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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第七章 明日のことを
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2、二人のカンナ

カザリスさんが戻って来たのは、メルリ達が子供に連れ去られてから、少し経った後だった。

青い災竜の姿ではなく、昨夜島で見た人の姿で、岩の影からひょっこりと現れた。

そして、後ろに少女を連れていた。


「おや?メル…聖女様と、エルギオくんは?」


「それが…」


相談した結果、ダックさんがメルリからの伝言を伝える。忽ち、カザリスさんは崩れ落ちた。


「え、ええ……」


「…はぁ、全くあの子ったら…あの、多分それ、私の責任でもあるわ」


と、カザリスさんが連れて来た少女が、口を開いた。

年はメルリと同じか少し上。纏う雰囲気が、どこかモモを思わせる。

緩い純白の衣をきっちり着こなし、長そうな髪を後ろで結んでいる。そして、瞳の色は髪と同じ純黒だった。


「…自己紹介が先ね。私は、サフィラ・アルカシオ。この島でカンナをやっているわ」


と、ここまでは今はいいわと、サフィラと名乗った彼女はため息をつく。


「名字で分かったと思うけど…ルベンは、私の弟なのよ。ったくあの子ったら、何やってるのかしら」


そう言って、再びため息をつく。どうやら、弟にはいつも手を焼いているようだ。

気持ちを切り替えて、今度はこちらの自己紹介を済ます。


「カイルスくんに、ペミーくん。そして、ダックさんね。…へえ、こんな感じなのね」


「はい?」


「ああ、いや…あとで全部説明するわ。ええと…私は自分をカンナって言ったわよね?」


質問の意味がわからず、首肯する。と、そこにその意を汲み取ったらしいダックさんが切り込んだ。


「その、カンナというのは?」


「まあ、簡単に云うと…司祭様の両腕、かしら。そこら辺も全部説明する為に、カザリスさんと来たのよ。なのに…」


一番大事なメルリとエルギオが居なかった、と。そりゃカザリスさんも、崩れ落ちるわけだ。


「た、大変だな…」


「ムムゥ…」


次どうするか考え出したサフィラさんの横で、崩れ落ちていたカザリスさんが、あ、と起き上がった。


「向かったのが本島なら…もしかしたらだけど、彼と会えるかも」


「あー…確かにそうね」


思い出したように、サフィラさんが手を打つ。


「じゃあ、先にあなた達だけでも司祭殿…私達カンナや司祭様が住まう、この岩山の裏の建物に案内するわ」


「ちょ、ちょっと待って。彼っていうのは?」


司祭殿というのも気になるが、二人の言っている彼の方が気になった。

会話の流れからして、その彼にメルリとエルギオを連れて来てもらうのだろうから。

服の袖を整えながら、サフィラさんが答える。


「さっき司祭の両腕って言ったでしょ?だから、私の他にもう一人いるのよ」


———


修行殿の中は、外で感じた以上の緊張感で満ちていた。

灯は蝋燭と窓だけで、全体的に薄暗い。あちらこちらで、布の擦れる音とボソボソと何かを呟く声が聞こえる。

老若男女、推定50人近くが居るようだ。


「…彼らが、全員カンナになる為に修行してるんだね?」


修行を邪魔してはいけないと思い、小声でディナちゃんに聞く。彼女は、誇らしげに頷いた。

そしてその時には、修行している何人かが私たちの存在に気づき始めていた。


「…邪魔しちゃ、悪いんじゃない?」


「そう…だね。ディナ、もう、行こう」


「えー。もっと見ていって欲しかったんだけど…」


ディナちゃんの抗議は、声を抑えられずに響いた。修行中だった人々の間に、ざわめきが広がっていく。

完全に邪魔してしまった。


「あっ…と、ごめんなさい!」


ルベンくんが精一杯の搾り出した大声で謝り、私たちは扉を閉めて修行殿から出た。


「ちぇ、私の修行も、見てもらいたかったのに…」


「あはは…大丈夫だよ」


目の前で厳しいという修行をさせられても、こっちが困る。


「あの中から…実際にカンナになれるのは、どれくらいのいるんだろう」


と、エルギオがつぶやいた。彼としては、修行する彼らへの、労いのような気持ちもあったのだろう。

けれど、それを疑問と受け取った子供が答えた。


「物凄く難しいのよ!ここ20年で、たった二人しかなれなかったんだから!」


「まあ…そのどちらも、僕らが生まれる前にカンナになったから、この話は人から聞いた事なんだけどね」


何やら自慢げに語る二人。エルギオと顔を見合わせて、困惑を共有する。

なんでも答えてくれそうな勢いだ。さっきは悪いと思ったが、いっそ色々聞いてみるのも、どうだろう。


「20年で、二人かぁ…」


