表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
間章 竜を祀る島
106/167

1、予測不可能の旅立ち 1

フェキシフト島跡は、恐怖と混乱に陥っていた。突如、自分達が乗って来た空船に、災竜が降り立ったのだから、無理もない。

人々は島の内陸に固まり、災竜と対峙している聖女らを、不安の目で見つめていた。

そしてその中に、ダック・ボンデールとペミー・アヌシもいた。


「…闘える君も、行った方がいいんじゃないのか?」


「…ペム」


ダックの問いかけに、ペミーは首を振る。ここをお願いと、カイとエルギオに頼まれたのだから。


「…そうか」


「…あの」


ダックがペミーの意思を感じ取った時、近くの人々から不安の声が上がった。


「聖女様たちは、大丈夫なのでしょうか?…あの災竜も…」


続きは言わなかったが、何を言いたいのかは分かる。

それに何と返せば良いか考える。


(災竜自体は問題ないか…あの様に止まっているという事は、理性のある者だ。問題は)


周りへの印象をどうするか。

災竜は一般的には災害そのものなのだ。対話出来ることすら、知られていない。恐怖故、これまで対話の試みすら行われなかった。


一方、災竜側も、人間を傷つけまいと距離をとっている。レイナやアドルオがそうだった。

ある意味、彼らも人間を恐れているのだろう。


(……恐れは、互いの本質を曇らせるな…)


人と災竜の間には、そういうジレンマがある事を、ダックはこれまでの旅で感じ取っていた。


「…あの。聖女様は、大丈夫、ですよね。これまで多くの災竜を倒してきた方ですし」


と、ずっと黙っていたのを肯定と受け取ったのか、そう人々が呟き出す。


(それにしても…)


彼らには確かに不安と恐怖がある。けれど、一つにまとまってここでジッと出来ている。

恐怖に喚いたり、暴れ出したりしていない。人の集団としては、かなり冷静だ。


「ペム?」


「…そういえば」


冷静といえば、自分たちもそうだ。

良い加減災竜に慣れたとまでは言わないが、災竜を前にこう熟考出来ている。

こうなったのは、何となくあの時からだ。


「…メルリの、祈り…」


『聖女の奇跡』が起こした、鎮魂の可視化。あれによって降った、光の雨を浴びてから。

まさか、この落ち着いた人々も、『聖女の奇跡』の賜物なのではないだろうか。


「…ムゥっ!」


と、ペミーが災竜を耳で指す。

青い災竜が、二つの空船の屋根から飛び上がった。風と振動が、離れたここまでやってくる。

災竜は飛び上がった後、少し横の地面に腰を下ろした。そして、前足を組んで座り込んだのだ。


「…なんだ?」


広まった疑問と困惑の答えを、こちらに走ってくるカイが、持っているのだろうと思った。


———


「…あれ、聞こえなかった?えっと…竜を祀る島に、君たちを招待しようと…」


「ちょ、ちょっと待って!」


何も言えない私達を見て、災竜が困惑する。その合間に、エルギオが声を上げた。

驚愕と衝撃を受けながら、なぜか冷静な心で、青い災竜を見据える。

彼はまず間違いなく敵ではない。理性もあるし、性格もエリクの様ではない。

それに何より、彼が言った言葉だ。


「竜を祀る島、って…」


「君たち聖女の目標、だよね?」


エルギオの続きを、飄々と青い災竜が言う。

そう、確かにそれは私たちの目標だ。

ハーマレーの空読み様が、神降ろしによって告げた言葉。三つの聖痕を集めよ、さすれば竜を祀る島への扉が開く、と。

そして現に、自分達は聖痕を三つ集めた。


「…だから、聖痕を集めたから、迎えに来た?」


「そう。迎えに来るまでに、数日かかっちゃったけどね」


エルギオとカイが、一つ一つ確認していく。

それでも、疑問は拭えない。


「何で…なんで、分かるんですか。私たちが聖痕を集めたと」


震えそうになる声を抑えて、災竜に問いかける。

真っ当な問いだ。そういう力を、災竜が持っているのだろうか。

けれど、そう聞いた途端、災竜は申し訳なさそうに目を逸らした。


「あー…まあ……見たからとしか言えないけど…。でも、害意があった訳じゃ決して!…あ、もしかして誠意とか、示した方が良いのかな」


言いながら、彼は何かに気づいたのか咳払いをした。

そして、次にその口から出た声は、先ほどまでより厳かな物だった。


「おほん…聖女様御一行。我ら竜の司祭より、お招きです。直ぐにとは言いませんが、一緒に来て頂きたいです」


そう言って、災竜は飛び上がると、空船の横に座り込んだ。


「ぜひ、ご一考、お願いします。…で、良いかな?」


「……」


私の疑問について、何だかはぐらかされた気もするけど。

けれど断る事もできなかった。何より竜を祀る島を、探す手間が省けたのもある。

ともかく私たちは、事情を説明する為に、みんなと頭を突き合わせる羽目になった。


「大丈夫なのか、メルリ?」


「大丈夫、だと思う。少なくとも、アドルオさんと似たのを感じるし」


ダックさんとペミーに説明する為、走り出す前のカイの疑問に答える。

害意はないどころか、なるべくこちらを怖がらせない様にという、親切心も感じる。

レイナやアドルオさんの様に、上手くやれば災竜とは付き合えるのだ。そもそもが、人間の為の力なのだし。


「……」


ふと見ると、青い災竜は、私とカイの横を見ていた。

エルギオとメーレンさんが話している所を。そして彼は、何かに耐える様に目を細めた。

けれどそれは一瞬のことで、直ぐに彼から憂いは消えた。



「ああそうだ、忘れるところだった」


「…?」


ダックさんとペミーをカイが連れてきた頃、災竜が思い出した様に言った。


「自己紹介です。僕…の名前はカザリス・ドラメル・タンテー。竜名はノイジー・レコーダー、です」


以後お見知り置きを、と続けて。


———


空読み様の予言が、一部一般公開されていたのは、運が良かった。

多くの人々が、聖女が聖痕なるものを集めていること、北の果ての島に向かっている事を知っていたのだ。

だから、ある程度の事情を説明することができた。


「…じゃあ、あの災竜、は…」


「はい。皆さんに牙を向くことは、絶対にありません」


メルリの断言を以て、恐怖と困惑は鳴りを潜める。人々は、一先ずは安心した様だ。


「そんな訳で、俺たちは明日、あの災竜に着いていく事になる。だから後の事は頼む」


カイが続けて人々に言う。魂柱の整備の仕上げやら、起こった事の報告やら、自分たちでは出来ないことを任せていく。


結局その日はフェキシフトで一夜を明かした。

災竜が近くまで居るのに、多くの人々が無事に安眠できた。

彼らの落ち着きようは、ダックさん曰く『聖女の奇跡』の賜物らしい。


「…竜を祀る島、か…」


地べたに広げた簡易寝床に寝転がりながら、空を見上げて呟く。

空読みの予言は、自分達をその島に行く様に言った。そこには何があるのだろう。

この、『竜の奇跡』(自分のちから)についても、何かあるのかも知れない。


ふと起き上がって、空船の横の災竜に目を向ける。体を昼より丸めて、静かに眠っている。


(分からないことが多い…けど…)


竜を祀る島に行けば、何かが分かる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