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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第七章 明日のことを
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1、ドロガミル島

二体の青と白の竜は、岩山の中腹の広まった所に降り立った。差し伸ばされたエルギオの手に掴まって、地面に降りる。

エルギオが人の姿に戻ったのを確認したカザリスさんが、首を横にもたげて言った。


「それじゃあ僕は、竜の司祭に知らせて来るよ。と言っても、目立つからもう見られてると思うけど」


そこで待っててと言い残して、青い竜が再び飛び立つ。

強風から顔を上げると、カザリスさんが岩山の裏に消えて行くのが見えた。あの先に、竜の司祭が。


「…ここが、ドロガミル島か」


「なんというか…厳かな雰囲気がする。竜を祀るってのは、嘘じゃないのかも」


一見、何も無いように見える島だ。けれど、その空気には、あのハーマレーの空読み塔の最上階、空読み様の部屋に通ずる神聖さが染みていた。


「さて。待てと言われたが…おや?」


それぞれの様子を確認したダックさんが、そう言いかけた所で言葉を切った。

見ると、カザリスさんが消えたのとは、違う方向を見ている。


「……?」


振り向くと、少し離れた岩の影に、二つの顔が覗いていた。私たちに気付かれたのに慌てたのか、即座に顔は岩陰に隠れる。


「…子供?」


そう言ったのはエルギオだ。彼は私たちより視力が良いから、その判断は真だろう。

隠れられないと悟ったのかおずおずと岩陰から出て来たのは、確かに子供だった。

男の子と女の子、一人ずつだ。


「…ねえ、君たちもしかして、この島の人?」


臆さずに声をかけてみる。子供二人は、驚いて顔を見合わせた後、恥ずかしながらもすぐ近くまでやって来た。

年は、五つを越したぐらいだろうか。コンボボロ島のアンナちゃんと同じか、それより幼い。


「…あの。もしかして、聖女様方です、か?」


女の子の方が、先に口を開いた。

私たちは、互いに顔を見合わせる。現地人ではあるようだ。


「そうだけど…君たちの名前は?」


代表して、私が答える。子供二人は興奮を隠さずに嬉しがりだした。


「ほら、やっぱり本当だったじゃん!私のカンは鋭いのよ、ルベン!…あっ、私はディナ・オルボーンです!ほら、ルベンも!」


「ああえっと…僕は、ルベン・アルカシオ……です」


「ディナちゃんに、ルベンくんね」


私に名前を覚えられたのが嬉しいのか、言葉にならない声で、はしゃぐ二人。

落ち着くのを待ってから、私たちも自己紹介をした。そして、エルギオの時。


「…竜の、長様……!?」


「っ本物だ!」


明らかに、今までと興奮の度合いが違った。

ディナとルベンは、忽ちエルギオの両側に陣取った。そして、エルギオに質問攻めを開始した。


「本当に竜になれるの!?ねえねえ、ここで今なって見てよ!」


「竜になるって、どんな、感覚なの…!?」


「メ、メルリ…」


エルギオからの、救助を求める視線。

聖女一行だからか、私たちが持て囃される事は多い。けれど思えば、エルギオが個人的にここまでされた事は、無かったかもしれない。


「ディナちゃん、ルベンくん、そこまでにしてくれないか」


と、ダックさんの静止が入った。

名残惜しそうに、二人がエルギオを双方から引っ張るのを止める。

意外と素直だし、教育がしっかりしている。


「あ、そうだ!せっかく来てもらったのだから、メルリ様に私たちの島を案内しなくちゃ!」


「あ…だったら、エルギオ様も、一緒に、行こう」


気づけば、私とエルギオは二人に手を引っ張られていた。


「ちょ、ちょっと!?……っ皆、カザリスさんが戻って来たら、説明お願い!」


エルギオと顔を見合わせて、これは断れないと悟る。

島に着く前の緊張感は何処へやら、カイとペミーが手を振って了承を示す。ダックさんがため息をついたのが、岩に隠れる前に最後に見えた。


「わ、分かったから。引っ張るのを、やめてもらえないかな」


エルギオの言葉に、子供二人は言われた通りにする。


「えっとそれで…どこを案内してくれるの?」


もうこうなったら、とことん案内してもらうしか無い。普段なら、あまりこういうのに乗り気では無いのだが。