「僕たちも、頑張っているんだ。…あ、見えた。あれが。雑色殿だよ」


歩きながら、次の建物へ目を向ける。

修行殿からちょうど西側に位置するその建物は、同じく木と石で出来ていながらも、修行殿より僅かに見劣った。


「ゾウシキデン?」


耳慣れぬ音に、首を傾げる。嬉しそうに子供二人が答える。


雑色(ぞうしき)っていうのは、私達カンナ見習いや、カンナ。司祭長様や司祭様のお世話をする人たちのことよ!」


「えっと…ご飯の準備とか、お風呂の準備とか、毎日してくれるんだ」


つまり使用人に近いか。だとすると、カンナ見習いと云うのは、本当にずっと修行ばかりしているのか。


(あれ…そういえばこの二人も、カンナ見習いなんだよね…?)


つまりディナとルベンの二人は修行もせず、橋まで渡って私たちを見に来たのか。


「でも、私たちカンナ見習いは、雑色殿の中には入れないのよね」


「え、それはなんで?」


「え、あ。えっと…それは……」


途端に、二人の様子が変わった。目を逸らして、答えを言いたくないようだ。

けれどエルギオへの答えは、二人ではない声で、告げられた。


「——それは、雑色殿に来るくらいなら、カンナ見習いには修行して欲しいからだ」


声と同時に、雑色殿の扉が開く。そして中から、カイと同じくらいの歳の少年が出て来た。


「げ」


ディナちゃんの顔が、みるみる蒼ざめる。

歳はエルギオかカイと同じくらい。黒い髪を短く切り揃え、同じく黒い瞳に呆れと怒りを浮かべている。


「まったく二人とも、また修行を抜け出して。しかも、お客様まで連れ回して。ディナ?」


「ち、違うのお兄ちゃん!これは…そう!聖女様を案内していて…」


「もし会ったら司祭の所へ連れてくるよう、言っておいた筈だけど?」


「う…」


どちらかというと溌剌としたディナちゃんが、完全にすぼむ。

彼は次に、ディナちゃんの隣のルベンくんへ、目を向けた。


「ルベン、君もいながらどうして?…ディナの暴走は、君しか止められないんだから」


「だ、だって…僕も、見たかったんだもん。…竜の、長さま……」


しゅんとしてしまったルベンくんを、仕方なさそうに彼は見下ろす。


「あの…あなたは?」


私の質問に、少年は気付いたように私をじっと見つめた。そして、小さく息を吐いた。

その動作に違和感を覚えるが、彼の返答でそれは流れた。


「申し遅れました、聖女様。自分はラケル・オルボーン。…名字で分かったと思いますけど、ディナの兄です」



子供二人は、名残惜しそうにしながら、ラケルと名乗った少年によって、修行殿に返された。


「すみません。妹が多大な迷惑をお掛けしました」


「ああいや、全然迷惑だなんて…」


この島のことを色々知れたのだから、むしろありがたい。みんなと合流したら、しっかり共有しないと。


「では、これから司祭殿にご案内しますね」


そう言い、ラケルさんは歩き出す。その後をついて歩き出した時に、エルギオがいくつ目かの疑問を投げた。


「ラケルさんは、カンナ見習いではないんですか?さっき、雑色殿から出て来ましたけど…」


「…ああ。まあ、確かに私はカンナ見習いではありません。けれど、雑色でもありませんよ」


「え……つまり」


私の困惑に応えるように、ラケルさんは、はいと言った。


「説明しておりませんでしたね。私はカンナです。…この島でたった二人の、竜の司祭の両腕です」


こんな、私たちとそう変わらない歳なのに。

彼は厳しいという修行の果てに、ディナちゃん曰く神さまの力を使えるようになったのだ。

衝撃を受ける私たちをよそに、ラケルさんは歩きながら説明を続ける。曰く、カンナなら雑色殿に入れるらしい。


「雑色殿に、少し用があったんです。本当に、会えてよかった。あなた方を司祭殿にお連れするよう、司祭様から仰せつかっていたので」


主に、妹についての雑談をしながら、再び巡礼橋を渡る。私にもエルギオにも、兄弟姉妹は居なかったから、新鮮な話だった。

岩山を迂回すると、その裏に建物が見えた。


「……」


橋を見た以降の、再びの絶句だ。

その建物は、雑色殿よりも修行殿よりも絢爛だった。

使われているのは木と石だが、木は真っ白に塗られ、石はすべすべに磨かれている。


「ここが、司祭殿です。中で待っていて下さい、司祭長様がお待ちです」


そして多分、みんなともう一方のカンナもいるだろう。

いよいよ、竜の司祭と対面するのだ。


半分無意識に、エルギオの手を握った。彼の手は震えていたが、ぎゅっと握り返してくれた。

その強さも弱さも、初めてあった時から変わらない。だから今でも、その温もりで慰められる。


私たちの前にいたラケルさんが、小さく拳を握った。

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