表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
間章 竜を祀る島
108/168

3、竜上の旅路

私達は、カザリスさんの背中に掴まってフェキシフト島跡を飛び立った。

大丈夫だと彼は言っていたが、全然そんな事はなかった。背中と言っても、鱗の床だ。掴むところを見つけづらい。

おまけに、彼は飛んでいるのだ。前方から突風が打ちつけてくる事くらい、言われなくても分かる。

たとえそれに耐えられても、捕まり続けるのは無理だった。


「さ、寒い…っ!」


時期は暖期よりの筈なのだが、強風に当たり続けて肌の温度が下がっていく。それはまるで、真冬のようだ。

私の悲鳴が聞こえたのか、カザリスさんが宙に停止した。


「ごめんね、上着をしっかり着ててって、言うの忘れてたよ!」


「…それ以前の問題だと、思うんだがよ…」 


歯をガチガチ鳴らしながら、カイが言う。上着はあるにはあるが、もうみんな指先まで震えてしまっていて、荷物を解けない。

少し考えていたカザリスさんは、思いついた様に言った。


「あ、そうだ。エルギオくん、ちょっと竜になってよ」


「え、ええ!?なんで?」


カイとペミーの指を暖めていたエルギオが、困惑の声を上げる。


「僕らは強靭だからね。現にきみ、あんまり寒がってないでしょ?」


「……あ」


言われて気づく。他を温められると言う事は、自分はそれぐらい寒くはないと言う事。

実際、エルギオだけはあまり震えていなかった。


「それに君の体は鱗というより毛だし、温かいと思うんだ」


そういえば。

エルギオの竜の姿は、他と比べて鳥に近い。

そこなら、鱗よりは暖かいはずだ。


「竜になった君に、みんなが掴まる。そして君は、僕の後ろを飛ぶ。こうすれば大丈夫じゃないかな」


「でも…」


「大丈夫。この辺りには、無人島しかないし。見られる心配もないよ」


エルギオの心配に、カザリスさんが先回りして答える。

少し躊躇った後、エルギオは頷いた。

そして、走ってカザリスさんの背中から飛び降りる。私たちが驚いた次の瞬間、隣に真っ白な災竜が浮かんでいた。


「わぁー…。改めて見ても、本当にきれいだな。その体色、その眼色。やっぱ血筋かなぁ…」


カザリスさんが、羨ましそうに言う。少し恥ずかしそうに、エルギオがカザリスさんの背中、私たちの近くにその背中を持ってくる。


「さ、さあみんな…こっちに」


まだ震える体に鞭打って、エルギオの背中へと乗り移る。


「……ぁっ」


「あった、かい…」


まるで毛布の様な感触が、触れている手足から伝ってくる。

声を漏らしたのは、カイの次に私。本当に、巨大な鳥の上に乗っているみたいだ。


「ムゥメ!」


「……いい艶だ。感触もいい」


ダックさんが、しきりに近くの毛をさすっている。そう言えばダックさんって、動物に詳しいかったなと思い出す。


「み、みんな…恥ずかしいから……やめて…」


エルギオが呟く。後ろの方は、萎んでしまってほとんど聞こえなかった。

耐えきれなかったカザリスさんが、吹き出した。


エルギオの首筋の後ろ、人間でいううなじの辺りがより毛が深かった。だから私達は、そこで毛に埋もれた。

こうすれば、エルギオが飛んでも、ある程度は毛を掴まなくて済むからだ。


「掴んだ毛がもしひっこ抜けたら、そのまま飛ばされかねないからね」


なんて、カザリスさんは笑った。全然笑い事じゃない。ともかく私達は、そうやって寒さを回避してカザリスさんの後を追った。


進行方向は北、北の果て。

彼曰く、無人島の近くや空船が通らない場所を選んで飛んでいるらしい。

それ以来、私たちもカザリスさんも無言だった。それが急いでいるようだと気づいたのは、少し経ってからだった。



