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聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
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21、その墓標に黄昏を

観光船を呼び戻すために、空岸へ向かう途中、私達は情報の整理をした。


「…つまり、カイの『剣の加護』は聖痕とか関係なく…」


「元から宿っていた、という事だ。フェキシフトの次期島主なら、宿っていてもおかしくは無いが…」


カイは、元々『加護』保持者だった。聖痕によって『耳拳の奇跡』を覚醒させた、ペミーと少し近いかもしれない。

ダックさんは『譲命の奇跡』をもっているし、私もさっき聖痕を得た。

エルギオの竜の力も『奇跡』なのだから。


「…全員『加護』か『奇跡』持ちなんだ。なんだか、すごい事になったね」


「まあいいんじゃない?聖女一行って感じだし」


「肝心のメルリのは、まだどんなものかも分かってねぇけどな」


そういえばそうだ。

ダックさんとペミーの時のことから見て、聖痕が宿っても、すぐに『奇跡』が使えるとは限らないのだ。

何か機会があるのか、それとも偶然なのか。


「…それにしても、良かったの、エルギオ。その、聖痕を…」


その先の言葉を、エルギオは察して微妙な表情を作る。相変わらず、彼は察しが良い。


「良いんだ。エリクは…レイナやアドルオさんと違って、人間への害意があったから」


聖痕は集めたい。けれど、己の力に苦悩するドラメル族たちを、殺したくない。

だから、殺さずに救える方法を探していた。それが、エルギオの目的の一つだった。


「…でもそうだよね。害があるからって、目的を蔑ろにしたのは良くないし…」


「別に良いんじゃね?それってあいつが悪かったから、こっちも対抗したって事だろ?相手によって態度を変えるなんて、みんなやってることじゃねぇか」


下を向いたエルギオに、カイが助け舟を出した。それに、と彼は笑って続ける。


「エルギオは、俺の()()()()に協力してくれたんだ。そこに何も、悪い事なんてねぇよ」


「……カイ」


言われたエルギオは、少し悩んだ後、迷いが晴れたようにお礼を言って、笑った。


———


空岸で、遠くに止まった空船二つに信号を送る。

不安そうだった観光客達や、サンデさんとメーレンさんに事情を説明する。

災竜を倒したと言うと、最早言うまでもなく担がれた。

そして、同時にカイの血筋もバラした。彼切っての願いだった。


「フェキシフトのみんなの為に生きるんだ。だから、これからはこの名前をしっかり背負っていきたいって、思ってな」


彼の出自で、二度目の衝撃が客の間に走り、やがて再び、歓声が広がる。

それで、二人の空船長と相談した結果、再び島跡内に戻る事になった。


「大きな岩山があったでしょう?それを魂柱代わりに、祈りを捧げたいと言い出した方が居まして…」


そう、サンデさんが切り出したからだ。

流石に悩んだ。

あの岩山は、観光客達が見たものより細くなってるし、しかも文字まで彫ってあるのだ。

どうやってやったか聞かれたら、エルギオの事がバレてしまう。


「緊張することも無いだろう。見えなかっただけで、元から彫ってあったと言えばいい」


ダックさんが、そんな爆弾発言をした。

観光の時は屍人騒ぎで、誰も岩山などしっかり見ていなかっただろうと言う、予測の上らしい。

それはそうかもしれないけど、いやでもどうだろう。


「元々、設置者不明の岩山なのだろう?」


筋が通っている。私たちは頷くしかなかった。そんな訳で、少し削れているのは見間違い。彫ってある文字は、岩山を立てた誰かが書いたものという事になった。


「…そうかなぁ。あんな文字、元々無かったような…?」


他の客は納得したが、サンデさんだけは思い切り怪しんでいた。

あの人、意外な所で鋭くて少し怖い。

とまあ、そんな訳で私たちは再び元岩山の、魂柱の所に戻ってきた。


「では聖女様。鎮魂の祈りをお願いします」


「はい」


重く呟く。

元々聖女には、災竜被害に遭った人々へ、鎮魂の祈りを捧げる義務がある。祈りの言葉も、覚えさせられた。


けれど、最後にしっかりやったのは、ムロリメロ島の時だ。

ハーマレーではそれどころじゃ無かったし、コンボボロでは人への被害はなかった。

ケイオールではそもそも様式がメムリット式だったので、祈りの言葉自体も簡略化したものだったのだ。


(しっかりやれるかな…いや、やるしか無いか)


覚悟を決めた時、胸の奥がドクンとなった。そこから何か、温かいものが溢れてくる。


(これは…もしかして!)


