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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第七章 明日のことを
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4、竜を祀る者たち 1

その日の深夜。

木と石でできた廊下で、見事に立ち尽くす。

その理由は簡単。厠の場所が、分からない。


仕方ないので、誰かいないか探す。サフィラさんかエノシュさんを見つければ、場所を教えてくれるだろう。

けれど見つけられるはずもなく。自分が何処にいるのかも、分からなくなった。


迷った。

どうしよう。

とりあえず、目に付いた部屋に入ってみるか?

と、廊下の突き当たりに、両開きの扉が見えた。

…流石にそこには入れない。絶対重要な部屋だ。

仕方ないので、その一つ手前の扉を開ける。


暗い、狭い空間に人影一つ。

一瞬驚くが、人がいた事に安心する。

よし、厠の場所聞こう。なるべく驚かせないように、小さく声をかける。

暗闇の中の人影を振り返る。


(——ぁ)


その少女の、深い碧の瞳に、吸われる。

静寂のはずの周囲から音が消え去り、自分の息も止まる。

それほどに、見入ってしまう。

そして少女が、サフィラさんではない事に気づく。


それが誰かを察するのと同時に、その夜の記憶は断ち切れた。



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



ドロガミル島、二日目。

ぼんやりとした眠りから、目を覚ます。昨夜何かあったようだが、よく覚えていない。恐らく夢か何かだろう。


(新しい島に来たから、緊張かなんかで変な夢見たんだろうな…)


そう思いながら起き上がる。

続けてみんなも起きてくる。寝起きの回らない頭で、とりあえず情報を整理した。


「この島は、二柱の神さまとやらを祀っている島だ。そして、竜を祀る島だというのだから、神さまとやらは竜なのだろう」


まず、ダックさんがそう推測を口にした。昨夜、横になりながら考えていたらしい。


「んで、この島の竜の司祭…神さまを神降ろしできる人が、俺たちを島に招いた、と。昔から島にいた、カザリスさんを使って」


カイが続く。その後を追うように、エルギオが続いた。


「島にはカンナ…『加護』を使って遠くを見せられるサフィラさんと、『空の壁』を作れるラケルさん。それに、島主的立ち位置の司祭長、エノシュさんがいて…」


付け加えるなら、サフィラさんは見せられはするものの、自分は映した景色を見れないし、何も聞こえない。ラケルさんは半日動けないという、欠点がある。


「あと、カンナ見習いのディナちゃんとルベン君もいるけど…とにかく竜の司祭は、私たちにその役目を伝える為に、私たちをこの島に呼んだ」


昨日のエノシュさんの言葉を思い出す。

口振りからして、司祭も私たちの役目は知らないのだろう。

私たちをこの島に呼んだのは、神降ろしで神さまからそれを聞き、直接私たちにそれを伝える為だ。


「…ペェム」


情報を整理した所で、サフィラさんが部屋に訪れた。

正午に神降ろしを行うので、それまではなるべく自由に過ごしてほしいとの事だ。その為に、この施設…司祭殿を案内してくれるという。

断る理由もないので、頷いて立ち上がる。気付けば眠気は、頭の中から消えていた。



「…ここから先は普段全く使わず、掃除もできていないんですよね…」


廊下の曲がった先を指さして、サフィラさんが恥ずかしそうに言う。

確かに、廊下の角の先は、かなり荒れている。司祭殿はかなり広いが、使っている場所はほんの一部なのだという。


(昔は、たくさんカンナが居たんだっけ…)


カザリスさんがそんなことを言っていた気がする。空き区画が多いのは、その時の名残りだろう。

私たちは、自分達が寝泊まりする場所、カンナ二人と、司祭長の私室。そして、水回りの施設を案内された。

最後に、長い廊下へ案内される。


「この廊下の突き当たり…あの両開きの扉が、司祭様が神降ろしをする場所、神殿へと続く扉です」


頭の後ろに、ずきりとかすかな痛みが走る。

なんだろう。ここ、見たことがあるような。

そう例えば、昨日見た夢か何かで。


「そしてその手前にある部屋が、竜の司祭の私室です。司祭様はまだ寝ておられるので、用があっても入らないで下さいね」


違和感は本当に小さく、サフィラさんの説明と共に流れていった。


「…と、司祭殿の中はこんな感じですね。何か分からないことなどは、ありましたか?」


「…あ、ああ、いえ、特に。分かりやすくて、助かりました」


「いえいえ。それで、聖女様方。正午まで自由ですが、何かやる事などは?」


「私は、特に無いんだけど…」


皆んなの方を振り向く。

情報を整理している時に聞いていたが、どうやら皆んなはそうでは無いらしい。


エルギオは、修行殿にまた行くつもりらしい。ダックさんは、エノシュさんに用があるとか。

ペミーも何かあるようで、フリーなのは私とカイだけらしい。


「そうですか…では、メルリ様とカイルス様は、ここに居てくださいませんか?私から、少し話たい事があるので」


サフィラさんがそう言う。断る理由もないので、頷く。

こうして、私たちは正午に再びここに集まることを条件に、解散した。


「…それで、話したい事ってなんですか?」


皆んなが去り、その足音が遠くなってから、サフィラさんに問う。彼女は少し迷っていたが、意を決したのか深呼吸をした。


「…えっと、その…竜の司祭は、神降ろしという重い役目を背負っています」


話の先が見えない。カイと顔を見合わせ、彼女の言葉の続きを聞く。


「…そして、その役目は聖女によって終わらせられる、と言われています」


それはつまり。つまりは竜の司祭は私に会い、神さまの言葉を伝える事で、その役目を終えるのか。


「…だから。だから、その…」


サフィラさんが、自身の胸をぎゅっと掴む。今までとは、重さの違う雰囲気に、私とカイは知らず身構える。


「…だから、お願いします。聖女さま」


唐突に、サフィラさんが私に頭を下げた。


「聖女さまが…貴方だけが、彼女をその役目から解放する事ができるのです」


その声は、これまでの彼女のそれとは、明らかに違っていた。声は震え、抑えられぬ感情が漏れ出していた。

彼女の手は強く拳を握り、震えている。強く噛んだ唇も、どうしようもなく震えている。


———


ああ、私は酷いことを言っている。聖女さまの事情を、何も考えていない。

けれど、頼むと決めたのだ。

昔から、彼女の運命を知った時から。

咳き込みそうになるのを必死に抑えて、懇願を続ける。


「どうか.彼女を——あのこを、あのこを縛る何もかもから、解放してあげてください」


自己嫌悪が、胸に広がり出す。

こんなことを言ったって、聖女さまからしたら意味がわからないだろう。

けれど、言葉は止められない。


「あのこをもう、どこにでもいる、普通の子に戻してあげてください……どうか、おねがいします」


止められず、涙が溢れ出した。

だって、仕方のないことなのだ。

竜の司祭は、彼女は。

ありふれた生を受けて、ありふれた日常の中で、ありふれた幸せを見つける事の出来る。

そんな普通の、女の子なのだから。


「……っ」


下げた頭に、手が添えられる。同時に、聖女さまの、なぜか惹かれる声が響いた。


「…事情はよく分からないけど……うん、分かった。なるべく頑張ってみます」


大人の、対応。

よく分からないけれど、頼まれたから請け負った、というだけの返答。

今だけは自分が、ただ感情を撒き散らすだけの、赤子だと思えて、恥ずかしい。


けれど、たとえ心の底からの返事出なくても、そう答えてくれた事が嬉しくて。

私の十六年は、今この瞬間にその半分が報われたのだと思った。

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