「まずは、私たちが住んでいる所よ!もうすぐ見えるわ!」


そう言いながら、ディナちゃんが少し先の坂を登り切る。ルベンくんがその後に続き、私たちはさらにその後を追った。

そして、見えた光景に絶句した。


「…橋……?」


「そう!私たちが今いる場所はね、司祭島(しさいとう)っていう、ドロガミル島の離れ小島なのよ!」


「僕らが住んでいるのは、本島なんです。だから、この橋…巡礼橋(じゅんれいばし)って言うんですけど…を渡るんです」


「わ、渡るの、これ…?」


橋といっても、腰までの手すりが付いているだけの、木製の物だ。踏むと絶対ギイとか鳴る。

おまけに本島はここから三十メートルぐらい離れているし、しっかり風まで吹いている。

正直怖い。


「大丈夫ですよ!頑丈な橋ですし、手すりもあるから、滅多に落ちる事はありません!」


「事故も…2、3年に、一回ぐらいしか無いと、聞きます。それも、()()()()()の御力で、助かる事も多いとか」


タンテー様というのは、多分カザリスさんの事だろう。


「事故、あるんだぁ…」


エルギオが息を飲む。最悪、彼に竜になってもらうか。

そんな事を考えているうちに、私たち橋に一歩踏み出していた。



言われた通り橋は頑丈で、何も起きずに私たちは本島の土をふめた。

そうしてそこから、ディナちゃんとルベンくんによる、案内が始まった。


「あれは祭壇よ。その周りにあるのが、大祈祷所と呼ばれる所なの」


「…ケイオール島の祭壇跡に、少し似てるかも?」


橋を渡ってすぐ、目の前に多くの石造建築が広がった。一番大きいのが祭壇らしい。

確かに、アドルオさんの寝床だったあの祭壇跡と、雰囲気は似ている。


「見えて来たよ…僕らが住んでいる場所。修行殿(しゅぎょうでん)だ」


横に長い、大きな建物が見えて来る。石と木で作られており、簡素だがその大きさで圧倒される。


「修行殿…」


「て事は、君たちは何か修行してるの?」


待ってましたと言わんばかりに、ディナちゃんが胸を張って言う。


「そうよ!私たちは、()()()になる修行をしてるの。物凄く、厳しいのよ!」


「ディナ、それじゃあ説明不足だよ。えっと、カンナって言うのは…神さまの、力を使える人の事です」


「神さまの、力…」


それがどんなものか分からないが、確かに厳しそうだろうというのは分かる。

大きな建物の、これまた大きめの玄関までやってくる。


「神さまっていうのは…もしかしてドラメル族に竜の力を与えた…」


「うーん…正確にはそれともう一柱。人の神さまも含めてね」


「あ。神さまは、一柱、二柱…って数えるんだよ」


エルギオの素朴な疑問に、ディナちゃんが答え、ルベンくんが補足する。人の神さま、というのは確か、いつか空読み様がそんなことを言ってたような気がする。


「人の神さまっていうのは…もしかして空読み様に降りた、あの…?」


「降り…?あ、神降ろしの事ね!そうよ、神さまは二柱とも、神降ろしでその声を聞けるの」


「と言っても、それが出来るのは、空読み様とか、司祭様だけなんだけどね」


十ほど下の子供に質問攻めするのは、あまり良くないだろうと思い、疑問はそこで打ち止めにする。


(常識が、違うんだ…)


そう思った。

この島の人は、こんな子供でさえ私達の知らないことを知っている。文字通り、彼らと自分達とでは見ている世界が違うのだ。

胸の奥が、寒くなる。


(いいや、怖気付いちゃだめだ…)


自分は世界の運命を託された、聖女なのだ。図太い精神を持ちたい。

と、そう思ったからか、少しだけ胸の畏れが取れた。『聖女の奇跡』のお陰かも知れない。


「二柱の…竜神と、人神、か」


エルギオが呟く。質問ではないのに、まだ話し足りなかったのか、子供二人がそれに答えた。


「二柱の神さまは、世界の()()から、この世界を見守っていらっしゃるのよ!」


「多分…今も、僕らを、見てるんじゃないかな。世界の、裏から」


「世界の、裏、ねえ…」


なんとなく、空を見上げる。寒期に入りかけの空は、雲ひとつない。

見られている、と言われても実感はない。でももしそうならと、ハーマレーでの神降ろしの時を思い出す。


(あの、懇願するような声…)


出立前の神降ろしの時に聞こえた、あの声は。

久しく忘れていた、のしかかるような肩の重さが、存在を主張した。

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