ダックさんから聞いたことを思い出す。

そこで、自分の身体がぼんやりと光っているのに気づいた。

静かな驚愕と衝撃が、周りの人に走っているのを、感じる。

それでも私は、祈りの言葉を紡ぎ出した。


「…『聖女の奇跡』です、か……」


聞こえた声は、サンデさんのもの。

それと同時に、私の周りを中心に、白い光が幾つも現れ出した。


「これは…」


その場の誰もが感じた。その光の暖かさと、寂しさを。

誰もが悟った。大量に浮かぶこの光達は、彷徨っていた人々の魂なのだと。


「…鎮魂の、祈り…」


誰かが、そう呟いた。

私が紡ぐ言葉に合わせて、魂たちは魂柱の周りを回り出す。やがて柱のてっぺんまで、登り出した。

まるで、死した先の世界へ向かうように。


「祈りの言葉が…可視化されているのか…?」


柱の頂上に屯った魂たちは、一度だけ再び地表に降りると、今度は一気に空へ飛び出して行った。

まるで、この世界への最後の憂いを振り払ったかのように。


「…ああ…」


ソラへと昇る直前、魂たちは一回り小さい光を、空中に残した。それはまるで、蜥蜴の脱皮のようだった。

残された光は、雨のようにゆっくりと地表に降り出す。


「……みんな、行ったんだ…」


空を見上げながら、カイが呆然と呟く。その瞳には涙が浮かんでいるが、口は笑みを浮かべている。

空から降る光が、祈りを捧げる人々に、優しく降り注ぐ。


「——白き命は、夢の国へ。黒き命は、忘却の国へ。生ける命は、黄昏へ」


鎮魂の言葉の、その最後の節を唱え終える。

太陽が奈落の方へ落ちていく。考えてみれば、大慌てでハーマレーから出てから、まだ一日も経っていないのだ。


「…これで終わりです。ご清聴、ありがとうございました」


人々に振り返って言う。瞬間、拍手と静かな歓声が私を包む。彼らからすれば私は、本当に奇跡を起こした聖女なのだから。

実際はその『奇跡』は、今さっき手に入れたものなのだが。

群がってくる人々を一旦遠ざけて、少し離れたみんな所へ行く。


「メルリ、お疲れ様」


「祝詞、しっかり覚えていたな。偉いぞ」


「それは当たり前だってば、ダックさんったらもう」


いつものように、軽い言葉を言い合う。

肩から荷が降りたように、気持ちが軽い。けれどそれと同じくらい、身体の方は少し重い。

『奇跡』を使った反動だろう。


「…今のが『奇跡』の効果、で良いんだよね」


「うん、多分。…鎮魂の可視化、だと思う」


隠す必要は無いのだろうが、念の為周りに聞こえぬような、小さい声でそう言った。

と、話しかけてこなかったカイの方を見る。彼は未だ、魂が登って行った空を見上げていた。


「…カイ」


「……ん、なんだ?」


遠慮がちに呼ぶと、いつもの彼の調子で返ってきた。


「もう、いいの?」


「…ああ。言いたい事は、もう全部言ったしな。復讐も…旅の目的も成っちまったし」 


少し寂しそうに言う彼に何かを言おうとした時、でも、と彼の言葉が続いた。

同時に彼の手が、剣の魂柱へ、空へ伸ばされる。


「…でも、ここで終わりじゃ無いんだ。…ここから、俺が始めるんだ、俺の鎮魂の旅を。だからさ、メルリ」


静かに降り続ける光を、カイの掌が優しく包む。そして、私たちの方に振り返る。

その顔には、絶望と苦悩を乗り越えた、確かな強い笑みが浮かんでいて。


「…俺はカイルス・フェキシフト。改めて、よろしくな」


違う目的もしがらみもない、本当の意味での仲間になった事を示す、自己紹介。

伸ばされた手を、私は感慨と共に握った。


剣のような魂柱。

かつての島を示す、その墓標に黄昏を纏った魂の光が、いつまでも降り続けていた。

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