表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ドラメルと最後の竜  作者: 創作草
第六章 その墓標に黄昏を
100/167

19、クレイジー・コレクター

産まれた一族のお陰か、小さな頃から特に不自由はなかった。それが理由だとは思わないけれど、自分は怠惰な存在だった。

来る竜名授与の儀式にも、『奇跡』発露の儀式にも、何も興味を示さなかった。


(なんか…つまんないな……)


けれど、そんな日々は早々に終わった。人生の転機というものは、突然やって来るものだった。

運び虫、という虫がいた。暖期から寒期にかけて食糧を運び集めることから、そう名付けられていた。


(……)


地面の上を並んで食糧を運ぶ虫達を、なんとも無しに見下ろす。そして、ほんの興味でそこに指を下ろしてみた。

そんなつもりはなかった。けれど勢い余って、虫は潰れてしまった。


(あっ)


その時。身体中を、電流のような衝撃が走った。それはとても甘美で、二度と忘れられなかった。

後にそれが、興奮であり高揚であると知った。



初めて災竜になった時、その視線の高さに驚いた。

周りで見ていた家族や友人が、人の姿のまま集まって来た。鱗の色が良いだのなんだの、口々に話していた。


(今ここで手を振り下ろしたら…)


家族や友人も、あの虫みたいにプチッと潰れるのだろうか。

そう思うと、あの衝撃が再び身体中を駆け巡った。想像しただけで、興奮が抑えられなかった。


(いつか……)


人も動物も、竜の自分と比べたらとてつもなく小さい。潰せば、あの虫のようにプチッと逝くだろう。

あの興奮を再び感じたい。あの高揚に、再び酔いしれたい。

潰したい。殺したい。

一族の役目がなければ、この衝動を抑えないのに。


「エリク。君の竜名はクレイジー・コレクターに決まった。以後、一族や人の為に励むように」


そう言った司祭の言葉を、やんわりと無視した。



人殺しの衝動を、必死に抑えながら、適当に仕事をこなす日々。それが続いたある日、『大災害』が起こった。

神との約束を、族長が破ったからだとかなんとかあって、全員が理性を失った。

自分も、気づいた時には沢山の人間を殺していた。


(嘘、でしょ…?)


後悔した。

なんで、理性を失ってしまったんだ。

お陰で、人を殺す瞬間を、その感触を、感じられなかった。

次からは、理性をしっかり保とうと思った。



「た、たすけてええぇ!誰か、助けぁっ」


叫ぶニンゲンを無慈悲に潰す。気持ちのいい感触が、掌から伝わる。

あれから、なるべく人間に興味がないフリをした。殺すの時の快感を、最大限味わいたかったから。

能力も、極力使わなかった。味わいたいのは、感触だから。


「…今はこれくらいでいっか」


手に付いた血を拭って、その場を後にする。どこかの島の、どこかの村。その住民の半数を潰した。

殺り過ぎると、人間は簡単に滅んでしまう。だから数はなるべく絞ることにした。


「…さて、次はどこに行こっかなー」


何年も、何年もそんな日々を続けた。

潰した人間の数は、数えきれない。思ったより数が増えるのが遅くて、途中から更に数を絞ったせいもあるだろう。

そしてある日、フェキシフトに寄った時に、同胞にあった。


「あれ、カザっち。久しぶりだね」


自分がそう呼ぶ彼は、同胞の中でも情報通と呼ばれていた。人に化けて、世界情勢を探っているのだという。

僕の趣味を手伝って欲しいと頼んだが、速攻で断られた。


「変態と長く関わりたくないんで、要件言ってすぐ去るから」


「えー、いけずー」


仕方ない。情報源は別に探そう。

情報通の彼は、自分に司祭からの予言を伝えに来たという。

それは二年後、自分が聖女によって殺されるという内容だった。


「…ふーん」


「要件は済んだからね。それじゃ」


去っていく彼はもう眼中にない。

聖女か。世界を災い(ぼくら)から救う存在。

潰してみれば、一体どんな感触なのだろう。知りたい。味わいたい。


「……は?」


(……え?)


