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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第七章 明日のことを
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5、竜を祀る者たち 2

僕は再び、修行殿の扉の前に立っていた。

もう一度、ディナちゃんとルベンくんと会う為だった。会って、二人に聞きたい事があったから。

扉を開けると、多くの見習いの、修行の緊張感を孕んだ空気が流れ込んで来る。

足音を殺して中に入る。なるべく音を立てないよう、二人を探す。

と、中年の男のカンナ見習いに手招きされた。


「…?」


彼は修行中ではない。ついていくと、いくつか部屋を跨いだ、大部屋に通された。

そしてそこでは10人くらいの見習いが、集まっていた。中には床に寝そべってうとうとしている者もいる。

そこに来て、僕を案内した老人が口を開いた。


「いやーやっと話せるようになった。修行部屋は私語厳禁でして。こちらの休憩部屋なら、好きに話せるのです」


「…そういう事ですか。連れてきてくれて、ありがとうございます」


修行部屋で彼らと話すつもりだったが、それは修行中の人々に悪いから、どうしようかと思っていたのだ。

話せる場所があるなら、都合がいい。

老人と別れ、二人をこちらが探す前に、向こうが先に気づいて駆け寄ってきた。丁度休憩中だったのだろう。


「エルギオさん!また来てくれたんですね!」


「う、嬉しい…けど、何しに、来たの?」


屈んで、ディナちゃんとルベンくんの、二人に視線を合わせる。


「うん。二人に…聞きたい事があってね」


「うん?なに?」


「……君たちは、どうしてカンナになりたいの?」


カンナというのが何か分からなかった時は、浮かばなかった問いだ。

それが『加護』を持つものであると分かった今、聞かずにはいられなかった。


「どうしてって…司祭様の、役に、立つため?」


「いや、それは分かるんだ。でも…それだけじゃない気がして」


司祭の役に立つ。ただその為だけに、数十人の人間が厳しい修行に挑むなんて、少し考えずらい。

しかも、二人のような子供でさえ。

そこには何か、根本的な物があるような気がして。


「そんなの簡単な事よ」


「え、そうなの?」


「つまりは、何故って突き詰めればいいんでしょ?司祭様の為っていうのは、突き詰めればつまり…」


そこで、ディナちゃんはルベンくんの方を向く。視線を受けた彼も、あそうかと何かに納得した。

そして、それを受けたディナちゃんが続ける。


「司祭様の為っていうのはつまり、エルギオさんの…ドラメル族の為に、修行しているの」


「僕らの…為に?」


「そう…かつて、この島の人たちを、助けた、ドラメル族に、報いるため」


意外な回答の続きを、ルベンくんが話す。



「その為に、僕たちは、ドラメル族に…()()()()()()()()



修行のための日々も。その辛さも。

カンナたちが『加護』に蝕まれているのも。

全てを、僕らに捧げるため。


「な……」


声が出ない。

そこで気づいた。二人の子供の瞳に宿った光が、憧れ以上のものを含んでいる事に。

一言でいうなら、信仰に、近いもの。


「そん…なの…」


「?エルギオさん?」


自分でも抑えられない不快感が、腹の底から迫り上がってきた。

その理由も、自分ではわからぬままに。


「そんなの…っ!」


叫んでしまう。


「…そんなの、僕らは望んで…」


けれど理性でグッと、その続きの声量を抑える。


「…ど、どうしたんですか?…僕たち、何か、まずいことを…?」


「………いや、なんでも、ないよ」


どうにかして笑ってみせる。けれど子供は鋭い。不安そうな顔は消えない。


「本当になんでもないよ。ありがとう、答えてくれて。じゃあ、僕はもう行くね」


無意識のうちに早口になっている。早く司祭殿に戻ろう、と思った。

まだ困惑している二人に、精一杯の笑顔を見せて、来た道を戻る。


ふと気になって、部屋を出るのと同時に振り返る。きょとんとした二人以外の見習い達が、扉を閉める僕に向かって頭を下げた。僕を案内してきた、初老の見習いも。

彼らにとって客人である僕に向けただけのものとは、どうしても思えなかった。


「……」


修行殿から出て、巡礼橋の所まで来る。

彼らは、見習い達はその全てを捧げて、修行に励んでいる。

僕らの為に。過去に一度、助けられたからという理由だけで。


(竜を、祀る、島…)


正確な意味は違うだろう。祀られていると思えるのは、僕らよりは竜の司祭の方だ。

けれど、()()を思わずにはいられなかった。

腹の底の不快感は、先程よりかは収まっていたが、司祭殿に戻ってきても消えなかった。


———


メルリ達と別れた後、ダック・ボンデールは司祭長エノシュ・ガムバルゲンを訪れていた。


ただ純粋に、聞きたい事があったのだ。

司祭が神降ろしをし、司祭長がそれを見習い達に伝える。

それならば、どうやってこの島は運営しているのだろう。それが気になった。

外部の人間の自分には、話せないこともあるだろうけれど。


(…こんな、単なる好奇心で司祭長様の時間を使わせても、いいのだろうか…)


そんな迷いは、司祭長の部屋の前に来ても晴れなかった。

けれど、その部屋の扉が少し開いている事に気づき、少し収まる。

さらにその隙間から、エノシュが何かを書いているのが見えて、迷いは別の好奇心に塗りつぶされた。


「あの、すみません」


「なっ!?はっ、なんじゃ!?」


扉を開けて声を掛けた結果、驚かせてしまった。いけないいけない。

どうもこの島に来てから、生来の好奇心旺盛さが消せない。


「驚かせてしまってすみません。聞きたい事があったのですが…その前に、なにを書かれていたのですか?」


「な、なんでも良いじゃろ!外部の者には話せん!」


怒らせてしまった。

声を掛け方を間違えたかもしれない。

エノシュは咳払いを一つして、書いていたものを隠しながらこちらに向いた。


「…それで、なんじゃ。聞きたい事って…」


怒らせてしまったが、話は聞いてくれるらしい。その優しさに感謝しながら、意中の疑問を口にした。

途端に、エノシュは微妙な顔をする。


「…島の運営方法は機密事項じゃ。その島特有の方法(やり方)があるのでな。そんな訳で、これも外部の者には話せん」


なんとなく予想していた通り、断られてしまった。その理由を説明してくれたのは、最後の誠意だろう。

これ以上、彼の時間を無駄遣いする意味はない。


「…ありがとうございます。失礼しました、時間を使わせてしまって」


「…別に、かまわんよ。まったく…」


感謝と謝罪を同時にして、部屋を後にする。

扉を閉めるその最後に、部屋の中からエノシュの愚痴が漏れる。


「…どいつもこいつも、司祭だの神降ろしだの……あんな()()()()——」


(……え?)


閉めた扉に遮られて、愚痴のその先は途絶える。

けれど聞こえた愚痴の内容は、自分を困惑させるのには十分だった。

だってそれは、見方によっては司祭を侮辱するような…。


(聞き間違い、か…?)


今自分で閉めた扉に向き直り、それを再び開けるかどうか少し考える。

結局、迷惑だと思い扉から手を離し、その場から離れる。

けれども胸の底に積もった不安と疑惑は、確かに後ろ髪を引っ張っていた。

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