やがて、太陽が西の奈落へ落ちかけた頃。

私達は、突然膜のようなものを飛び越えた。


「…っ!?」


全員が、何かの向こうに抜けたと感じた。けれどそれが何か分からなかった。


「ふー、とりあえず目標達成!近くの島で、今夜は明かそうと思うんだけど…」


「や、それは良いんだけど…」


「あ、大丈夫だよ。ちゃんと無人島だから」


「いや、そうじゃなくて。今の…」


エルギオの真意に、カザリスさんは少し首を傾げてから思い立ったようだ。


「っあ。もしかして、今越した『空の壁』のことかい?」


「『空の壁』?壁なんて、どこにも無かったはずだが…?」


ダックさんが、鋭い質問を投げかける。『壁』というのは言葉の綾だろうけど、だとしても今のはなんなのか。

カザリスさんが、考えながら説明した。


「『空の壁』は今越した、透明の膜のようなものだよ。大まかに言うと、竜を祀る島を他の島から隠すための物なんだ。世間的に、竜を祀ってるなんて言えないからね」


それはなんとなく分かる。

恐れの対象のはずのものを祀るなんてと、口々に言われるだろう。


「でも、隠すって…一体どうやって?」


「『空の壁』の内側は、外側から見えなくなるんだ。今の僕らも、あっちの方の島からは見えないはずだよ」


言いながら、カザリスさんは今来た方向を指差す。

現実とは思えぬ説明に、みんなが絶句する。

その中で、どうにかエルギオが『心話』をつなげた。


「そんな物、どうやって…誰かの『奇跡』なのか?」


それに対し、カザリスさんは待ってましたと肯定する。


「そ、『不可視の加護』ってやつ。生命体の根本的な認知能力を歪めて…って、難しい説明は今はいいか」


話しを途中で切り上げて、カザリスさんは近くの小島を指差す。


「今日はもう陽が落ちるし、あの小島で夜を明かすよ。——明日にはもう、竜を祀る島につくだろうから」


衝撃と困惑から一変。

体の下のエルギオが強張るのが分かる。私の中にも、緊張の空気が漂った。

いよいよ明日、これまでの旅の目的地に着くのだ。


———


無人の小島に降り立ち、手早く夜を明かす準備を進める。

持ってきた携帯食や、地面に寝ころがるための敷布を荷物から解く。周りから見えないからと、小さな火も起こした。


「そう言えば、こうやってちゃんと野宿したのって、何気に初めてじゃない?」


火を囲んでペミーを摩りながら、メルリが言った。

カイとダックさんはいない。この島の森に食べ物がないか、まだ陽が落ちきっていない今の内に、探しに行っているのだ。


「僕はやった事あるよ。メルリと再会する前だけど」


目覚めてから十年の間。災竜の手がかりを求めて、あてもなく旅をしていた頃だ。


「…そう言えば、ケンヤさん達はどうしてるんだろう」


思い出して、疑問を口に出す。

あの頃世話になって、ハーマレー島で再会した、ケンヤさん達三人組。あれからもう数ヶ月会っていない。


「まだハーマレー島に居るのかな。だとしたら、私たちの事はどう伝わっているんだろう」


「そりゃあ、災竜を倒して回ってる、本物の聖女、だと思うよ」


会話に挟まれるように、横から聞き慣れた声が飛んできた。

その方を向くと、木々の間から若い青年が顔を出した所だった。

少し青みがかった黒髪を、肩のあたりでバッサリ切っている。そして、吸い込まれそうな深く、それでいて綺麗な青い瞳をしていた。


「…ん、あれ?どうしたの、二人とも」


ポカンとした私たちに、青年が声をかける。

その声色は、間違いなくさっきまで前を飛んでいた青い災竜の物で。


「……カザリス、さん?」


少し幼さを残した顔が、なに?と恥ずかしげに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