幕外4、外から内へ、内から外へ
何もない、昏い空間。そこでアドルオ・ドラメルは、久しぶりの気まずさを味わっていた。
「えっと…レイナ、さん」
「なん、ですか…アドルオ、様…」
この通り、一緒にいるレイナと、会話が弾まないのだ。
そもそも生前では、話した事もない相手だ。自分は、自分に致命傷を与えた彼のように、誰とでも楽しんで会話する事ができない。
「様は、要りません…名前で呼んでもらって、大丈夫です」
「えっと…はい、分かりました」
それに、相手のレイナも会話が得意ではないのだ。
二人をここへ連れて来た見えない竜は、いつの間にか居なくなっていたし、会話の種も見つけられない。
そんな訳で、微妙な距離感の会話が続いていた。だからと言って、何も無いこの空間では、何もする事がない。
「……」
「……ん?この音は」
その時、何かが降ってくる音がした。その姿が、頭上にすぐ見える。
緑色の同族だった。状況から考えて、彼も聖女らに聖痕を渡したのだろう。
「…ぐえっ!いったぁ…ここどこ…?」
しかしその相手が誰だかわかった瞬間、アドルオは、そしてレイナも顔を歪めていた。
一族の中でも、悪名だかかった変態だったからだ。
「エリク……」
「…あ、思い出した。僕カイに殺されたんだ!はぁあああ?意味わかんないんだけど!なんで?何でカイに殺されなきゃいけないの!?」
「……アドルオ、さ…いや……」
レイナが、エリクから隠れるように、アドルオの後ろに身を屈める。様、と言いかけて止めてくれたのは、彼女なりの歩み寄り方だろう。
「エリク…あなたは…」
レイナを守りながら、彼に話しかける。エリクは、彼女にとって毒すぎる。
けれどその前に、幾度と聞いたあの声が響いた。
「…揃ったね」
「っ!あなたは」
目に見えぬ筈なのに、確かにそこにいるとわかる、少し若い竜。
いつの間にかその場に現れた彼(?)は、アドルオとレイナ、そして未だ怒っているエリクを見回した。
「時が近づいて来たんだ。ここから外に出る時が」
「え、何?君誰?どこからどこへって?っていうかここどこ!?」
今になって見えぬ竜に気づいたエリクが、言葉を並べて詰め寄る。
恐らく、アドルオとレイナのことは、眼中にすらない。
「……ここはいわば膜の中だ。正式な手順を踏まずに、溶けることのできぬ者たちが集まるね」
見えぬ竜は、厳かに答える。言っている内容はよく分からないが、彼の声には是非も言わせぬ強い力があった。
「君たちはもうすぐ、この膜の内から外へ出るんだ」
彼の重さを感じ取ったのか、あるエリクさえ黙り込む。
それを確認した見えぬ竜は、咳払いを一つして続ける。
「……そしてそれはある意味、マクの外から内へ戻る、という事でもある」
膜の内から外へ。そしてマクの外から内へ。
その変化は、ドラメル族長の子へ向けた、最も大きな試練。
——聖女らの旅は、大きな転換点を迎えようとしていた。
幕外4 終
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