんとカイが、そんな現実的な感想を呟いたのだった。



その後は特にこれといった会話もなく、私たちは祭壇跡へ辿り着いた。ちょうど修行殿から出て来た見習いが、何事かとこちらを見ている。

祭壇跡の中心にある、大きな建物。その手前で止まる。


「……それでは、早速これらを飲んでもらいますが…」


マルティナさんが言いながら、光の入ったふたつ瓶をカザリスさんから受け取る。

己へと差し出されたそれを、エルギオはじっと見つめた。


「…これを飲めば、『王の本領』は強くなる…けど、その、危なく、ないんですか?その…色々と……」


彼は、光としか言えないものを飲むのが少し怖いだろう。まあわかる、当たり前の事だ。


「私もそう思って神に聞いたのですが、神は『大丈夫だよ』と」


そうマルティナさんが答える。エルギオは少しの間光を見つめた後、深呼吸一つして覚悟を決めたようだ。

疑う理由もないし信じるしかない。良い加減、私も気持ちを入れ替えよう。


危険はないと言われたが、何が起こるか分からないので、念のためエルギオ、マルティナさん、カザリスさんの三人以外は少し離れる。


「……」


理由の分からぬ緊張感が、辺りに流れる。

エルギオが、片方の瓶の蓋を開けそのまま瓶を傾ける。光る残り物が、ゆらりとエルギオの口に入っていく。


「……っ」


光を口に含んだエルギオは、もう一つも同じように口に含んだ。

ゴクリ、という音と共に二つの残り物を同時に飲み込む。


「……ん、これは…?」


光を飲んだ途端、エルギオの瞳が焦点を失う。



「———っ!?」



そして次の瞬間。

異変は、唐突に起こった。

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