未来の人潰しに興奮していたからか、それに気付かなかった。

いつの間にか空岸にいた人間に、姿を見られたのだった。



変な人間だった。

よく分からないが、襲おうと思ってた島を恨んでいるらしい。

利害が一致して、島の防衛機構を教えてもらった。


(…楽しそー)


嬉々として島の内部情報をゲロる、アゴルと名乗った人間を見つめる。

情報源以上の存在じゃないし、特に何も思わない。

強いて言えば、その執念は少し怖いと思った。



フェキシフトの機構は予想以上で、本気で殺らなきゃ殺られていた。

そんなもんだから、フェキシフトは滅んでしまった。

もちろん、一眼見て大好きになったカイを除いて。


「は、はは…」


「…気色悪いよ」


大量の死体の上で、アゴルが笑い出した。

怖いと思っていたが、やっぱり自分とは方向性の違う狂人だったのだろう。

死体の上で笑うなんて、自分には無理だ。そんな趣味はない。



その後は、理由もないけど彼と共にいた。彼といれば、情報がたくさん入ってくるからだ。性格はヤバいし、情報以外は何も役に立たなかったけれど。


「…………」


けれど、それでも情報は正確だった。カイがどこで何してるのかを、しっかり見つけてくれた。


「待っててね、カイ!」


しかもカイは、あの聖女と一緒にいるのだという。

カイは島主の子だ。潰したら、どんな快楽を味わえるだろう。

一回全てを奪って絶望させてから、やり返しに来た所を一息に行くのだ。

今から楽しみだ。

そんなこんなで、カイを今度こそ潰すために色々やって来たのだが…。


「…ねぇ、なんなの。お前」


———


「…ねぇ。なんなの、お前」


爪や牙の攻防を二十合ほど続けた時、苛立ちを隠さない声でエリクが言った。先程までの飄々とした態度とは、似ても似つかない。


「…それがお前の本性か」


「は?本性ってなに?こっちはただイラついてるんだけど?」


距離をとって、エリクが言い捨てる。そのままペラペラと話し出した。


「確かにさ、最初は楽しんでたし本気も出してたよ?けどそれは君を潰すのが、カイを潰すのが楽しみだったからで。こんなつまらない闘いの為じゃないの。分かる!?」


そこまで一息に言うと、エリクは腰を落として口を開いた。


「…もういい。一気に終わらせる」

『——!!』


エリクの言葉と、彼の口元から発せれた高い音が重なる。

彼は一体何を、これは。


「エルギオっ!」


「…っ!」


声の主はカイ。それで咄嗟に、それが何の予備動作か察する。

そして僕は横でも後ろでもなく、前に跳んだ。そしてそのまま、エリクにぶつかっていく。


「っ!?」


「それがっ…君の力か!」


『王の本領』で増幅した腕力を全て注ぎ込んで、エリクの首を無理やり空中に逸らす。

次の瞬間。彼の口から発せられた青白い光が、僕の右腕を掠めて空へ放たれた。


ズウウン。

光から一瞬遅れて、轟音と暴風。空へ飛んだ光は、雲を貫いてその向こうへ消えていった。


「ぐっ…!」


掠めただけなのに、肩の部分が焼け焦げ、煙を上げている。まともに食らっていたら言わずもがな、メルリたちに撃たれていても負けていた。

今のが、フェキシフトを滅ぼした彼の力。島主館を瓦礫に変えた攻撃だった。


「何今の…人間の声に合わせて動いたの…?意味分かんない、反則でしょ…!」


腕の中で抑えこまれているエリクが、そう零す。


「反則じゃない。これが僕らの本来の在り方なんだ、エリク」


強大な力を持っているドラメル族でも、人間と一緒に歩めるのだ。歩もうと、していいのだと思いたい。

それに、僕らの竜の力は元々、人間のためのもので。僕らが人間と共に歩む為の物だから。


「はぁああああ!?これじゃ、僕の負けじゃん!あああうざい!死ね!死ねよお前!なんで?何で僕が負けるの?嫌だ嫌だいやだ!カイに会いたい!カイを潰したいよ!」


体勢を変え、喚き続けるエリクの四肢の自由を完全に奪う。

エリクに、背中の気配を感じた僕はいった。


「…じゃあ、会わせてあげるよ。約束だし」


「約束?なんの——」


言い終わる前に、背中から頭まで走って来た気配が、頭から宙へ跳んだ。

エリクは見ただろう。太陽を背に、剣を両手で構えたカイが、自分に向かって落ちてくるのを。


「…決めたんだよ。絶対生き延びて、やり返すって!」


その剣に宿るは『剣の加護』。どんな物であれ、断ち切ってしまう力。

たとえそれが、硬い竜の鱗であっても。


「——ぁ…」


軽い音。エリクの声が小さく漏れた時には、彼の首は斬り落とされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